TPS

あさぎ珠璃

第1話

 その日、俺は通学路を自転車で爆走していた。

 夏休み明け初日にいきなり実施という鬼畜スケジュールの確認テスト。それが終わった解放感。

 そして何より、テスト前だからと母親に取り上げられていたゲーム機が戻ってくるのだ。

 これだけでも、俺が一分一秒でも早く自宅に帰り着きたい気持ちが理解してもらえると思う。


「たっだいまー!」

 足取りも軽く家の中に入ると、リビングのテーブルに愛しのブルーの箱を発見する。

「フーーーーーーーーーーーー! これで!!」

 俺は自身でも良く分からない雄叫おたけびを上げた。ハイテンションになった男子高校生の言動は意味不明と、相場が決まっているのだ。

「ちょっと大輔だいすけ、ちゃんと宿題やって明日の準備してからゲームしなさいよ」

 わが母はいつものことなのでいたって冷静だ。


 俺は自分の部屋にクソ重いカバンを投げ入れると、急いで制服を脱ぎ捨てた。いつも母にきちんとハンガーに掛けなさいと怒られるのだが、今日は仕方ない。友達を待たせるわけにはいかないのだ、と自分に言い訳をしてそのまま部屋着に着替える。

 音速でリビングに向かうと、光速でゲームの準備をした。


 準備完了、さっそく友達に参加申請を送る。このゲームは最大四人でチームを組んで敵と戦う、流行りのバトルロイヤル形式のサードパーソン・シューティングなのだ。

 もう少し細かく説明するなら、自分が操作するキャラの背中を見ながら、敵とドンパチする系といった感じ。


 わが家ではテスト一週間前からゲーム禁止と昔から決められている。

 俺にとっては運悪く、このゲームのサービス開始日がちょうど 一週間前だったのだ。まったく、呪われているとしか思えない。


「おー、だいちゃん初参戦おめ~~~! つーか、そのプレイヤー名なんだよ、ふざけてんの?」

 装着したヘッドセットから良く知った声が聴こえてくる。幼馴染のしゅんちゃんだ。ちなみに俺のプレイヤー名は『マグカップ』である。

「うぃっす、うぃっす。その辺にある物の名前をテキトーに付けたんだよ。それより俺、多分すぐ死ぬから。その時は気にせず俺のしかばねを越え……」

「オーケーオーケー、凄腕すごうでの助っ人を頼んであるから、大丈夫だって」


 ヤツは俺の決め台詞を途中でさえぎりやがった。だがしかし、助っ人って?

 そういえば、学校でもそんなことを言っていたような気がする。たしかゲームで知り合った同い年のヤツだとかなんとか。

 ほどなくして、俺達二人だったチームに新たなプレイヤーが加わった。

「こんちは」

 ソイツはボソボソしゃべるので非常に聞き取りにくかった。声の感じはいかにも陰キャっぽい。俺が言うのも何だけど。


「大ちゃん……じゃないや、『マグカップ』は今日が初めてだから、フォローしてやってよ」

 峻ちゃんはテスト勉強一夜漬け派なので初日からプレイしているはずだった。だが、まだ自分のことで手一杯らしい。超初心者の俺のおもりをしていたのでは、共倒れになってしまう。

「じゃあ、一通り説明するから。僕の後に付いてきて」

 陰キャは意外と偉そうな口調で言った。しかし俺に負けず劣らずゲーマーである峻ちゃんの推薦ということもあり、ゲームの腕は期待できそうだ。

「うっす、よろしくお願いしまっす!」

 俺はドキドキしながらスタンバイOKのボタンを押した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る