第4話 抜けたはいいけど、まさかの墜落!?

飛んだ『あたし』は、どこまでもどこまでも上に飛んでいった。そして、雲の上に出てようやく空中にとどまった。


「…気持ちいい…。」

雲の上は、少し肌寒いけど空気がきれいだった。日の光が直接当たっているのが難点だけど、それも気にならないくらい気持ちがよかった。

なんと言おうか、ここで昼寝をしてみたいくらいというか・・・まず、雲の上に乗ることができるかすら分からないが。

気になった『あたし』は、雲の上すれすれ(足が雲に届くぎりぎりまでの近さ)まで行くと手を伸ばした。しかし、手は雲を突き抜けて中に入ってしまう。感触は気持ちいいのだが・・・ここで昼寝をするのはまず難しいだろう。

(…前にいた世界と同じなの…かな)

疑問を感じたが・・・記憶があやふやな今、前にいた世界と比較することなんてできない。

それを忘れようと、『あたし』は頭を横に降った。そして次にどうしようか、考えを巡らせた。



―――するとその時。視界の端に、光が瞬いて見えた。

かすかなものでとても小さかったが、『あたし』にとってそれは、考えを中断させるのに充分なものだった。

翼を動かしてそこに向かう。今回は飛ぶことにも慣れてきたので、少しスピードをあげて飛んでみた。すると、その分早く飛んでいけるようになった。少しの成長だけど、『あたし』にとっては大きな進歩だ。慣れていけば、もっと早く飛ぶこともできるかもしれない。

それと『あたし』との距離は、どんどん狭まっていった。同時にそれは形が大きくなり、そこに着く頃には穴となって姿を現した。そして気になっていた光の正体も、ここでようやくわかった。


―――穴の下は、どうやら海(?湖かもしれないが)の上らしい。


穴から見える海(かは分からないが)は、太陽の光に反射してキラキラしていた。その海の上を、時おり海鳥が飛んでいたり、魚が跳ねたり。

竜がすごい勢いで飛んでいたりするときもあった。それを見て『あたし』は、ここは自分がいた世界ではないことを、改めて痛感した。


(…やっぱり、転生か転移…なのかな)

―――どうしてここに、『あたし』はいるのか。それはまだ分からない。すでにもう、なにもかもが分からないことだらけで、嫌になりそうだった。



ともかく、考えるので時間を潰す訳にはいかない。まずは穴のなかに入ろうと、より近くに飛んでいった。

穴のなかは、先ほど見た通り海か湖の上のようだった。光に反射して、キラキラと水面が青く輝いている。穴から下まで、どのくらいの距離があるのか・・・気にはなっていたのだが、やはり正確なものは分かりそうにないようだ。

(…大丈夫、泳いだことあると思うし。怖いけど…大丈夫)

『あたし』は深呼吸を一つすると、穴のなかへと飛び込んだ。




勢いよく中へと飛び込んだせいか、ビュウビュウと顔に風が当たる。だから、目を開けていられない。半目になってしまう。

少しでも風の抵抗を抑えようと、『あたし』は翼を畳んだ。ほぼに。

そのおかげか、穴のなかを落ちていく『あたし』はスピードが上がっていった。


そして、ようやっと穴の下に出ることができた。同時に、『あたし』は翼を広げて空中に止まった。


雲の上から穴を覗いた通り、下には一面の水が広がっていた。しかし、遠くに山が見えるので、海と言うよりかは湖に近いだろうか。

「…ほんとに、全然違う…あの世界と。」

遠くにある山を見ながら、『あたし』は小さく呟いた。


―――下に出たはいいが、どうやらまだ人里は見つからないようだ。

なぜなら、湖の上をぐるっと飛んで旋回してみたものの、見えるのは山と森ばかりでなにもなかったから。

(…どうしよう…)

困った。非常に困った。

村かなにかでいいから、少し休憩したかったというのに。それからこの世界についてなにか、情報が欲しかったというのに。

それが今―――出来そうにないとは。

本来であるならば、森のなかに降りて人里を探したいところだ。だが、この世界の情報がない今現在、なにがあるか分からない。ましてや森なんてどんな危険があるか・・・考えただけでも恐ろしい。

(…ほんと、どうしよう…)

思考がどんどん、不安と焦りで切羽詰まっていった。だからこそ、周りの様子に『あたし』は気付くことが―――




できなかった。






・・・気付いた時にはもう、なにもかもが遅くて。

背中に走った衝撃とともに、金色の翼が羽を散らした。同時に、意識でさえも消えていこうとしていた。

「……………ぇ?」

そして、なにが起こったのか分からないまま、『あたし』は下へと落ちていった。

―――黒く染まる視界と、消えていく意識とともに。

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