21 孤独な朝

 甲に触れる冷たいシーツの感触にゆっくり目を開ける。

 まだ覚醒し切らない頭で、そこに居るはずの存在を探す。しかし、彼女の温もりは無い。ゆるゆると頭を上げて部屋の中を見回しても、人影は見えない。


 すべて夢だったのだろうか。

 だが腰のだるさとベッドに散らかったコンドームが、そうではないと告げている。

 廉司は再び枕に頭を横たえ、額に手を当てた。


「……」


 まただ。また捕まえ損ねた。

 初めての夜もそうだった。自分がしっかりしていれば閉じ込めておくことなど容易いはずなのに。

 彼女と共に果て、意識を飛ばした小さな体を抱きしめたところから記憶がない。多忙な日々に加え、一花との交わりに夢中になって体力を根こそぎ使い切ってしまうせいか吸い込まれるように眠りに落ちていく。

 そして一人で淋しく朝を迎える。


 万全の体力で望めないのも悔やまれるが、一花の回復の早さが不思議でならない。

 彼女には門限がある。

 だが、そんなものに間に合わせるほど手加減をしてやったつもりはない。

 そこら辺のホステスに与える何倍、いや何十倍もの快楽を刻みつけてやっているはずなのに。おかしい。


「くそ…っ」


 一花が使っていた枕に顔を埋め、悪態をつく。


 会ったばかりだというのに、彼女が傍にいないことを自覚した途端ネガティブな感情が頭をもたげて暴れ出す。


 俺の傍を離れて今どこにいる?

 俺にメールも返さず何をしている?

 俺以外の人間と言葉を交わし、あの笑顔を見せているのか?


 不安、焦燥、独占欲。


 自分の弱さを認めたくなくて強がってみても、一日と持たない。

 気にしないと決めたはずのメールボックスを指が勝手に開き、彼女からの連絡が無い事に落胆し、「昨日の文面が悪かったのかもしれない」と新しい糸口を模索する。

 そうしてまた、返事の来ないメールを送る。わかっていても止められない。

 たとえ一方的であっても、彼女に対する狂おしいまでの想いを伝え続けていないと不安で仕方がない。


 言葉で。行動で。

 これ以上ないほど表現しているつもりなのに。


(俺だけなのか?)


 とらが理由とはいえ、雨の中、再び会いに来てくれたこと。

 外さずにいてくれたネックレス。

 朱く染まった頬。濡れた瞳。

 恥じらいながらも受け入れてくれた体。

 吐息交じりに自分を呼ぶ声。


 これだけ揃っていても。


(俺が自惚れてるだけだっていうのか?)


 眉間に皺を寄せ、全身の筋肉を強張らせた時、襖の向こうから夏目の声がした。

 遮光カーテンが閉められた寝室は暗いが、もうすでに昼は過ぎているだろう。髪を掻き毟りながら面倒くさそうに返事を返す。


 湿気た自分が情けなくなり、渋々体を起こす。


「今行く」


 そう言いながら、一つの動作を起こす前にメールボックスを開くことが癖になってしまった自分の指をへし折りたい気分になった。

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