第3話 艦長と呼べ


「これで何度目だ? ヴェント准尉──」


 艦長室に二人。白い上級士官服を着こなし豪華な椅子に深々と腰掛けたヴァネッサと、緑色の飛行服のまま顔中傷だらけで直立するアヴェルが、光沢の映える豪華な机を挟んで対峙している。


「お言葉ですが、大佐。味方への誤射は今回が初めてであります」

「ここへ呼ばれた回数だ馬鹿者。それと、大佐ではなく艦長と呼べ」


 的外れな返答にヴァネッサは肩を落とす。僅かに乱れたその艶やかなブロンドの髪を整えながら、鋭い視線をアヴェルへと戻す。


「申し訳ありません、艦長。ですが、これは誤射ではなく流れ弾です。自分の意図するものではありません」

「モノは言い様だな、アヴェル。だが交戦記録は残ってるんだ。あの位置で撃てばミケルに当たるくらい、お前なら分かっていたはずだ」

「……」


 静かな怒りのこもったヴァネッサの言葉に、アヴェルは押し黙っていた。


「沈黙は肯定とみなすぞ、准尉。全く……お前の腕は認めてやる。うちで一番のロベルトにすら匹敵する。だがな──」


 ヴァネッサは淡々と言葉を続ける。


「単独で勝てるほど、は生易しい相手じゃない。もう少し頼ることを覚えろ。でなければ、お前が墜ちることになるぞ」


 ヴァネッサは冷静に鋭く言い放つ。厳しい口調ではあったが、これも彼女なりの思いやりだった。


「了解致しました、艦長。ですが、自分が頼れるのはサーフェイス大尉だけになります」

「お前は……」


 ヴァネッサは呆れながら頭に手を当てる。


 ヴァネッサの指揮するこの船には五〇機以上の戦闘機が搭載されていた。だが現在、その数は二四機となってしまっている。そしてこの二四機は、アヴェルがこの船に着任してからの約半年、一機も欠けることなく、この母艦へと戻ってきている。

 この船の飛行隊は、他と比べても練度が段違いに高い。精鋭と呼ぶにふさわしい程だ。その中でも、ロベルトとアヴェルの戦果は群を抜いていた。


独房反省室で二週間の謹慎を命じる。その間、戦闘機には指一本触れさせんからな。しばらく大人しくしていろ。頭を冷やしてこい」


 ヴァネッサは深くため息を吐き、アヴェルに処分を言い渡す。その内容に、アヴェルは動揺しながら声を上げた。


「二週間!? いくらなんでも長過ぎるだろ! こんな状況で、アンタ何考えてん──」

「艦長と呼べ! 全く、口の悪さもトップクラスか。嫌ならもっと頭を使え、一人で抱え込むんじゃない」


 呆れながらヴァネッサは言葉を遮るが、最後は優しい口調で言葉を返す。それに困惑したアヴェルは、言葉を失い口ごもっていた。


「なんだよそれ……意味わかんねぇよ──」

「お前なら分かるさ──」


 ヴァネッサのその言葉を最後に、アヴェルは舌打ちしながら踵を返し、艦長室から立ち去った。





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