第26話 敵の存在が明らかになりました

「何しとんじゃい! キサマー!」

 ヒカルはキャラ崩壊状態で叫びながら駆け寄り、ぱんつをはじめとした衣服を回収する。

「な、どういう事だ! なぜお前らがここにいる! あいつらはどうした!」

 予想外の状況にマクシムスは驚き慌てふためく。

「温泉に乱入してきた男達ならみんな谷底に捨てたよ」

「な、なんだと!」

「恩知らずのアイツにもお仕置きは必要だけど、まずは目の前の事を片付けないとね」

「ま、まて! キドラントの事ならいくらでも教える! だから俺は見逃してくれ!」

「ここで見逃したら後々面倒な事になりそうだからダメ」

「ま、まて、俺みたいな小物逃がしたぐらいでどうにかなるほどあんた達はヤワじゃないだろ!」

「見逃したら組織とやらに泣きつくんじゃないの?」

「! 組織の事を知ってるのか!」

「乱入してきた男達の一人から聞いたよ、非合法の人身売買組織の事」

「そうか、ならば俺があんたらを組織に斡旋するってのはどうだ?」

「はあぁ?」

 ヒカルは心底あきれた表情でマクシムスを見下す。

「毒をものともしない強靭さに屈強な男達を仕留める強さ、あんたの連れはどこだって欲しがる戦力だ! そしてあんたのその美貌、組織の幹部達から引く手数多なこと間違いなしだぜ!」

「ふうっ・・・・」


 ずだぁあん!


 ヒカルは呆れ顔でマクシムスの胸ぐらを掴むとそのまま壁に叩きつけた。

「げほげほ・・・・ち、ちっとばかし・・・・身体能力が高いって聞いてたがそれどころじゃねえな・・・・」

「組織とやらに下るつもりはないわ。とりあえず恩知らずなあいつの事を吐きなさい」

「キドラントならここから少し先に行ったところにある村の酒場で飲んでるはずだ! あいつは金が入ればまず酒だからな! それでつぶれる寸前まで飲んでそのまま泊まっていくのがいつもの事だ」

「・・・・。それだけ聞ければもう用は無いね」

 ゆらりとにじり寄るヒカルをマクシムスは慌てて制止する。

「まてまてまて! 組織にはもうお前らの事は伝わっているから俺を殺しても無駄だぞ! お前らにもう組織に従う以外の選択肢は無いんだよ!」

「つまらない冗談ね。こんな短時間で伝える連絡手段なんてこの世界には存在しないのに」

「ふっ! たしかに普通に考えればそうだろうな。だが我が組織の技術力はこの世界のことわりを越えた所にある! キサマらの常識では計れないレベルにな! だからこのような事も起こるのだ」


 ばぁん! がしゃぁぁあん!


 突然ドアが開き、窓が割れ、多数の男達が雪崩れ込んできた。

「ははははは! キサマと話してるわずかな時間で救援を寄越せるのも我が組織の技術があればこそ!」

 武装した男達の乱入に気が大きくなって笑い声をあげるマクシムス。

「おとなしく投降しろ! そうすれば我々は貴様を傷付けない! 貴様のような美人を傷付けたくはない!」

 武装した男の一人が刃物を突きつけながら降伏勧告を出してくる。

「ふうっ、やれやれ・・・・」

「わうっ!」

 だが、その場にいた者達は知らなかった。目の前にいる存在が自分達の常識では計れない存在であることを・・・・


            ◇ ◇ ◇ ◇


「じゃ、行こうか」

「わうっ!」

 人間が剣と鎧で武装した程度で化け物と戦えるのは創作の中だけの話である。

 助走などの補助もなく人が人を飛び越せる程高くジャンプしたり、目で捉えられないほど高速で動き回るのも創作の中だけの話である。

 では創作レベルの存在と現実レベルの人間が戦えばどうなるか?

 考えるまでもないだろう・・・・

 ましてや敵と見なした存在に対して一切の躊躇が無いとなればなおさらだ・・・・

 返り血一つ浴びる事なく惨劇の跡地を後にするヒカルとユキ。

「これから少し面倒なことになりそうだね」

「わうぅ?」

「本来の目的から外れてるからどうするかは向こうの出方次第かな」

「わぅ?」

「感情的には潰したほうが良いと思ってるよ。でも、本来の目的の方はどれだけ時間に猶予があるか分からないから出来るだけ急いだ方が良いの」

「わうぅ・・・・」

「それに人身売買組織って事は潰した後にも面倒がありそうだからね・・・・」

「わぅ?」

「自分でもひどいこと言ってるとは思うよ。

 でも、戦ったり傷を癒したりは出来ても、行き場を失った人達の面倒まで見るような能力はわたしにはないから・・・・」

「わうぅぅ・・・・」

「だから成り行きに任せて行くしかないの」


 ごぉごぉごごごぉ!


「え! なに! 地震? ! 道が!」

 突然の揺れと共に目の前の道が塞がれていく。

「逃がさん! 許さんぞ! 貴様だけは!」

 突然の声に振り返ると惨劇の跡地となった宿の建物が揺れていた。

「我が組織の技術力はぁぁぁぁぁ! 理を越えた所にぃぃぃぃ!」

 みるみるうちに建物が収縮、いや圧縮されていった。

 そして三メートル四方の立方体へと姿を変えた。

 さらにその立方体がひび割れるようにいくつかのパーツへと形を変えて再構成されていく。

「ゴーレム?」

 それは体高七メートルほどの石人形となってヒカル達の前に立ちはだかった。


─── ????? ? 

─── ちから:800 ─── はやさ:30 ───

── 無生物? ──


 『解析調査アナライズスキャン』で確認してもはっきりとした事は分からないが、ただ驚異的な力をもつ難敵だということは理解できた。


「変身! ガイアフォーム!」


 かっ! ばりぃっ!


 太陽の使徒サンブレイバーこと青空ヒカルは改造人間である。

 彼女は聖石の力が物質化した鎧を素肌に纏うことで、サンブレイバーへと変身するのだ!

「太陽の使徒サンブレイバー! 見参!」

 光が治まるとフルフェイスの兜に掛かった濃色煙水晶のバイザー越しに四角い目が光る、岩のような黄土色の異形の鎧をヒカルは纏っていた。


 どすどすどす!


 だが、そんな事はお構いなしにゴーレム?は突進してくる。

「ゴアァァァァッ!」

 人とも機械ともつかないような唸り声を上げて拳を降り下ろす。


 どごぅわ!


 だがそれをヒカルは容易くかわし、そのまま懐に入り込む。

岩砕掌がんさいしょう

 無防備な右脛に掌底を打ち込む。


 ばごぅっ!


 右脛を構成する岩が砕け散る。

 だが、なぜかゴーレム?はバランスを崩すような様子が無い。

「再生してる!?」

 砕けた石がまた元の場所に戻り、何事もなかったかのように再生していた。

「ちっ!」

 反撃を受ける前に慌てて飛び退くヒカル。

 彼女がさっきまでいた空間を再生したばかりの足が振り抜く。

「こうなったら・・・・」

 ヒカルは距離をとると、マジカルステッキを地面に突き立てる。

巨岩拳昇きょがんけんしょう!」


 ぼっぐぁあん!


 巨大な岩のアッパーがゴーレム?の顎を捉え、その巨体を宙に舞わせた。

「まだまだ!」


 ずぐぁん! どぐぅあん!


 二発、三発と追い討ちが入り、巨体を運んでいく。

「よし! そのまま・・・・」

「サセルカッ!」

 そのまま渓谷に落ちるかと思われたゴーレム?が左右の腕を一つに連結して伸ばし、地面を掴んで崖の手前で踏み留まる。

「・・・・。この動き、なにかに似てるような・・・・」

 その何かを思い出せなくて思案するが、相手は悠長に考える暇など与えてくれはしない。

「シネェ!」

 ゴーレム?は連結して長くなった腕をヒカルに向かって降り下ろす。


 どがぁん!


 それをヒカルは容易くかわし、岩の腕が無駄に地面を叩く。

「あ、もしかして・・・・」

 何かを思い出したヒカルは早速実証実験に取りかかる。

岩砕掌がんさいしょう!」


 ばごぅっ!


 地面に横たわる岩の腕を砕き、手首から先を腕から切り離す。

「せいっ!」

 砕かれた場所が再生するよりも先に手のパーツを遠くに投げ捨てる。

 すると投げ捨てられたパーツは戻らず、その部分は再生しない。

「やっぱり同じだ。水神の郷の時と」

 岩と鉄球の違いはあるが、水神の郷の洞窟の奥で戦った鉄球塊と同じタイプの敵だったのだ。

「あの時よりはやり易いかな」

 恐らくコアとなる存在がどこかに入ってるのは変わらずだが、小さな鉄球の集合体であった前回とは違い、大きな岩の塊である今回は核の移動は容易ではないはずだ。

岩操腕がんそうわん!」


 ぼこぉあっ!


 ヒカルがマジカルステッキを地面に突き立てると巨大な岩の腕が地面から生えてゴーレム?の腕を掴む。

「コ、コンナモノッ!」

 ゴーレム?は振り払おうとするがそれよりも早く・・・・

岩砕掌がんさいしょう!」


 ばごぅっ!


 一瞬にして間合いを詰めて肩まで登って来ていたヒカルがゴーレム?の腕を切り離す。

 そして地面から生えた腕がそのまま谷底へと放り投げる。

「この調子で・・・・」

 だが、敵は予想外の動きを見せた。

「コノカラダデハオソスギル!」


 ばごぉぉぉぉぉおっん!


 ゴーレム?の身体が砕け、中から核的存在が姿を見せた。

「うぐっ!」

 あまりにもグロテスクな姿に嘔吐きそうになりながらも何とか堪える。

 肉や骨や内蔵といった人間の体組織がめちゃくちゃに集まって圧縮された物が人の形を形成していた。

「コノ身体ナラバハヤイゾ!」

 そう言って肉人形は軽快に駆け出す。

「・・・・」

 たしかにゴーレム?の時よりは遥かに速い。だが、ヒカルを捉えるには至らなかった。

 しかし、その一方でヒカルは反撃するでもなく、防戦一方であった。

(触りたくないなぁ・・・・)

 あまりにグロテスクな姿に反撃を躊躇していたのだ。

 かと言って間接攻撃系の技で対応するには地面に手を着く必要があり、相手の動きが速くて出す余裕もない。


(ん? あれは・・・・)

 防戦に徹しながら対応を考えていると、相手の心臓の辺りに異物が埋まっているのが見えた。

(あれってまさか・・・・。あれも鉄球ならばもしかして・・・・)

 水神の郷の洞窟での戦いは厳密には決着には至っていない。

 鉄球を操作する核を異次元ポケットに収納することで無力化させただけで、その核は未だに収容されたまま放置されている。

 ヒカルは距離を取ろうとするのをやめて相手の懐に潜り込む。

「これでどうだ!」


 かつーぅん!


 金属同士がぶつかり合う音が響く。

「ヤメロ、ナンダオマエハ・・・・」

 肉人形の動きが鈍り、苦しそうに呻き出す。

「・・・・邪魔ヲスルナ・・・・動カスノハオレダ・・・・」

 ヒカルの想像通り、鉄球塊の核が肉人形の核である鉄球を支配下に入れようとして、肉人形の核がそれに抵抗しているようだ。

「ヤメロ、主導権ヲオレニワタセ・・・・」

 主導権争いで身体の維持ができなくなり、崩れていく肉人形。

 やがて崩れきった肉人形はただの肉塊となり、その上で二つの鉄球が震えながら浮遊している。

 ヒカルがこのチャンスを逃す訳もなく・・・・。

金剛震剣こんごうしんけん!」

 マジカルステッキに手をかざすと光輝く刃が形成されてく。

 それは岩の刃の表層で金剛石ダイヤモンドの粒子が激しく震動しながら太陽の光を乱反射することで刃自体が光ってるようにも見えた。

「金剛震剣烈光一文字れっこういちもんじ斬り!」


 すぱぁっ!


 光が一閃し、真っ二つに切られた二つの鉄球がぼとぼとと肉塊の上に落ちてそのまま沈黙する。

「ふうっ・・・・」

 敵が完全に沈黙した事を確認するとヒカルは一息ついた。

「わうっ!」

 観戦に徹していたユキが尻尾を振りながら駆け寄ってくる。

「ユキ・・・・」

 座り込んだユキの首筋を優しく撫でながらヒカルは語りかける。

「できれば面倒は避けたいって言ったけど、この組織との戦いは避けられない」

「わぅ?」

「水神の郷の件と組織は繋がってた。たぶん、ユキが捕まってた事や盗賊団の件にも関与してたと思う」

「わうぅ」

「組織の目的は分からないけど、わたしの目的と対立する事は確かだと思うの。だから戦いは避けられない」

「わうぅ・・・・」

「大変な旅になると思うけどこれからもよろしくね、ユキ」

「わうっ!」

 明確な敵の存在を前にして二人は決意を新たにするのだった。た。

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