Sheh.5 麦わら帽子

麦わら帽子がひとつ

落っこちていた

人のいなくなった

砂浜に

にぎわっていたテントはたたまれて

冷たくなった風が

沈む夕日に

吹き込んでいく


麦わら帽子はするすると動く

宿主に忘れられ

宿主を忘れ

するすると

寄せる波が

おいでおいでと

手招きする


麦わら帽子がひとつ

滑っていた

にぎわいの去った

波際に

楽しんだうきわは捨てられて

冷たくなった水が

ヤドカリの宿の中に

入り込んでいく


麦わら帽子はゆらゆらと動く

世間に忘れられ

世間を忘れ

ゆらゆらと

無数の手が

よいしょよいしょと

かついでいく


麦わら帽子がひとつ

渡っていた

日の落ちきった

海原を

瓶は夢をつめこんで

帽子横目に

ただよっていく


麦わら帽子はふらふらと動く

夢に忘れられ

夢を忘れ

ふらりふらりと

さまよっていく――

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