第29話 魔法と特技

「すごいでしょうラーク君、これは『絶対魔力遮断』です。人が放つ魔力を完全に遮断することによって精霊をコントロールすることも、魔力を使った肉体強化魔法さえも発動しなくします。対人の魔法としては最高に素晴らしいでしょう。本当にここで戦ってくれて良かった。これは呪紋による魔法なので、前にここで実験していた呪紋がたまたま残っていましてね。……この実験を元に何百倍規模も可能になりました。ラーク君が二人を逃がしてくれたおかげでこれを発動させられましたよ……簡単に敵を逃がすだなんて、まだ前世の気分が取れていなくて人を殺すことが怖いのかな?それともマルトでの生活が生ぬるかったのかな?」


しまった。さっきの二人はこれを発動するために逃げたのか?これは俺のミスだ。まだ人を殺すことに恐怖があるからついバカなことをした。


「………なるほどこれを王都グレール内でしてから、集めていたオーガとかで城を襲わせるわけか。確実に王都を壊滅出来るね」


これで王都に騎士や、数多くいる冒険者たちの力を削ぐわけか!魔法や身体強化が出来ないのなら、銀級の魔物は獣人以外では対応できない。獣人も王都グレールに数多くいるわけでもないから、間違いなくほとんどの抵抗が出来ないままに王都は壊滅出来る。


「そうですよ、やはり賢いね。この説明だけで私の計画が分かった人はラーク君だけですよ。さてどうします?降伏してください。私としては傷つけるつもりはありませんが、抵抗するならそれなりに対応しますよ」


駄目だ!どんなに魔力をこめても霧散してしまう。魔法が使えない。


剣技にしても身体強化の魔法なしでは、俺の腕では勝てる見込みはまるでなし……。


……かといって。


「そっちの手ごまになるつもりないよ、仇をとらないとね」


俺は剣を構え直す。

きっとこのまま俺では勝てないが……こいつらの稚児になるつもりはねーよ。


「なら手足を折ってから、その身体にこの『絶対魔力遮断』の呪紋の入れ墨でも入れてあげようかな。……手足を切り落としたり殺したりすると大変だからね勿体ない


マリガが剣を鞘に戻すと柄と鞘を腰ひもで固定した。

つまりは鞘を付けた状態の剣で、俺を殴るわけだ。

ひでーなおい。


「おいで、楽しい稽古をつけてあげる」


マリガがまるで美味しそうなスイーツを食べるかの如く、俺を見て舌なめずりをした。


「やだね、普通にして勝てないし」


俺は逃げる。だが回りは魔物と賊の死体だらけで思うように走れない。

大人と子供の体格差ではまともには戦えない。


「逃がすと思う?」


マリガが俺を追ってくる。

鞘のつけた剣を俺に叩きつけようと瞬間に、俺は身体をひねってよける。

そして俺はその反動で剣で斬りつけるが、マリガはわずかに皮膚を切っただけでよけている。

俺は体勢を直そうとしたが、その前にマリガの蹴りが腹に入り3メートルほど飛ぶ。


「げふっぁぁぁぁぁああぅぅう」


苦しいっ……腹を蹴られて呼吸が出来ない。苦しくて涙が出てくる。


「大人しくしていれば痛い思いしなくていいのに」


マリガが楽しそうにニヤニヤしながら、俺の方に近寄ってくる。


「マリガがいやらしい顔して近づくからだろう。あれなら俺でも警戒するしょっ」


赤髪の男が姿を現して、俺に近寄ってくる。


「だってこんなに女の子みたいな可愛い顔した子はついつい、いじめたくなるよ」


マリガが俺をまた蹴り飛ばす。


「ぐふっああがぁぁぁ」


また蹴り飛ばされ、受け身もとれず地面に叩きつけられて俺は苦しさのあまり転がり続ける。


「おいおい、楽しみ過ぎて殺すなよ、こいつの『火薬と銃』製造の知識がいるのだろう」


金髪の男も現れた。それよりも日本語をしゃべっている。

ならこいつは………。


「殺すわけないし、でも殺さないようにするのが大変だった。勇者属性の私と違って魔法使いの能力しかないくせに、王都にいる大人の冒険者よりも剣の腕があるってね。ゴルド、ラーク君のステータスはどうなっている?」


ステータス?

金髪の男は俺を見ながら空中をいじるように指を動かす。


「おいっすげーな、こいつ魔法属性のレベルは全部上限だぞ。……さっきの死魔法ってやつがすげーぜ……しかも剣技レベル6だってよ。ここで死んでいる奴らよりかなり上だし」


えっレベル?ステータス……もしかしてだけど……。


「ほう、すごい子供で剣技がレベル6?なら本人のレベルは?」


マリガが感心して言う。


「でもレベル24、この歳ではすごいけどマリガが追い込むレベルではないぜ。マリガはレベル87だろう?子供だからと油断し過ぎだな!」


完全に空中の画面を見ているようにしゃべっている。

俺の視線気づいたゴルド。


「俺も『元日本人』だぞ、能力は『ゲーム』簡単に言うと『ゲームの中のキャラクター』と同じ能力を持っていて、ステータス閲覧や鑑定能力とかアイテムボックス……まあコマンド入力とかな、ゲームをしたことがあるなら分かると思うがいろいろと便利なことができる。元が31歳のオッサンなら言っている意味わかるだろう?」


確かにそれは、よくライトノベルにある王道な能力だ。あればかなり便利だろう。

コマンド入力で呪文とかなんかは便利だし、アイテムボックスってものすごく欲しい能力だ。そしてステータスや鑑定能力もだ。

異世界ファンタジーでは絶対に欲しいと思う能力だ。

それよりも………。


「はあ……はあ…そ……はみ、皆……て、転生し、者か?」


腹のダメージで呼吸が出来ないから会話すら難しい。苦しくて意識がなくなりそうだ。


「せいかーい、やっぱり31歳オッサンは頭いいね。ゴルドは8歳からの転生、おいらは『Americanアメリカ人』で、5歳からの転生だよ。おっと、自己紹介が遅れたね!おいらはネイルだよ、これからよろしくなラーク」


俺に向かって親指を立てる。

……アメリカ人もいるってことは世界中から転生者はいるのか?


「いろいろと規格外の能力ステータスですね、ラーク君、これからはたっぷりと可愛がってあげますよ」


マリガが固定していた紐を解くと、鞘から剣を抜き、俺に向けると身体の上スレスレに剣を走らせる。

すると服だけが切れて上半身の服が取れてしまう。


ヒュー


ネイルが口笛を拭く。


「へえーガキなのにそこそこいい身体している。剣技レベル6なのも納得」


ゴルドがニヤニヤしながら俺の身体を見る。

そりゃ鍛えるために普段の生活でも魔法を使い、身体に適度な負荷をかけて、筋トレをしていたからね。


「それよりも美しい。たしかモテたいと願ったと言ってましたね。私はこの美しさで完全に虜になりましたよ」


マリガの目が怪しい。

もう鳥肌が止まらない。俺は男相手にモテるとは願っていない。

………でも違うとも言い切れない。ただモテモテになりたいと言っただけだし……あの神様が勘違いしている可能性も高い。


「おいらでも変な気分になるね、これは能力か?ガキが苦しんで悶えてる姿みて喜ぶなんかマリガの悪趣味だけだと思ったけど、今なら気持ちがわかるねぇ。マリガどうする?このまま身体に呪紋をいれるのか?」


ネイルが俺に近づき身体をいやらしく触る。あまりもの気持ち悪さでビクッとなる。

服を脱がせたのは魔法封じの呪紋を入れるためか!呪紋の入れ墨を入れられたら俺にはなにも出来なくなる。魔法を使えなければただの子供でこいつらに逆らえなくなってしまう。


「そのつもりでしたが、それはもったいないですね。とりあえず奴隷の首輪だけでいいですよ。たしかゴルドは持っていましたよね」


マリガがそういうとゴルドは何もない空間に手を突っ込む。


「あったぞ!」


ゴルドが手を出すとワインレッド色の首輪が出てくる。

あれは兵器の図鑑で見たことがある。

呪紋を施された契約奴隷の首輪で、一度はめると契約者主人が許さない限りはずせない。自分の死すら契約者主人の命令を聞くことになる。


元々は戦争での兵隊用に作られた首輪だ。兵隊が前線で逃げたり動かなくなることを防ぐために作られた物だ。

戦争時に従わない冒険者などに付けられたと書いてあった。


「私が首につけます、ゴルド渡してください」


マリガが手を出すが。


「……いいや、俺がつけるよ」


ゴルドはマリガに首輪を渡さない。


「おいらが付けるからよこせよ」


ネイルがゴルドから首輪を奪おうとする。


「嫌だね、これは俺の持ち物だ」


ゴルドがネイルからよけると、空間から槍ランスを取り出して首輪しまう。


「リーダーは私でしょう、私に権利がある」


マリガも剣を構える。


「いやいや、すでにおいらたち以外は全滅しただろう。今更リーダー面するなよマリガ」


ネイルは片手剣を構える。


この奴隷の首輪を付けた者が奴隷の契約者主人になる。つまりは三人は俺の契約者主人になりたいわけだ。

無詠唱で魔法が使え、防御魔法すらない死の魔法が使える俺が奴隷になると、この三人の転生者パワーバランスを崩すものだろう。


「この魔法の使えない空間で、マリガは俺に勝てると思うか?こっちはレベル91だぜ、ネイルもレベル90だろう」


ゴルドがニヤリと笑いながら言う。


「そうそうマリガはあきらめな、それよりもおいらの手助けしたら、気が向いたらたまにはラークを貸してやるよ」


ネイルがそう言う。

てか貸すってなに?俺は物か!


「無理ですね!そんな戯言は聞けません」


マリガはゴルドに斬りかかるが、ゴルドは避けてマリガに槍の柄を叩きつけるが、素早く避ける。

ネイルがその後ろからゴルド向かって、手裏剣クナイを投げるが、槍の柄で器用にすべてはじく。


「やるね」


ゴルドは槍を横に一閃させると、二人は後ろに下がる。

この魔法遮断の状態では、肉体の能力と純粋な武力がある者が有利だ。

しかもゴルドがアイテムボックスの中に首輪を持っているから、ゴルドを殺さずゴルドを屈服させる必要があるのだろう。


「仕方ないですね、一時組みますか」


マリガが仕方がないという顔した。ゴルドから首輪を奪うためにマリガとネイルが一時的手を組んだのだ。


「魔法の使えないマリガは逆においらに感謝して欲しいけどな。ラーク待っていろよ」


ネイルが俺を見ながら唇を舐める


「うなれ、龍尾閃りゅうびせん


ゴルドが叫びながら槍を振ると槍先から衝撃波みたいなものが出てくるが二人ともスレスレでよける。


なんだあれは?魔法とは違うのか?


「おいおいっ特技による攻撃はキャンセルにならないのか、やっぱりゴルドが有利だね、マリガ行けよ」


特技ってか!特技攻撃ってドラ〇エかよ?


「仕方ないですね、しっかりあとはお願いしますよ」


マリガが低い姿勢でゴルドに突っ込んでいく。

懐に入られ掛けたゴルドは慌てて体勢を直して、マリガの攻撃を槍の柄でかわす。

それと同時にネイルが、手裏剣クナイをいくつも投げつけて素早く手を組んで、印を組む


「主の名を持って敵を斬れ我がしもべ舞え、シューティングスター」

「ちっ」


ゴルドは槍の柄で手裏剣クナイをはじくが、まるで意思があるように何度も襲う。

ガン〇ムで言ったらファ〇ネルのように、空中を自由飛び回り攻撃する。

避けている隙を、マリガが攻撃をする。


「特技がいけるね」


ネイルが楽しそうに笑う。


「……すごい」


ダメージから大分回復した俺は、思わずつぶやく。

この……中二病の攻撃がすごい。


「どう、すごいでしょう。おいらの能力は『忍者』で忍術による攻撃と呪紋魔方陣を操ることだよ。おいらの奴隷なったらいろいろとおいらのこと教えて上げるよ」


ネイルが俺に向かってウィンクした。


「ちっ吹き飛ばせ土龍漸どりゅうざん


槍の石突を地面に叩きつけると無数の石が舞い上がり手裏剣クナイ落としていく。

マリガは身をかわしダメージを受けていない。


「あれ?意外に強いな。まあまだ楽しませてもらわないと」


まるでこの殺し合いを、テレビゲームでもしているかのように、ネイルは楽し気な声を上げる。

……そうだ!


「ここでみんなに提案!」


俺が声を張り上げる。


「なんだ!」


ゴルドが俺を睨む。

戦況が不利だからどう見ても機嫌が悪い。


「俺は魔法が使えないならこの三人の内の誰一人としても勝てる見込みはない。それならば勝った人賞品として、首輪をつけて奴隷なって無茶苦茶にされるより、勝ち残った一人と奴隷にならないように俺の持っている知恵を渡すと交渉したが有利だから……正直、首輪をつけて奴隷になるのだけは絶対に嫌だから、勝ち残った人の言う事を素直に聞く方がいい」


俺が泣きそうな顔をしてゴルドとネイルを見つめる。


「……というわけだネイル」


ゴルドが槍を下げる。


「うーん、まあ……マリガ、協定は破棄だ」


ネイルが少し気が抜けたように言った。


「……困りましたね、ゴルドを殺したらアイテムボックスの中の物が取れたのにね、ラーク君のせいで計画が変わりました」


おっそうだったのか!言ってよかった俺のナイスアイディア!

大体、仲間のゴルドを平気で殺し合えるのが怖い……。

マリガは不利になったのを気づいたのか二人から距離をとる。


「吼えろ龍我砲りゅうがほう


マリガに向かってゴルドが槍を突き出すと、槍先から赤い衝撃波のようなのようなものを打ち出す。


まるでかめ〇め波のようにマリガを攻撃する。


ドゴォォォオン


それを合図にネイルがゴルドに向かい手で印を結ぶ。


「主の名を持って敵を埋めろサンドストーム」


砂嵐が起こり、ゴルドを襲う。

そしてネイルが手裏剣クナイを砂嵐の中に投げ付ける。


「主の名を持って敵を斬れ我がしもべ舞え、シューティングスター」


またさっきと同じ技かよ!と思いつつ俺は行動に移す。

じわりじわりと気づかれないようにして、この場から立ち去ることだ。


俺はある程度距離が取れたところで走り出す。


「おいラークが逃げだした、一時休戦」


「呪紋の範囲から出られると厄介ですね」


「ちっ舐めやがって」


うわっもう気づいて三人が追いかけてくる。

ヤバい、早く気づかれ過ぎた、だが俺はさっきのダメージがまだあり、思うように走れない。


「くらえ」


ザクッ


俺のふくらはぎに手裏剣クナイが刺さる。


「いてぇー」


俺は黒焦げになったオーガの死体の横にある、盛り上がった土の上に身体を突っ込んで倒れる。


「おやおや身体を傷つけないでください」


マリガがやれやれと言った感じで言う。


「どうせこんな傷は治癒魔法ですぐに治るだろ。てか散々蹴っていたお前が言うな」


ネイルがあきれたように言う。


「逃げるとはどうなるかわかっているのだろうな」


ゴルドは厳つい顔をより怖くして俺を睨む。


「なあもう戦うのは面倒くさいから、さっさと呪紋の入れ墨入れるか?範囲外に出たらこれですまないしな」


「あがっ」


ネイルが俺に近寄ると、俺の背中を踏みつける。

手裏剣クナイを取り出し背中に呪紋を入れようとする。











「お父さーん助けて!」


俺は叫ぶ。


「あん?誰がたす………」


ドゴゴゴーォォォン


俺の後ろにあった土が弾けると同時に、キラッとしたと思ったら俺の背中を踏みつけていたネイルの頭が吹き飛ぶ。


「てめーら………ラークに手を出してタダで済むと思うなよ」


俺の目の前にはオーガ大鬼より怖い顔をした、クラークが剣を構えて立っていた。

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