第11話 王都に帰還しました

 水神の里の問題を解決した一行は王都に帰還していた。

 日も暮れて本来ならば城門を閉める時間であったが、早馬で先行した報告担当が当日中の帰還を告げて閉門を延長させていた。

 人通りのなくなった静かな市場を通り抜け城へと帰還する。


 城についた時には完全に日が沈んで夜となっていたので詳細な報告などは明日に回された。

 入浴を目の前にして、ヒカルは困っていた。

(替えの下着が無い)

 昨日着た分は城の方で洗濯をしてもらったが、帰ってくる頃には乾燥まで終わって返されるものだと思っていた。

 しかし、なぜか城の侍女たちが返却を渋るのだ。

 洗濯がまだ出来てないのかと聞けば出来ていると言う。だけど返却は待って欲しいという。

 押し問答の末に聞き出した返答にヒカルは頭を抱えた。


 ヒカルは色んな意味で話題の対象となっているが、侍女達の間で最も話題になったのは着衣。

 デザインも縫製もこの国の物とは大きく違っている。

 特に下着のデザインが『これならば胸の大きさと形の良さを両立できそう』『布面積が少なすぎる気もするけど動きやすそう』などと注目を集め、先進的かつ機能的なこれらと同じような物が作れないかと言う声が多数上がってるので見本として貸し出してほしいという。


 結局、明日見本用を貸し出すからとりあえず今日の分は渡してほしいと説得して返してもらった。

 変身で吹き飛んだ分は12時間待てば新品に近い状態で再生する。だから明日の朝には今日の分が再生されるし、変身しないで一日過ごせれば余裕は出る。

(さすがにお城や王都の中で変身するようなことはないよね・・・・・・

 明日にはお城を出るつもりだったけどどうしようかな)

 今後のことなどを漠然と考えながらヒカルは眠りについた。


            ◇ ◇ ◇ ◇


 朝になり、朝食を終えたヒカルは謁見の間に呼び出されていた。

 謁見の間での作法などは分からないから遠慮したいとリリアに相談したが駄目だった。

「大したことでは無いのでそんなに気構えなくても大丈夫ですよ。

 それにヒカル様は別格なので特に畏まる必要もありません」

 と押し切られ、そのまま謁見の間に連行されてしまった。


「そう畏まる必要はない。そなたは特別な客人なのだからな」

 ヒカルは緊張しながら跪こうとしたが、国王自らがそれを止める。

「ヒカル殿、そなたはリリアと儂の身を救い、そして水神の里を救った。

 そなたの働きに見合うとは言い難いかもしれぬが謝礼を受け取って欲しい」

「姫様を襲った盗賊団には懸賞金が掛かっていたのでその分もここでお渡しします」

 大小2つの袋を乗せたトレイを持って隊長がヒカルに近づく。

「どうぞ、お納めください」

 ヒカルの前で跪き、トレイを掲げる。

「ありがとうございます」

 とりあえず礼を言って袋を受け取る。

「他にも渡したい物はあるのだが、まだ用意が出来てはおらぬ。

 申し訳ないが、明日もう一度ここに来てもらえぬだろうか?」

「了解しました。それでは、今日はもう下がってよろしいでしょうか?」

「うむ、下がって良いぞ」

「では、失礼します」

 ヒカルは一礼すると謁見の間を後にした。


「はあ~、緊張した~」

 謁見の間を出るとヒカルは脱力して、外で待っていたユキによりかかる。

「わざわざ謁見の間に呼ばなくてもいいじゃないの~」

「わふぅ」

 ヒカルの愚痴にユキは困ったように相槌をうつ。

「ヒカル様の件は周りに周知する必要がありましたから」

「あ、リリア様」

「ヒカル様は『聖女』として名が広まることを望んではいないようですが、城の者に『特別な存在』であることは周知しておく必要がありますのでご許与願います」

「はい」

 不満はあるが『緊張する』という個人的かつ感情的な理由でしかないので頷くしかなかった。


            ◇ ◇ ◇ ◇


 ヒカルは王都のとある商店に来ていた。

 一般家庭の調理器具からお城の衛兵の装備まで、王都の金物をほぼ一手に担う大手金物商の店である。

「ヒカル様、なぜ今更武器が欲しいなどと?」

 付き添い兼護衛のヘクターが疑問を口にする。

「水神の里の洞窟で気づいたの『わたしには石を投げるか素手で殴るしか攻撃手段が無い』って」

「はあ」

 ヒカルの言葉にイマイチ要領を得ないといった感じで返事を返す。

「ヘクターさんは身体能力とかの問題がなかったとして、あの時の蜘蛛と素手で戦える?」

「それはたしかに嫌ですね」

「素手で戦うのが嫌だからって理由で変身するわけにもいかないし、いつも都合よく投石できる石が落ちてるとは限らないからね」

「ところで、ヒカル様はどのような武器を使おうとお考えで?」

「うーん、まだ決まってないんだよね。武器に詳しい訳じゃないし」

 ヒカルの返答にヘクターが怪しい笑みを浮かべる。

「そうですか、ならば──」

 この後、ヘクターの武器選び講義が二時間に渡って行われた。


 まだ続く講義を流しながら、ヒカルは店の中央エリアを訪れた。

 店の看板とも言うべき主力商品が居並ぶエリアには鎮座していた。

 殺傷力を高めるための工夫がなされた武器が多数居並ぶ中、は明らかに異端であった。

 ショートソードのような形と大きさのメイスといった趣きだが、とにかくデザインが異様だった。

 柄尻には逆さのハート、広げた翼の意匠で出来た鍔、刀身に当たる部分はパステルピンクとホワイトのねじれた棒で先端では真っ赤なハートが膨らんでいる。

「え、なにこれ? 魔法少女の杖?」

 女児が好みそうな玩具としか思えないデザインのが幾多の武器の中央に鎮座しているのだから異様としか言いようがない。

「お客様、その商品が気になりますか?」

「え、うん、まあね・・・・・・」

 むしろ、こんな異様な物を見て気にしない者がいるのだろうか。

「あれ? この武器、異様に重いですね」

「え?」

 ヘクターはすでに手に取ろうとしていたがその重さに持ち上げるのをやめていた。

「そちらの商品『マジカルステッキ』は、総神砂鉄しんさてつ製ですのでグレートソード4~5本分の重量があります」

「なぜこのようなものを?」

 ヘクターの疑問は当然だろう。金よりも高価なうえに重量は鉄の十倍というとんでもない素材で武器を作るなど正気の沙汰では無い。しかも、見た目は女児の玩具だ。

「数日前、工房長が突然『神の天啓を受けた』と言って不眠不休で作り上げたものです。

 工房長が言うには『すぐに買い手がつく』そうなのですが・・・・・・」

「・・・・・・」

 ヒカルは軽く目眩がした。どう考えても神様が自分のために用意したとしか思えないからだ。

 異常な重量であっても自分ならば振り回せるし、城で貰った賞金と謝礼で金もある。

(それにしてもこのデザインは・・・・・・)

 もう少し他には無かったのかと不満に思いながらも手にとって見る。

「あれ?」

 実際に手にとって見ると言われるほど重く感じない。むしろ見た目以上に軽く感じる。

 軽く振り回してみるがやはり重くない。

「おおおおおお、お客様!」

 店員が驚きの表情でヒカルを見ている。

「お客様が工房長の言っていた『すぐに現れる買い手』だったのですね!」

「あ、はい・・・・・・」

(正直、断りたいけどそうもいかないよね・・・・・・)

「価格は20000リッタとなります」

「高っ!」

 あまりの値段に後ろで見ていたヘクターが驚きの声を上げる。彼の年収の数倍の価格なのだから驚くのも無理はない。

「申し訳ありません、これでも殆ど原価なんです。

 もし、これで断られてしまわれたら・・・・・・」

「まあ、たしかに神砂鉄しんさてつの塊と考えればそれぐらいはしてもおかしくないか」

「これでいいですか?」

 ヒカルは異次元ポケットから金貨の大袋を取り出した。リリア救助と水神の里の件の謝礼がちょうどこの価格と一致していた。

「では、確認させていただきます」

 店員は台の上に置かれた革袋を開けて金貨を数えた。

(今片手で持ってたけど、大判金貨200枚も入った袋を片手で扱えるか? あ、でもアレを片手で振り回すぐらいだから十分にありえるか)

「・・・・・・。大判金貨200枚、たしかに20000リッタ確認しました」

「ヒカル様、良かったのですか? いきなりこんな買い物をしてしまって」

「うん、経緯や性質からして、どう考えてもわたしのために用意されたとしか思えない物だからね。

 路銀も賞金の方で十分足りるし」

 自分の為に用意されたとしか思えないぐらい、マジカルステッキはヒカルの手に馴染んでいた。

 そして常人では気付けないもう一つの性質がヒカルの確信を深めていた。

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