なんか女の子キタ――漢としてすることは1つ!

 というわけで、2話『メッセ来た――そこに希望はあるのか?』の冒頭に戻る。


 えっ?あっさり過ぎるか?


 だってよ、護がメッセのあのボタン押したら、何だか小難しい契約文章みたいなアレが出てきたんだよ。

 そうそう、スクロールバーがついてて、『内容を承諾の上……』みたいなアレだ。


 みんな基本すっとばすだろ。


 ゲーム早くしたいし。


 どうせ、本ゲームによって被害あっても知りませんよー保証しないから覚えとけーとかいう内容だし。


 そんなんわかっとるわい、こちとら既に重度のスマゲー依存症だぞ、問題無い!読まずに連打連打連打……OKチェック!だよな。


 それにな、真面目にその文章書いてたら、この1話それで終わるぞ?

 いいのか?


 よし、納得したな。


 じゃあ、もうちょっとだけ補足しておくか。


 実は、護は、この時ちょっとためらった。


 元々、高額請求とかされないよな?って思っていたのもあるが、やっぱり照彦の言っていたことが頭に引っかかっていたからだ。


 アイツがあそこまで止めたのには何か理由があるんじゃないかと。


 でもまあ、契約は後でも読めると書いてあるし、おかしな契約だったら今はゲームでもすぐに訴訟になる世の中だ。


 「心配しすぎだよなテル、まあ、いいか」と護は気にせず、いつもどおり読まずに連打して、そしてOKを押した。


 その途端、スマホからまばゆいばかりの光が溢れる。


 スマホって本当に目に悪いらしいからな、真面目にブルーライトカットは必要だぞ、ってそうではなく、そのレベルでは無く、間違えて懐中電灯ボタンでも押したか?!というレベルの光だったんだ。

 それも画面全体がその勢いで光っているレベルの。


 目が痛い。

 思わず目をつむる。


 そして、少ししてから薄目を空けて確認すると、さっきまでが嘘だったかのように、スマホはいつもの神人戦姫のメイン画面を映し出していた。

 いや、ではないな。そこにはいるべきものがいなかった。


「あれ?ミナがいない?」


 そうだ、伝え忘れていた。

 神人戦姫では、ユーザが戦姫の名前を変えることができるんだ。


 これにより、戦姫に、より感情移入できるようになっている。

 気になるあの娘の名前にするも良し、いつも自分に酷い仕打ちをしてくる憎たらしい女子にしても良しだ。


 目的は……もうわかるだろう?

 人の愛憎ってのは紙一重だ。うん、神だけにな……。


 結局名前が何だろうがメイン画面ですることは変わらないってこった。

 外見が似ていればなおのこといいな。

 身長と眼鏡の有無と胸の大きさ、それから性格をユーザ側で変更できるようにしてくれ、と運営に要望を送った強者もいるらしいぞ。 


 確かにそれを可能にしたら神ゲー認定されるかもしれない。


 アプリランキング1位は間違いないだろう。


 しかし、そこまでいったらどこかのエロゲーそのものじゃないか。林檎さんが黙っちゃいないぞ。


 というわけだ。


 というわけなのだが、護にはそこまでの勇気は無く、『タケミナカタ』の間の2文字をとって、『ミナ』と命名していた。


 ちなみに、照彦が、アルバムを見たときに、このあたりスルーしてるのは同じゲームの同志、戦友に対する思いやりってやつだからな。いや、暗黙の了解、が一番正しいかもだが。


 その、『ミナ』、いつも画面から元気よく、にこやかに笑いかけていてくれた彼女が、いなくなっている……護はスマホを手に呆然としていた。


 そして後悔する。

 さっきの契約文書は、★6をくれるのではなく、キャラを奪うということであったのか、と。


「お前の血の色は何色だっ!」


 使い古された台詞だって吐いてしまう。

 何せ+108、+108だぞ。

 煩悩の数だけ育ててきたのだ。


 その……ちょっとだけ、ちょっとだけ、胸とかおさわりしてな。


 基本、護はヘタレなので、その時、画面の中でぷーっと怒った表情をしているミナに「ごめん、ごめん、不可抗力だ」となぜか現実空間で謝るわけだが。


 いやお前、自分から触っておいて不可抗力はないだろう。確信犯だろう、ラブコメのつもりか?この犯罪者がっ!ラッキースケベなんてこの世に存在しないんだよっ!!


 ……しかし、数秒とたたないうちに、次の展開がそんな彼を待ちうけていたのだ。


「見てよこの紙装甲、神だけになっ」

「!?」


 後ろをふり向いた彼の目の前に、女神、そう、かの戦姫がいたんだ。

 もう言ってしまっているが、これは、AR等では無い、現実だ。


 第2話冒頭のように、しばらく固まっていた護は、ハッと気がつくと、自分の頬をつねったり、こういった場合にアニメや漫画でよくある確認方法をいくつかとってみたが、夢から醒めることはなかった。


 また、それなら、と四方から彼女の姿を確認したが、紛れもなく自分の考えていた髪・肌の質感、そして等身のミナだった。


 ミナは、ちょっと恥ずかしそうな困った顔をして、モジモジしながら彼の動きをずっと見ている。

 護の動きが急にキビキビしたものに変わったため、どうやら台詞を言うタイミングが難しいようだ。

 画面をタップ連打してるとキャラの反応が追いつかなくなる、きっとアレね。


 一通りの確認を終えて、これ以上何もすることが無くなった護は、改めて正面から彼女の姿を見据えた。自然と目と目があう……。


 え?


 「もっと、すること、あるだろ」って?

 「欲望のままにイケ!はどうなった?」って?


 よく考えろ、相手はロリミナカタだぞ?


 実際小学6年生女子の平均身長150センチくらいっつーから、140センチ台とかその平均以下だぞ。

 いわゆる幼女と言っても過言ではないのだぞ。


 ここで一線を超えたら、通算4話めにしてこの小説自体がBANされちまうだろ。現実空間はNGなんだよ、わかってくれ。

 いやー、さっき説明したように護がヘタレで助かったわ、まったく。


 彼はとりあえず、話かけてみることにした。

 うん、コミュニケーションの基本だな。


「あの……ミナ……さんですか?」


 彼女はその言葉を聞くと、嬉しそうな顔をして返した。


「うん、オレ、タケミナカタ……あ、ミナだぞ。マモル、オレは強いぞ、よかったな」


 ミナ自身と護の名前を言い直しているから、応用はきくということか。

 上手い具合に、キャラクターの名台詞と繋げてもいる。


 ちょっと、たどたどしくはあるが。


 AIなのか何なのかはわからないが、会話は成り立ちそうである。


「マジか……これマジなのか……」

「ま、マジだぞっ。マジマジだぞっ」


 会話してもらえて嬉しいのか、無邪気にニコリと笑う。ああもう可愛いな。


 言葉の意味はわかっているのだろうか?

 もっとも、判断に困った時は相手の言葉を繰り返せ、という学習をしたAIなのかもしれないが。


「いいんだよな、本当にいいんだよなっ!」

「い、いいぞ……」


 既に両手の、広げた指を、モニモニさせている護。

 なぜだか、その、なけなしの胸のあたりを両手で押さえて顔を赤らめているミナ。


 ちょっと待て!いくらなんでも、いきなりか?

 お、上手い具合に575っぽくなったな。


 いや、そうじゃなくて。


 ヘタレという名の尊い自制心はどこへいったんだ護うううう!!


「えっへっへっへっへ」

「……」


 既に、完全なエロオヤジっぽい言動。もうとめられない、とまらないっぽい。


 お、おい待ってくれ、作者を世間的にコロス気かっ!?


 ミナは、少しうつむき、ためらうかのようにしながらも、彼女の最終防衛ラインを守っていた両手をゆっくり下ろした。

 そこに、二つの微妙な膨らみがあるその場所に、ゆっくりと、静かに、護の両手が、伸びて行く……。


 しかし、こういう時って、アニメでも漫画でも、えてして邪魔入るもんだよね。いやー、本当にご都合主義で済まない。


「兄貴、うるさいよっ!隣のアタシの部屋まで、まる聞こえ」


 ガラッと、突然、護の部屋の扉が開け放たれた。

 その苛立ちを込めた声の主は、妹の未来ミコだ。


 現在中学生。

 小学生の頃までは護のことを「お兄ちゃん」と呼んでくれていたのに、中学に入ってから友人に感化されたのか、いつのまにか「兄貴」呼ばわりである。兄としては、悲しいことこの上ない。


 さて、その外見だが、「同じ遺伝子なのにどうしてこうなった?」と彼女の写真を見せられた照彦が、何度も護の顔とスマホの間を往復した程度にはおそらく妹は可愛い。


 髪型は左右それぞれで結んでいる、いわゆるツインテール。

 小説や、漫画でこそ、良く出てくるものではあるが、実際現実にコスプレ等でこの髪型をしている女子を見ると、何だか違う……と男が思っちゃう髪型No1である。

 それが違和感無くこの世に実現されているだけでも奇跡、と照彦は感動したように言っていた。


 ……いや、今は、それどころじゃ、なかったな。


 護は、首だけは、まるで壊れかけの動きの悪いロボットのように、およそ15度ずつ数回に分けて旋回させて、扉の方に向けたものの、急な侵入者に、どう誤魔化したら良いものか分からず、その結果として、体は先ほどのポーズのまま硬直せざるを得なかった。

 

 やばいよね……。

 どこをどう見ても、妹と同じくらいの幼女を連れ込んで、今まさに事に及ぼうとしてるようにしか見えないんだからさ……。


 俺の人生ここまでか……護は観念した。

 わかったろう?

 だから、現実空間で犯罪行為はしちゃいけねえんだよ……。


「何?そのポーズ。両手からビームでも出す気?」


 ところが、未来はまるで、ミナなどその場にいないかのように言ったのだった。


「へっ?」

「やめてよね。恥ずかしいから。それに、兄貴とか、どう考えても、最初にやられる敵側雑魚か、よくても、味方側の噛ませレベルなんだから、自覚してよね」

「いや、未来、お前見えてないのか?」


 妹の酷い自分への評価は百歩譲って、さておけたが、自分自身の人生の終わりな覚悟がスルーされたことは、さておけなかった護は、目の前にいるミナの方を指さした。


「何?何も見えないよ」

「本当に?」

「……兄貴、とうとう幻見るようになっちゃったか」


 既に、未来は、兄への哀れみに溢れた表情をしていた。


「ええっと、こういうときは精神科、心療内科、どっちなんだっけ?」

「ちょっと待て!兄を何だと思ってるんだ」

「ヘンタイ」


 迷わず、この世で最も冷たいのではという視線を護に向けて送りつつ、未来は断言した。


「……すみませんでした。静かにしますので、許してください」

「最初からそういえばいいのよ。変にアレンジしないでさ」


 それだけ言うと、扉を閉めて、未来は自分の部屋に戻っていった。

 護の部屋の中は嵐の過ぎ去った後であるかのような静けさを取り戻す。

 

「くそう、隣の部屋にまさか抑止力がいたとはな……しかし、ミナ、お前俺にしか見えないのか?」


 我に返って、冷静になって、考えると、これは恐ろしいことである。

 確かに俺頭おかしくなったのか?と考えないでもないが、現実に見えているのだから。


 ミナはそんな護の方を見てキョトンとこれまた可愛らしい表情をするのだった。

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