第11話 人食い廃墟-7 廻り道
――目印(マーク)を付けておこう。
そう提案したのは意外にもユリであった。
昔読んだ童話のごとく、迷わないように最初の地点に目印を付けておこうと。
この得体の知れない三叉路を進んで、もしおかしなことがあったときにここに戻ってこれるようにと――そう言ってユリはポケットからスマイルマークのシールを取り出した。
もし怒られたらまた改めて掃除に来よう――
ユリはそう言って、壁にぺたりとシールを貼り付けた。
そうして三人は廊下を進み始める。
進む。
まっすぐ、まっすぐ、廊下を進む。
突き当りにくれば通路に沿って曲がる。
曲がる。
あっちへ曲がり、こっちへ曲がり。
分岐路に来れば相談してどれかを進む。
進む進む。
ぐるりぐるりと行ったり来たり。
気づけば最初の“目印”に戻っていた。
――これをいったい何度くりかえしたろうか。
「不思議現象(オカルト)は大好きだけれどもさ……さすがに疲れた……」
「もうかれこれ一時間以上は歩いてますよ。みごとに“つままれて”ますね……」
「狐か鬼か蛇か……霊か人かすらわからないまま進んでますわね。玄関にも、樹くんの言っていた“骨のある廊下”にも辿りつけてない」
歩き疲れ、疲労でグダるユリ。
窓もない真っ暗な廊下を懐中電灯の光だけで歩いていれば、樹や未來もさすがに気が滅入っていた。
「……“骨”」
「どうしたのユリ」
「骨ってまさか……私たちみたいにここに閉じこめられた人が、白骨化するまでさまよってた末の“骨”なんじゃ……」
「……縁起の悪いこと言わないでくださいユリ先輩」
「だってそうでしょ! そう考えるのが自然じゃない!」
ユリは語気を荒らげる。
「まだあれは動物の骨かもしれないでしょう……。野良犬とか野良猫とかの……。そういう不安煽るようなことは言わないでほしいですね」
「そもそも“人の骨”って言ったのは樹でしょ!」
「……っ。なんですかそれ……! 俺のせいって言いたいんですか? だいたいここに来たのはユリ先輩が……」
「そっちのほうこそ人のせいにしてんじゃん!」
樹とユリは言い争う。
疲労と恐怖が悪い方向へと妄想を駆り立てさせ、不信感を呼び起こした。
この状況に対する焦りが彼らを苛立たせていた。
「二人ともやめなさい」
ぴしゃりと静かに叱る言葉。
感情任せの怒声ではない。
静かだが強く、芯のある一声だ。
未來の一声は、樹とユリを一瞬で黙らせた。
「仲間同士で争っても仕方がないでしょう?」
「……ごめん、未來」
「すみません未来先輩」
「謝る相手が違うんではなくって?」
樹とユリは下げかけた頭を上げ、互いに顔を見合わせた。
「ユリ先輩……ついカッとなってしまいました。すみませんでした」
「……こっちこそ悪かったよ、樹」
「はい、仲直り。こういうときこそ手と手を取り合うものですわよ」
“さて”と続ける未來。
「壁を“ブチ抜き”ますわ」
「え?」
「所有者の方に申し訳が立たないから、この方法は取りたくなかったのだけれどね。“本体”が見つからない以上“陣地”も使えないし、この方法しかないと思うわ」
「ちょっと待ってください。それってどういう……」
未來は壁に手をついた。
霊感が極度に弱いユリにはそれがただ壁に手をついているだけに見えていたのだが
樹は、未來の手にうっすらと“緑色のオーラ”がまとわりついているのを見た。
「私の霊纏カラテで壁を破壊し、外に出る。あるいは鍵のかかった部屋の扉を手当り次第にブチ抜いて、脱出方法を模索する」
「えぇっ!?」
「所有者の方にはあとで私から弁償いたしますわ」
未來は拳に力を込める。
まとわりついた“緑のオーラ”は、より一層色濃くその強さを増した。
いざその拳で壁をブチ抜こうと――
「待ってください、未来先輩!」
壁を破壊しようととする未來を、樹は引き止めた。
「俺がやります!
「……なんですって?」
「今からここで……“潜心(ダイブ)”をします」
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