キャプテン・ミニー外伝Ⅲ マゼラン艦隊航海記 ❰あん時のpigafetta❱

Pigafetta

第1話〖聖書の百人隊長、再来〗

⚓La ópera de la era de los descubrimientos⛵


   ー始めに言葉ありきー


聖書にはこうある。


“イエスは、民衆にこれらの言葉をすべて話し終えてから、カファルナウムに入られた。


ところで、ある百人隊長に重んじられている部下が、病気で死にかかっていた。


イエスのことを聞いた百人隊長は、ユダヤ人の長老たちを使いにやって、部下を助けに来てくださるように頼んだ。


長老たちはイエスのもとに来て、熱心に願った。


『あの方は、そうしていただくのにふさわしい人です。 わたしたちユダヤ人を愛して、自ら会堂を建ててくれたのです』


そこで、イエスは一緒に出かけられた。

ところが、その家からほど遠からぬ所まで来たとき、百人隊長は友達を使いにやって言わせた。


『主よ、御足労には及びません。わたしはあなたを自分の屋根の下にお迎えできるような者ではありません。


ですから、わたしの方からお伺いするのさえふさわしくないと思いました。


ひと言おっしゃってください。

そして、わたしの僕をいやしてください。


わたしも権威の下に置かれている者ですが、わたしの下には兵隊がおり、一人に


行け


と言えば行きますし、他の一人に


来い


と言えば来ます。

また部下に


これをしろ


と言えば、そのとおりにします』


イエスはこれを聞いて感心し、従っていた群衆の方を振り向いて言われた。


『﴾言っておくが、イスラエルの中でさえ、わたしはこれほどの信仰を見たことがない﴿』


使いに行った人たちが家に帰ってみると、その部下は元気になっていた

❨ルカによる福音書 7:1‭-‬10 ❩


その約1500年後もまた………


         ⚪

         ⚪

         ⚪


貴族の若者「提督!

是非、私を提督の艦隊の乗組員にお加え下さい!

何でも致します」


偉大な提督🎩『駄目だ。

けいはまだ若い。

次回の航海は全員命懸けだ。

命を粗末にするな』


貴族の若者「確かに私は若輩者かもしれません。

しかし、提督のお役に立ちたいのです。

お役に立てるならこの身を焦がします。


どんな仕事でも致します。

海の果てであろうと、地の果てであろうと何処までも御伴します」


偉大な提督🎩『卿に汚ない仕事が出来るかな?

見たところ、卿は肩に貴族の証を付けているではないか』


貴族の若者「あ………こんなものいつでも棄てられます。

何なら今でも」


そう言って、貴族の若者は肩に付けてある貴族の紋章を、その場で棄てた。


偉大な提督🎩『………ほう。

覚悟は出来ている様だな。

卿は一体、何を得意としているのだ?


また、それは長期航海の役に立てる物なのか?』


貴族の若者「はい。

言語に興味がありまして、色々と外国語の通訳が出来ます。


他には地図製作も出来ます。

また、マメな性格なので航海日誌は毎日欠かさず書きます。


………後、これは関係ないかもしれませんが音楽。

ヴァイオリンが弾けます」


偉大な提督🎩『なるほど。

では卿に、我が艦隊に於ける入団の為の航海士テストをしよう。


聖書のどこでも良い、開かずに読み上げてみろ』


貴族の若者は聖書を開かず詩編をそのまま暗誦あんしょうしだした。

しかも、非常に流暢なラテン語であった。


偉大な提督はこれを聞いてとても感心し、ついに根負こんまけした。


偉大な提督🎩『これは驚いた。

狼狽うろたえて悄気しょげる者、航海に何の関係があるのだと憤る者が殆んどであったし、その様な者達は皆、不採用にしていたのだ。


卿は私を信じているのだな。

そして、それと同時に非常に信仰深い。


実は、今度の航海に於いて一番大切なのは、信じ通す心なのだ。

絶対にやり通す為には、完全に信じ切る程の信仰心が必要不可欠だ。


言っておくが、欧州の中でさえ、私は此程の敬虔なキリストしゃを見たことがない。


喜んで採用しよう。

常に私の側に居なさい』


貴族の若者はとても喜んだ。


貴族の若者「あっ!!

ありがとうございます!!!」


偉大な提督🎩『まだ卿の名前を聞いて無かったな。

名は何と言うのだ?』


貴族の若者「はい!

私の名は………………」


         ⚪

         ⚪

         ⚪


 ………………………ユリウス歴1517年9月。

イタリア・ジェノヴァにあるミンニ・ロッサ・トポリーナの邸の元に1通の手紙が届いた。

親しい友人からであった。


ミンニ・ロッサ🐭👒『あらっ!

ピガフェッタさんからだわ!

懐かしいわね。

彼、どうしてるのかしら?』

【※1】


ミンニ・ロッサが手紙を開くと、次の様に書いてあった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


📨❰†栄光在主

御名みなが崇められます様に

ミンニ・ロッサ・トポリーナ様へ


お久し振りです!

ミンニさん!


御無沙汰してます。

御元気でしょうか?

私は、お陰様ですこぶる体調が良いです。


以前、ミンニさんは今後、船舶での仕事の方向性を変更すると仰られてましたよね。


今までの交易船での海上貿易商人から、今度は冒険船での探検家へ切り換えると。


実は私も今度、長期の探検航海に出る運びとなりました。

イスパニアの船に乗船する事になったのです。


その折、ちょっと事情があって、名を変えて乗員登録しました。


アントニオ・ロンバルドの名で乗船します。

勿論、船に乗ったら直ぐに元のピガフェッタの名に戻しますが。


何故名を変えて乗船するのか?

その理由を説明します。


此度、救世主御誕生後西暦1517年の3月の頃です。

私はその頃、船の勉強をしにイスパニアの地に赴いていました。


私はガレー船に乗り、日々水夫の働き方や運航に関する基本的な知識を身に付けておりました。


その後二回の


誠に誠に思慮深い父なる神のお計らいが御座いました。


その時、聖霊様の聖なる御導きにより、誠に誠に心の底から尊敬出来る、偉大な提督との運命的な出会いを果たせたのです。


その御方は、既にイスパニア国より勅命を受けていました。


イスパニアの王で在らせられるドン・カルロス【カールⅤ世・後の神聖ローマ皇帝】の命により、新大陸の南端付近に存在すると云われている伝説の海峡を探索する予定であったのです。


私はその方に非常に興味を抱き、航海に御供出来ます様、直談判しました。


その結果、交渉説得に成功し、乗船許可を戴きました!

私は、この上ない慶びに満ち溢れ、感激しました!!


が、しかし、イスパニア国には、私の乗船を認めて貰えず………………まあ、要は、裏口入隊致しました。


その為、仮の名を名乗って登録したのです。

【※2】


その偉大な提督とは………………何とあの高名な、

葡萄牙鯱ポルトガルのシャチ”、

“軍神マルスの再来”

こと、マゼラン伯フェルディナンド提督なのであります!!


私は、マゼラン提督と云えば、ディーウ沖の海戦やマラッカ遠征等による壮絶な武勇伝と圧倒的な戦功により、


“軍人”

ですとか、

“武人”

ですとか、

“戦艦隊総指揮官”


といったイメージを描いてました。


しかし、会見してみて解ったのですが、実際のマゼラン提督は、確かにその様でありつつも、また違った雰囲気もかもし出して居りました。


私が、初めてマゼラン提督とお会いした時に直感的に感じた事は、あのお方はまるでメシア【救世主・イエスキリスト】!!


艦隊総指揮官さながら、我等の主であると思わずにいられませんでした。


そして、私はその時、マゼラン提督の独特の雰囲気に惹き込まれてしまい、すっかり魅せられてしまいました。


あの御方となら、どんな困難も乗り越えて行ける。

そう感じました!


航海に出たら、しばらく欧州に戻って来れません。


もしかしたら、1年どころか2年近く………………。

或いは………………………。

………………………正直、見当付きません。


出港は、再来年【ユリウス歴1519年】の夏~秋の頃になりそうです。


その前に是非、この事をミンニさんに御伝えしたく思い、手紙をしたためました。


ミンニさん、私が再び欧州に帰国する迄の間、どうか御元気でいて下さいね。


そして、ミンニさん。

貴女の今後の航海に、神の祝福が在ります様に御祈りします。


御国が来ますように

父と子と聖霊の御名によって

アーメン‡



   貴女の友人 Antonio Pigafetta

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ミンニ・ロッサは手紙を読み終えた途端声を出して悦んだ。


ミンニ・ロッサ🐭👒『まあ!!!!

驚いたわ………………………!

何て素敵な事かしら!!!

直ぐに御返事を書かなきゃ!!』


ミンニ・ロッサは直ちに返信を書き始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


📨❰†シャローム

主の御名を賛美します。

アントニオ・ピガフェッタ様へ


ピガフェッタさん、お久し振りね!!

手紙を書いてくれて、ありがとう!

本当に嬉しかったわ!

突然の知らせにびっくりしたわよ!!


貴方が長期航海に出るなんて、想像すらしなかったわ。


だって貴方は、あの名家ピガフェッタ一族の家督を継ぐ跡取りじゃない!

万が一の事を考えたら、外洋航海になんか出れないわよね。


それを覚悟の上で………。

という事は、貴方は本当の意味での人生の目的を見付けたのね………………………!


何て素晴らしい事なんでしょう!!!

羨ましいわ!!

心から御祝い申し上げます!!


そして、もう一つ驚いた事が………………。

貴方の上司が、あの高名なマゼラン提督ですって?!


葡萄牙鯱ポルトガルのシャチこと、軍神マルスのマゼラン閣下よね?!


凄い!!!

凄過ぎるわ!!!

この欧州でマゼラン閣下の名を知らない人は居ないわよ!!


わ~~素敵………………。

マゼラン閣下………………!!


無敵・負け知らず・英雄・野獣ベスティアのマゼラン閣下………………………。


そんな通り名の閣下がメシア【救世主・イエス・キリスト】ですって?!

………………ドキドキ!!!

会ってみたいわぁ………………………。


………………………ねぇ、ピガフェッタさん。

出港まで未々時間があるわよね。

御願いがあるのだけど、良いかしら?


マゼラン閣下と是非一度、御話がしたいの。


久し振りに貴方とも会いたいし、三人で会談の機会を設けて頂く事は出来ないかしら?


マゼラン閣下に、どうか以下の通り宜しく御伝え下さいませ。


“ピガフェッタさんの友人で、ミンニ・ロッサ・トポリーナと申します。

現在、船で外洋探検をしている者で御座います。


私は以前から、御高名且つ武勇輝くマゼラン閣下に尊敬の念を抱き、敬慕致しておりました。


是非、閣下と直接御会いし、御話をさせて頂きたいのです。


つきましては御検討の程、宜しくお願い申し上げます”


と。


その時、何故貴方がイスパニアに公式な乗船許可を認めて貰えなかったのか、たっぷり聞かせて貰うわよ❤(笑)


それでは、また御会い出来る日まで、楽しみにしてるわね。

御体、呉々も御自愛下さい。


ハレルヤ

貴方に神の恵みが豊かに。

そしてとこしえに平和のあらん事を。

アーメン‡



   貴方の友人 Minni RossaTopolina

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ミンニ・ロッサは手紙を書くなり急いで飛脚に頼み手紙を出した。

【※3】


その後、お互い数回の手紙のやり取りをし、1518年9月20日の昼に三人で落ち合う約束を取り付けた。


その場所とは、イスパニア王国のバルセロナで、港の近くの旅籠屋で待ち合わせする事となった。


………………………第2話へ続く


第1話 注釈解説


【※1】

▷アントニオ・ピガフェッタ………

(Antonio Pigafetta、1491年 - 1534年)


この話の主人公。

マゼラン艦隊では主に通訳兼地図製作に携わった。

178cm63kg。


ユリウス歴1517年の時点では26歳。

イタリア・ヴェネツィア共和国ヴィチェンツァ出身。


イタリア有数の大富豪の息子。

パトリツィオ貴族である。


ピガフェッタ家は名門中の名門の為、彼の父親や祖父は欧州各国の王家の一部と親交があった。


敬虔なクリスチャンである。

信仰はカトリックで、信仰心がとても厚い。


多くの手紙や書物等から彼が熱心なキリスト教徒である事が窺い知れる。


真面目かつ繊細で、マメな性格である。

情に厚く涙もろい。


1517年4月頃、船の勉強をしにイスパニア王国に行き、そこでガレー船に乗り経験を積んでいた際、偶々たまたま偶然マゼランの次の外洋探険の噂を聞き興味を抱いた。


そしてマゼランに直談判し、本人に乗船の許可を得て乗組員となった。


語学堪能であり、欧州各国のあらゆる言語を話せる他、識字率の低かった中世欧州の時代に読み書きをスラスラ出来てしまう程、学識が高かった。


マゼラン艦隊での航海日誌を非常に細かく書いており、圧倒的な記述量と共に、一日も欠かさず約3年間書き上げた事は、とてつもなく貴重な記録として後に多大な評価を受けた。


【※2】仮の名で登録………………ピガフェッタは、イスパニア王国による条件上、マゼラン艦隊に於ける公式の乗船許可を得られなかった。


その為、マゼランの勧めで名のピガフェッタをロンバルドに挿げ替え、乗船登録した。


その偽名乗船の為、約三年間の航海後にイスパニアへ帰還した後も、王国の公式記録としてはマゼラン艦隊乗船員の員外扱いとなった。


但し、世界を一周した者としてはしっかりと認められた。

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