第2話 紐パン

 通称中庭ストリップ事件、あれはいったい何だったのか。あれも思春期症候群が俺に見せた幻だというのか。

 文字はいい、どれだけエロいことを考えてもしょせんは文。読まなければいいだけだ。

 でも、映像はよくない。映像はよくないぞ! と大事なことなので2回言っておこう。

 百聞は一見に如かずというように、映像が人に伝える力というのは半端ないのだ。




 あの日から俺の頭の中は、清楚な普段の彼女と黒のレースという大人すぎる一面のせいで大変なことになっていた。

 もし、俺のように思春期症候群で考えていることがわかるとか、心の声が聞こえるってやつがいたら俺のことを軽蔑したと思うようなことを考えてしまうほどショッキングで刺激的な出来事だった。



 しかし、それは終わらなかった。

 次の体育マラソンって最悪だな。もう皆グラウンドに出ているし俺も急いでいかなきゃと外履きに履き替えている時だった。

『紐パン……あれってほどけたりしないのかしら?』

 とんでもない考えが見えて俺は固まった。

 けしからん、実にけしからんことを考えてるお嬢さんがいたもんだ! と一体だれがこんなことを、俺は思春期男子に悪影響しかもたらさないことを考えている生徒を探した。


 誰かはすぐに解った。一ノ瀬さんだった。

 一ノ瀬さんは友達と何か話しているようだが、少なくとも紐パンのことではないだろう。

 彼女の視線はクラスのギャル達に向けられていた。



 よかった、今日はいつも通り文字だけだ。一ノ瀬さんの心の声には目を通さないようにしよう。

「鈴木ー。先生今日は何キロって言ってた?」

「女子は5キロ、男子は8キロだってさ、男女差別だよな……」

 とりあえず、走ってれば心の声は、『歩きたい』『苦しい』『もう終われ』『先生死ね』とかになるだろうからとホッとした。



 校庭ではなく、マラソン大会の本番に向けて校外を走るようだ。

 先程の呟きが気になってしまった俺は一ノ瀬さんに視線を移すが、文字も出ていないのでほっとした。




 先生の合図で男女同時にスタートした。


「鈴木! とりあえず、走れば終わるから、お互いがんばろう」

「ゴールでな」

 鈴木と励ましあってマラソンは始まった。




 学校まで後1キロほどだった。前方に俺は信じられないものをみた。

55インチの大画面テレビに映る度アップの紐パンであった。

 なんだあのけしからん映像は!

 映像の出所が気になって、というか心当たりはあるけれど、走るペースを上げた。

 視線の先にいたのはやっぱり一ノ瀬さんだった。

 運動は苦手なようで、ほぼ歩いてるよねってペースにも関わらず息を切らせて進んでいた。

 そんな彼女の頭から吹き出しのように出ているのが55インチの大画面テレビとその画面に映るパンツであった。


 あっ、一ノ瀬さんの後ろにいた明らかにサボってタラタラ歩いてたギャル達に抜かれた。

 その瞬間、大画面に一ノ瀬さんを抜いたギャル、敷島さんが制服姿で映ったのだ。

 まさか、嘘だ……やめろ。


 画面の中の敷島さんは、よく見る不機嫌な表情のまま両手でゆっくりとスカートをたくし上げたのだ。

 くそ、くるならこい。どうせ黒のレースとか派手な下着だろう。

 やめろとか思いつつも俺は一ノ瀬さんから出た吹き出しを見入ってしまう。



 小麦色の肌とは対照的な まさかの 『白』。

 赤とか濃いピンクとかハイビスカスとか派手系かと思いきやまさかの清楚系だと。

 そんなことで取り乱す俺じゃない。でも、鎮まれ下半身。


 画面の中の敷島さんは、チラリとパンツを見せただけではない。さらにたくし上げる。

 そんな上にあげなくてもよろしいじゃないか……日本語が変になってしまう。



 紐パンだ……。



 そういえば、マラソンが始まる前に一ノ瀬さんは紐パンがどうのって……つぶやいていたことを思い出す。

 ちょっとまった、紐パンのあとなんて言ってた?


 紐パンの紐はよく見たらどうみてもしっかりと縛られていないではないか。画面の敷島さんがほんの少しだけ動く。

 ダメダメ動いたら大変なことになってしまうって。

 俺の願いはむなしく、ゆるくなった紐はハラリと外れゆっくりと……これ以上は大変なことに……。

 でも、目はそらせない。



「佐藤、何一ノ瀬さんの後ろキープしてるんだよ」

 俺の背中をそういって鈴木が叩いた。

 その瞬間、あと少しだった敷島さんは掻き消えた。


「俺が走ってたの後ろにいたなら見てただろ!!」

 思わず大きな声が出たのは驚いたからなのか、惜しかったからなのか。

「からかっただけだって、そんな怒るなよ」

 鈴木は笑った。

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