ついにバトルか——いきなりラスボス!?

「マモ……俺との約束は何だったんだよ」

「アハハ……ハ……ダメだったか?」


 あまりにマジな表情の照彦に、護は少し会話をほぐそうと言ってみたが、どうやら逆効果だったようだ。


 照彦の目元がさらに険しくなる。


 それを感じて、護は話をそらそうと、さらに試みた。


「しかし、テルも見えるとは思わなかったぞ。どうだ、俺のミナ。可愛いだろ?」

「……」

「あまりの可愛さに言葉も出ないのか?」

「……」

「だんまりかよ……しかし不思議だよな。妹の未来には見えなかったってのにな。これ、男にしか見えないのか?」


 護の脳天気な会話が続く中、しばらく押し黙っていた照彦だったが、この護の問いかけに、初めて口を開いた。


「……最初はな、誰しもそうなんだよ。嫁キャラだからな。可愛くないわけがない……」

「えっ?」

「…でもな、このゲームは人を狂わせる。ライフが減ればいずれ、きっとお前もそうなる…」

「ライフ?どういうことだよ」


 護は、それまで、どうがんばっても許してくれなさげな照彦をなんとかする方法を模索するのに全力投球していたが、この時、その照彦の口から出た言葉に、初めて自分の考えていたこと以外に注意を惹かれたのだった。


「知らないのか?ライフは1日ごとに1ずつ減っていくんだ。」


 護は、昨日から今日にかけて、ライフが10から9に減っていたことを思い出した。


「そして……0になったとき、そのプレイヤーは死ぬ」

「な、何!?何言ってるんだよ、テル。これスマホゲーだぞ、たちの悪い冗談はやめてくれよ」


 冗談言うなよという体で笑いを浮かべている、そんな護に対し、照彦はギロリと睨んできた。


「テル、そんな睨むなよ……でもな、いくら約束を破ったのを怒ってるからって、俺を怖がらせようってのは悪趣味だぞ。お前もよく言ってるじゃないか、所詮はゲーム、熱くなるなって、俺にさ」

「俺は冗談でこんなことは言わない」


 照彦の変わらない真剣な表情に、実は自分の考えが間違っているのか、という疑念もそろそろ涌かなくはなかったが、護は友人の語るその内容自体に納得することができず、抵抗をつづける。


「困ったな……そういわれても、わかんねえよ。どういう仕組みでライフが0になったら死ぬっていうんだ?……それにどうしてお前が知ってるんだよ、そんなこと」


 なおも、信じられない、わからないを繰り返す。


 そんな護をじっと見ていた照彦は、やがてため息をつくと天を仰いでつぶやくかのように言った。


「わかるさ。俺も……エスエスランカーだからな」

「えっ!」

「これまで、ずっと見てきたんだ。人が変わる様を。なりふり構わなくなった人間が何をするのかを」

「……」

「特にお前の持つ★3の強化カードは危険すぎる。持ち主の怨念がこもりすぎていて共に暴走しかねん」

「な、何言うんだよ……ミナがそんなことするわけないだろ!」

「みんな、そう言うんだよ……俺もこんなことはしたくないんだが、でもそうはいかない。ルールだからな……」


 照彦は、そこまで言うと、決意を込めた目で、護の正面に立ち、手に持つスマホの画面をタップした。

 そして、スマホの画面が、白く光輝き――


天の国タカマガハラのために、私はこの身を捧げます」


 長い長い腰ほどまでありそうな銀髪。


 その額には金色のサークレット。


 髪はそよそよと風に流れ、そこから垣間見える綺麗な首筋。


 白い白い、純白の和風の上着は、そう、神社で巫女が着ているものを少し薄手にした風であり、胸周りの体型は強調しつつも、けして下品ではない。


 紫色の袴は、高貴さを醸し出すと共に、腰から太ももにかけての体のラインに沿った後ろ姿は妖艶ですらある。


「まさか……アマテラスか!?」


 護は、ウェブサイトで見た記憶をたぐり、目の前に現れた戦姫と照らし合わせた。


 アマテラス。

 知らぬもののない天の神の主神。


 神話では、父神イザナギの左目から生み出された後、天の国タカマガハラを託され君臨するが、世間のいわゆる絶対の王たる神の印象とは異なり、スサノオと激しい姉弟喧嘩を繰り広げたり、和解して姉弟で子神を成したり、その後スサノオが天の国タカマガハラであるまじき行為に及んだためショックでヒキコモリになったりと、意外にラノベ要素が多い神である。


 え?

 「何で母神イザナミから生まれてないんだ?」って?


 当たり前だろ、イザナギとイザナミが夫婦喧嘩して、夫イザナギが妻イザナミを黄泉の国に幽閉してーの、おそらく日本神話・歴史上での初離婚後の神産みだったんだからな。

 ちなみに、後の日本国民はこの夫婦喧嘩のためにかなりのとばっちりを受けているんだが、長くなるからここでは伏せておく。

 ああ、男神が子神を産むって言うのは、ギリシア神話のゼウスがアテナを産んだりとか、わりとよくあるんだ。覚えておけ。


 いけない、これではアマテラスをディスってるようにしか見えないか。


 神の実力に、生まれとか恋愛遍歴とかは、関係ないんだ。

 こいつはそれを地で行く神だからな。

 その名のとおりあまねく者を照らす、全知全能の太陽神、だから天の国タカマガハラの神は全て彼女に従う、彼女を支える。


 彼女も天の国タカマガハラのこと、天の神アマツカミのことを常に考えている。

 だから、葦原あしはらの中つ国にも攻め込むんだな。天の神アマツカミの利益のために。

 そうだな、実は政治家の見本みたいなやつなんだよ、うむ。


 なんだかゲームの解説のようだが、ここまでは、ほぼ神話の私的要約だ。興味があるやつは、古事記でも読んでみてくれ。


 それで、神人戦姫のほうなんだが、ストーリー上は、概ね神話のとおりの設定であるし、元々女神だから女神化はするまでもなく、外見は既に見たとおりであるから、このあたりは説明はいらないよな。


 ああ、当然、妹スサノオとの百合百合ゆりゆり話もファンを悶えさせてくれることは保証しよう。


 あとは、……キャラクターか。


 彼女はその姉神としての由来から、自国の天の国タカマガハラを思う的な台詞、妹スサノオを意識した台詞以外は、もう、お姉さんぽさ全開の台詞ばかりである。


「おはよう、どうしたの?眠いの?しゃんとしなさ~い」

「シャツのボタンちゃんと閉まってないぞー、お姉さんに見せなさい、どれどれ……」

「だめだぞー、ご飯はちゃんと食べないと」

「いってらっしゃい……今日もがんばれー」

「おかえりなさい。ご飯のしたく出来てるから。えっ、その前に甘えたいの……もーしょうがないな」

「ヨシヨシ、私の胸でいっぱい泣いとけ~」

「○○○は、出来る子だから大丈夫だよ、私、信じてるから」

「おやすみ、えっ寂しいの?もう、しょうがないなぁ」


 このようにおはようからおやすみまでをケアしてくれるのである。


 通称、ダメ男製造機。


 皆、ダメになりたくてガチャを回すのだが、いかんせん★5。

 『俺氏、なかなかダメになれない』『生き別れのお姉ちゃんに早く会いたい』とアマテラススレが某掲示板で立つ始末。いや、生き別れてないだろう、お前ら、絶対。


 ……そういった、姉?需要も大事であるが、やっぱりステータスだよな。


 トップクラスのMP、神攻、神防を誇る、神力系最高峰の一角。


 攻撃、HPは★5の平均に比べると、やや低いが防御はそこそこ高い。そう、お姉さんは身持ちが固いんだよ、ってな。

 まあ、この辺りのステータスは、物理系最強の妹スサノオとの調整もあるとは思うが、防御よりではあるものの、天の神最高神として★5にふさわしい性能であるといえよう……。


「今更何を言っているんだ?お前には、ヒミコを見せたことがあったはずだぞ」

 

 そうだ、護が照彦のアルバムを見せてもらったときに、確かにヒミコと名付けられたアマテラスが存在した。なんでヒミコなんだよ?邪馬台国関係あるんか?と自分が考えてたこと、記憶に残っている。


 だから、護が口にしていた驚きは、どちらかというと、エスエスランカーとしての照彦の★6カードがアマテラスであることについてなのである。


 地の神★3であるミナからみれば、格上のラスボス的存在であるのだから。


「正直、羨ましい……とか、色々いいたいことはあるけど、そういう状況じゃないっぽいから、これだけ教えてくれ……これから何をする気なんだよっ!?」

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