act.15 状況確認とララの小さな恋心

「痛い。もっと優しく扱え!」

「ララ様。少しは我慢してくださいね!」

 ミハルがハサミを使って戦闘服を切り、ララを裸に剥いていく。ベルトも外され下半身まですっぽんぽんにした。ミハルの手際はよく、容赦なく作業している。

「さあじっとしてくださいね」

 背中の傷に洗浄用の薬剤を吹き付けられる。

「うがぁ! 痛い!! もっと痛まないようにやれ。このバカ者」

「はいはい黙って下さい。ほーら綺麗になった」

 大きく肩で息をするララ。背中の傷は脊椎まで達していた。まだ止血は出来ておらず、血がにじみ出してくる。

「今度は治療用のゲルを散布しますよ。しみるので我慢ですよ」

 ブシューっとゼリー状の薬剤が吹き付けられていく。その表面はすぐに乾燥しブヨブヨの被膜となった。ララは目に涙を溜めて痛みをこらえている。

「とりあえずこれで止血は終了。次は他のかすり傷を治療しますね」

 再び洗浄用の薬剤が吹き付けられる。

「うがあ。しみる、やめろ、しみるぞお!」

 治療室にララの悲鳴が響く。ミハルの治療は容赦がなかった。


 外の草原ではヒナ子が元気よく走り回っている。

 地図を広げ、ネーゼと旭が打ち合わせをしていた。


        北↑

      [戦場跡]

  [森跡地]   [工業地帯]

←西     [王城]    東→

   [畑]    [貴族屋敷通り]

      [ 聖域]

        南↓


※この地図は横組み専用となっています。縦組みの方は正確に表示されませんのでご注意ください。


 大まかな位置関係はこうなっている。

 今いる場所、ここは地図上では南東の貴族屋敷通り。その一帯は草原になっていて、その草原の中にポツンと建造されている美術城イクリプス近郊の丘になる。


「ビンイン・ジ・エンペラーの拠点ですが、調査ではこの中央部、王城の中に位置しています」

「王城の中ですか。大胆ですね」

 ネーゼの言葉に旭が答える。

「大胆ですが、理にかなっています。そこは現状無人になっていますし、中央であることでどこに行くにも距離が近い。拠点としては良い位置だと思います」

「逆に言えば、どの敵とも近いので包囲されやすい」

「しかし、他より戦力が高ければおびき寄せて戦うため条件は有利となります」

「なるほど」

 この二人は戦術的に近い感覚のようだ。

「注目すべきはこのビンイン・ジ・エンペラーに配置されているのが帝国軍の鋼鉄人形なのです。宇宙軍の装備は北東の工業地帯に配置されていると思われます。そこはソリティア・ウィード陣営が拠点化しています」

「それは確定情報なのですか?」

「はい」

「すると、北東方面の守備を厚くしているのかな?」

「一般論ではそうでしょう。私なら主力部隊を北東、遊撃部隊を南西に置きますね」

「その遊撃部隊が切り札ですか?」

「ええ。そうです。私達で言えばハーゲンとリナリアです」

「あの獣人が切り札……」

 旭がハーゲンを見つめる。彼はリナリアの操縦席で何か作業をしていた。獣人を見慣れていない旭はハーゲンのような人外の存在が軍の要職に就くことが信じられなかった。

「帝国ではその、獣人の方も平等な権利をお持ちなのですか?」

「ええ、そうですね。過去には獣人の皇帝が治める時代もあったと聞いています」

「そうなんですか。人種差別などあり得ない国なのですね」

「獣人も種類が多くて、ハーゲンのような哺乳動物型、爬虫類型、鳥類型、魚類型、昆虫型などがあります。宗教的に統一されているため種族間でのいさかいはめったにありません」

「では宗教的な対立があれば諍いは起こると」

「その通りです。今回の騒動も宗教的に対立している陣営が引き起こしていると考えられます」

「なるほど」

 旭は大きく頷いている。


 そこへ上半身包帯グルグル巻きのララが出てきた。

「もう結構。お前の治療は要らん。後は自前で何とかするからどこかへ行け。来るんじゃない」

「ララ様。後は痛くない法術治療だけですが」

「それは要らんと言っているだろう。ある程度自前で出来る」


 ララとミハルの追っかけっこを眺める旭だった。

「そうですね。この社長戦争が終わるまでララさんと行動を共にします。モナリザ・アライ陣営を裏切ることはしませんが、その他の事柄ではララさんのお手伝いをします」

「ありがとう。旭さん」

 そう言ってネーゼは旭の頭を抱き寄せる。豊満な胸に翻弄される旭の頬は赤く染まっていた。

 それを見つけたララがダダダダダダダダダダダダダダっと走って来た!!

「姉様! 旭さんを誘惑しないでください!!」

 そう言って旭を引っ張る。

「ララさん。僕は大丈夫ですよ」

「え? どこが大丈夫なんですか? もうデレデレしててお顔が緩みまくってます!!」

「いえ。僕はその、地元に婚約者がいるんですよ。だから、ネーゼ様になびくことはありません」

「婚約者がいるのですか……」

「はい」

 その一言を聞いたララの眉がピクピクと痙攣していた。


「ミハル! 法術治療をしてくれ。まだ背中が痛い」

「はいわかりました」

 ニコニコしながらララの手を取り艦内に向かうミハル。

 それを見ながら旭が尋ねた。


「あの、言っちゃって良かったのでしょうか?」

「そうですね。事実は時に残酷なのですが、虚構の夢を追い続けるよりはそれを知ることの方が重要です」

「そうですか」

「ええそうです」


 後悔の念が浮かぶ表情の旭であったが、対称的にニコニコと嬉しそうなネーゼであった。



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