第4話 ルールの変更を求む。

 俺は宿に戻り、早速隊長へ報告に行った。 部屋の中に隊長は居たが、他の二人は買い物に出掛けているらしい。 全員に俺の活躍を聞かせてやろうと思ったのだが、居ないのなら仕方がない。 隊長にだけ話すとしよう。


「んで、今度こそ聞いて来たんだろうなぁ?」


「はい、もうバッチリです。 これも全ては俺の頑張りによるものですから、隊長は俺に感謝してくださいね。 それはもうドーンと誉めてください。」


「ルールを聞いて来るだけの事に、何で俺がお前に感謝せにゃならんのだ! 良いから伝える事を伝えろや!」


「何を言ってるのですか。 隊長が部屋でゴロゴロしている間に、俺は炎天下の中、必死で工事の手伝いをしていたんですからね。 そのおかげでルール作りも間に合ったし、この大会が行われるのも俺のおかげと言って良いでしょう。 さあ感謝してください!」


「お前は一体何を言ってるんだ? 何だか分からんが、兎に角ルールの詳細を教えろよ。 お前、本当にちゃんと聞いて来たんだろうな?」


 隊長には理解して貰えなかったらしい、あれだけ頑張ったというのに悲しい事だ。 もしかしたら、頭まで鳥になってしまったのだろうか?


「まだ俺の活躍を吹聴したい所ですが、まあ良いでしょう。 隊長は床にでも正座して聞いていてください。」


「お前なんでそんな偉そうなんだ? お前の自慢話なんてどうでも良いから、チャッチャっと話せ、チャッチャとよ!」


「それじゃあ言いますよ。 良いですか、今回行われるのは個人戦とタッグ戦で両トーナメントは別で行われます。 戦うのは個人戦二人とタッグ戦二人ですね。」


「ふむ、タッグ戦はあの二人に任せても良さそうだな。 じゃあ他に重要なものはあるのか?」


「え~っとですね。 今回は国同士の戦いになるので、間違っても殺しは無しです。 変に殺して、その国と険悪になっても知りませんから、気を付けてくださいね。 あと殺したら負けです。」


「まあそうなるわな。 ちっとばかりフレーレの奴がやり過ぎないか心配だが、まあこんな大会でやり過ぎないと思いたいな。 それじゃルールはそれだけか?」


「いえ、まだあります。 隊長とエルは飛べますけど、他の人は飛べないので飛ぶのは無しです。 あとは武器に関してですね。 大会では木剣を使用するようですよ。 槍とか斧とか、使いたいならそれっぽく成型して作るらしいので、剣以外が使いたいなら届け出が必要ですね。」


「空中も無しかよ。 それと木剣だと? エルの奴も不利になりそうだな。 はぁ、まあしょうがねぇな、じゃあそれで最後か?」


「あ、もう一つあります。 王国の俺達には、片手に三十キロの重りが付けられるそうです。 両腕だから六十キロですね。」


「はぁ? お前、それ聞かされて何にも言わなかったのか?! そんなもん付けられて真面に剣を振れると思ってんのか! お前もう一度本部へ行って来い。 全部無くせとは言わんが、もちっと重さを減らして貰ってこいや!」


 実は俺とフレーレにとってはそれ程問題は無かったのだが、隊長とエルには辛い枷なのだろう。


「え~・・・・・。 まあ行って来ても良いんですけど、それはそれで不味くないですか? ほら、そんな程度の重りを付けたら動けなくなるとか、他国に知られたら不味くないですか?」


「あのな、結局そんなの付けて大会で動けなくなりゃ一緒だろうが。 良いからとっとと行って来いや!」


「へ~い。」


 俺は隊長に追い出されてしまった。 俺は会場に足を運ぶと、運営に居たノアに話をしに行った。


「すみません。 ノアさん居ますか?」


「おお、バールさんじゃないですか! 貴方のおかげで会場の方も随分進みましたよ。 残りは細かい所なので、十分に間に合いそうです。 それで、今日も手伝いに来てくれたのでしょうか?」


「いやいや、そうじゃなくてですね。 今日は隊長に頼まれて頼み事をしに来たんですよ。 工事を手伝ったよしみで話を聞いてくれませんか?」


「貴方の頼みならば聞きましょう! 私の出来る事ならどんな事でも!」   


「ありがとうございます、実は・・・・・。」


 俺が重りの事を伝えると、ノアさんは顔をしかめて悩み始めた。 顔を見る限り、それは難しい事なのだろうか?


「バールさん、重りを付けるのを指定されたのはマリーヌ様なのですよ。 重量の指定はされませんでしたが、ある程度の重りは付けて貰う事になると思います。 今のままで納得してくれませんか?」


「いや、流石に両手で六十キロはやり過ぎかと、王国の人間は相当制限が掛けられていますし、もう少しだけでも軽減をお願いします。 そんなのでは剣も振れませんから。」


 俺の頼みに暫く悩み、ノアさんが決意して顔を上げた。


「・・・・・分かりました、他ならぬバールさんの頼みであるなら、もう一度陛下に進言してみましょう。 ただ、私ではあまり強い事は言えませんので、無理だったなら諦めてください。」


「はい、それで構いません。 どうもありがとうございました。」


 ノアさんは早速マリーヌ王に会いに城へと向かって行った。 俺はノアさんの帰りを待ち続け、そしてノアさんが帰って来た。


「バールさん、私はやりましたよ! マリーヌ様に、片腕三十キロで納得してもらえました! 」


「おおおおお、やりましたねノアさん! これで俺達は何とか戦える様になりました! じゃあ早速報告に行きますね。 本当にありがとうございました!」


「はい、貴方達の活躍を期待しています!」


 俺が隊長に報告しに戻った。


「お、帰ったか。 ちゃんと仕事して来たんだろうな?」


「はい、バッチリ減らして来ました。 片腕三十キロで許可が出ましたよ。」


「・・・・・どうせなら十五キロずつ分けてくれた方がバランスが取れたんだが、片腕が自由になるのなら悪くねぇのか?」


「隊長、これ以上は文句言わないでくださいね。 実は重りの件はマリーヌ様が提案されたらしいので、これ以上は無理ですよ。」


「うッ、そうか、ならこれで納得するしかねぇな。 分かった、んじゃ下がって良いぞ。 試合当日まで部屋で大人しくしていろよ。


 マリーヌ様の名前を出すと隊長は渋々納得してくれたらしい。 他国とはいえ、同盟の王の命令は聞かなければならない。 それがどんなに理不尽な事でも。




 そしてトーナメントの開催日がやって来た。 俺達は会場へと入り、開会式の挨拶を聞いていた。

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