§2 俺は道に迷ってしまった

 小学校を無事卒業し、春休みに入った最初の日。

 俺は図書館への道をため息つきながら歩いていた。


「あーあ、山下中学か」


 俺は私立の中学に行きたかった。

 でも親に断固として反対された。

 お金が勿体ないという理由で。


 藁にもすがる思いで受けた公立の中高一貫校は抽選で跳ねられた。

 さらに中学の学区内抽選も外れに外れた結果。

 一番近いが一番荒れていて評判の悪い市立山下中学への進学が決定。

 もう勘弁してくれという気分だ。


 家にいるのも鬱屈がたまるので図書館へ行こうと歩いている。

 でも歩いていても気が滅入る状態だ。

 これからの中学生活を考えると悪夢しか思い浮かばない。


 小学校ですら勉強など二の次、体力スポーツ至上って雰囲気だったのだ。

 俺や友人のように大学進学、それも出来るだけいい処なんて考えはごく少数。

 その少数の仲間もほとんどが私立中や公立一貫校へ行ってしまった。

 山下中なんて行くのは仲間では俺一人。


 もう何か勘弁して欲しい。

 というか全て嘘であって欲しい。

 残念ながらこれは現実なのだけれども。


 もうどっか行ってしまいたいと思いつつ大通りの角を曲がった時。

 ふと強烈な違和感を感じた。

 周りの街並みが見慣れたものと全く違っている。


 あわてて後を振り返る。

 見慣れた街並みはどこにも無かった。

 念の為Uターンして戻ってみる。

 変化無し。


 何が起きたのだ。

 テレポーテーションか神隠しかバミューダの三角地帯か。

 考えても全くわからない。


 パニックでも起こしそうな状況だが、生憎俺の性格はそんなに素直じゃ無い。

 この場を動かない方がいいか、それとも少しでも手がかりを求めて歩き回るか。

 考えつつ周りの街並みを観察する。


 建物は主に木造で、高くても二階建てまで。

 作りは日本の古い家にちょっと似ているが微妙にデザインが違うような。

 屋根も瓦のデザインが日本の物と違い、もっと平べったい感じだ。


 今いるのは道路らしいが舗装はされていない。

 広さはそこそこ広く、四車線の幹線道路程度。


 数人歩いている人の風体は俺が知っているものと違う。

 和服と洋服の折衷というのだろうか。

 浴衣とかに似た上と少しズボンっぽいデザインのボトム。   

 俺の知っている文化圏の服装では無い。

 顔立ちや髪型等は割と現代日本に近いけれど。


 異世界、異次元、そういう奴だろうか。

 通り過ぎる人はちらりと俺の方を見るが、あまり気にしない様子。

 ある意味それはありがたい。


 さて、この場にとどまっていても元の世界に戻れる気配は無さそうだ。

 そろそろ探索をすべきかなと思った時。


『そこ******方、私の声が聞こえ**か?』


 ふっと辺りを見回す。

 今のは俺に向けた台詞だろうか。

 でも声の主らしい者は見当たらない。

 一部意味がわからない単語も混じっているし。


『そこで迷っている方、私の声が聞こえますか?』


 今度はしっかり意味がわかった。

 そして気づいた。

 これは声じゃ無い。

 直接俺の表層思考あたまに届いている。

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