[3] ミンスク包囲戦

 前線からの報告を受け、中央軍集団司令官ブッシュ元帥が「ソ連軍の夏季攻勢が開始された」ことを確信したのは、ソ連軍が作戦を開始してから3日目に当たる6月25日のことだった。この時、北方では第3装甲軍と第4軍の間に、南方では第4軍と第9軍の間に大きな亀裂が出現していた。前線部隊の多くはすでに包囲されるか、分裂した状態で西方への敗走を開始し、もはや組織的な防御作戦の遂行はきわめて困難な状況に置かれていた。

 6月26日、ブッシュは自ら総統大本営へと赴き、包囲されつつある白ロシアの「確地」を放棄する許可をヒトラーに求めた。ヒトラーはブッシュの要請を却下した上、中央軍集団司令官から罷免した。

 6月28日、ヒトラーは北ウクライナ軍集団司令官モーデル元帥を中央軍集団司令官に兼任させる決定を下した。ヒトラーはモーデルに対して、ブレスト周辺に配置した装甲部隊を用いてただちに反撃を行うよう命じた。

 モーデルは前線の状況から判断して、第5装甲師団(デッカー中将)を北方に、第4装甲師団(ベッツェル大佐)と第12装甲師団(ミュラー大佐)を南方にそれぞれ派遣することを決定した。南北の戦域に空いた巨大な亀裂を塞ごうと試みたのである。

 時を同じくして、モスクワの「最高司令部」は攻勢の第1段階が成功したことを確認した上で、引き続き第2段階に移るよう各正面軍司令部に命じた。第2段階では、ミンスクの包囲と機動集団によるモロデチノとバラノヴィチの封鎖が規定されていた。この下命を受けて、第3白ロシア正面軍司令官チェルニャホフスキー上級大将は前線に第5親衛戦車軍(ロトミストロフ元帥)を投入した。

 6月28日の夜、第5親衛戦車軍の先鋒をゆく第3親衛戦車軍団がベレジナ河畔のボリソフに近い小村クルプキで、第5装甲師団と遭遇した。「ティーガー」を装備する第505重戦車大隊を含む第5装甲師団は当初、戦車戦を有利に進めた。

 だがベレジナ河の流域に、第29親衛戦車軍団とオスリコフスキー機動集団(第3親衛機械化軍団・第3親衛騎兵軍団)が次々と進出してくると、1個装甲師団だけでは防ぎきれなくなり、モーデルは第5装甲師団をミンスクへと撤退させた。

 白ロシアの首都ミンスクを防備していた中央軍集団の戦闘部隊は7月2日の時点で、わずか1800人程度の保安部隊だけだった。その他に存在していた1万5000人の後方支援要員や9000人の負傷兵などは列車で市外へ脱出した。自軍の大敗にショックを受けたヒトラーがミンスクの放棄を正式に許可していたためだった。

 7月3日、第5親衛戦車軍の第3親衛戦車軍団がミンスクの北西に進出した。第11親衛軍の第2親衛戦車軍団が市の北東で敗残兵を掃討し、午後には南から第65軍の第1親衛戦車軍団が到着した。ミンスクは約3年ぶりに奪回されたのである。

 7月4日、第1バルト正面軍はポロツクを奪回し、中央軍集団戦区の「確地」は全て失われた。「最高司令部」はなおも攻勢を継続して、白ロシアの西部国境(1939年9月の独ソ分割線)まで突破を拡大するように命じた。

 第5親衛戦車軍とオスリコフスキー機動集団はヴィリニュスへ、プリエフ機動集団はビアリストクへと進撃を続けた。対峙する中央軍集団は5個装甲師団(第4・第5・第7・第12)をはじめとする兵力を、ミンスク西方のモロデチノとバラノヴィチを結ぶ新たな防御線に集結させた。

 7月8日、第3白ロシア正面軍は2個軍(第5軍・第11親衛軍)がリトアニアの首都ヴィリニュスを包囲した。ソ連軍は街の北西を流れるニーメン河を渡河する作戦に乗り出し、ヴィリニュスでは守備隊とソ連軍の間で戦闘が荒れ狂った。

 7月13日、新たに到着した第6装甲師団がソ連軍の包囲に突入し、30キロ奥まで進出した。第6装甲師団の進撃によって、ヴィリニュスから守備隊の一部が包囲網を脱出することに成功した。

 ソ連軍の攻勢は7月末までにいったん停止した。先鋒を担う機械化部隊が消耗し、戦力が低下したためである。7月初めに約300両の戦車・自走砲を装備していた第5親衛戦車軍はこの時、稼働戦車台数が50台ほどに激減していた。

「バグラチオン」作戦により、当初は88万8000人の兵力を擁していた中央軍集団は戦死・行方不明・負傷者合わせて40万人を損失した。6月中旬に展開していた38個師団のうち28個師団が8月までに壊滅した。対するソ連軍もまた、この一連の作戦で戦死・行方不明者17万8000人、負傷者57万7000人もの損害を出した。

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