第20話 王都『グレール』

「おいおいクラーク、2刻4時間も掛からず着いたぞ」

マッシュは驚きの声を上げていた。


俺たちは王都『グレール』に、日が沈む前に着いた。

普通ならどんなにタフな早馬でも二日近くはかかる距離だ。マッシュが不思議に思っても仕方がない。


なぜなら俺の魔法でほとんど休めず来たからだ。

普通なら30分に一度ぐらいは休憩を入れないと馬が潰れるのだが、あまりにも元気すぎるたために、水を飲ますためにぐらいしか休ませてない。

風魔法速度アップが切れてなかったから効いている間に、少しでも早く距離を稼ぎたかったのが一番の理由だったが、しかしこれは異常すぎた。



「シールの腕が上がったのか?治療師中心だからサポート系が特化したとかか?」


マッシュは不思議そうに首をかしげる。


「さあな、でも魔法もよくかかるときとかからない時があるからな」


クラークはこの不思議な現象を適当な理由をつけて納得した。

俺以外には説明できる人が居ないからな。

もちろん説明をする気はない!










「すげー」


俺は初めてやってた来た王都『グレール』を見つめて思わず感嘆の声をあげた。

『グレール』の周囲には高さが15メートル近くある、堅牢な石壁が取り囲んでいた。マッシュ曰く、長さにすると30キロほど長さの壁に囲まれているらしい。

きっと土魔法と身体強化魔法を駆使して大量の人員で作ったのだろう。魔法があるから下手すると現代日本の重機よりもすごいかもしれない。

門をくぐり抜けて中に入ると、ヨーロッパの国みたいな石造りの家などの建物が並んでいる。まるで漫画やアニメのファンタジーの世界そのものだ。


ここは王都なのでもちろん城がある。

だが残念ながらディ〇〇ーランドにあるような、ノイシュヴァンシュタ〇ン城のような形ではなく、少し小高い丘の上に石造りの四角いでかい建物があるという感じだ。


城中にはもちろん王が住んでいるそうで、マッシュの話では16人からなる王妃とその子供の王子と王女がいるそうだ。

合わせると100人以上になるという話だ……ひぇー絶倫かよ。





「着いたな、久しぶりだなここは」


クラークが呟く、看板には『宿屋 ギミット』と書かれていた。

ここは所属していた鷹の翼の拠点であった。若いころクラークは、このギミットの宿で生活をしていた。


「もうあの当時のほとんどメンバーは引退したからな、中にいる知り合いと言ったら、店主とおかみとコムぐらいだろうな」


マッシュがクラークの肩を『バシッ』と叩いて言った。

冒険者は儲かるがきつい商売だ。30歳ぐらいで引退するのが普通だ。……いや正確には30歳前までには、大半が引退か死んでしまう・・・・・・のが実情だ。

マッシュが36歳まで無事に冒険者をしていたのは奇跡的な方だろう。

ほとんどの冒険者は魔物との戦いで死に、それか四肢欠損とかになり引退していく。怪我の多い仕事だからこそ仕方のないことだ。

四肢欠損は魔法での治療をしても、残念ながら治すことができない。



中に入ると宿の一階は酒場みたいで6人ほどの冒険者が話をしながら酒を飲んでいた。うんもろにファンタジーだ。

ここまで想像通りライトノベル通りとは、俺はついにやけてしまう。


「おっす、ひさしぶだなダム」


クラークはテーブルの上の片付けをしているグレーの髪をした40代ぐらいのおじさんに声をかけた。

そのおじさんはすごく驚いた顔をしていた。


「クラークじゃねーか、いつ戻ってきた!あっ、やっぱりついにシールに追い出されたか!」


「だれが!違うし!用事で来ただけだ!大体なんで俺が追い出される前提なんだ!!!」


クラークが怒っているが、それを見てガハハッと笑うダムが横にいる俺に気が付いた。


「もしかしてお前とシールの子か?!めちゃくちゃシールにそっくりじゃないか!」


「そうだよ」


クラークは俺の肩を掴んで前に押し出した。


「初めまして、ラークと言います。よろしくお願いします。」


俺はダムに向かって挨拶をした。まあ礼儀だからな。

親のクラークに恥をかかすつもりはない。


「あのクラークの子が挨拶した?嘘だろ!会うなり、俺は勇者になる男だだからクラーク様と呼べおっさん、と言ったクラークの子が挨拶するか!これはシールの教育がいいのか!」


クラークってかなり痛い奴だったんだ。マリアンにはいろいろと聞いていたけど、実際はもっとひどいみたいだ。



『おい、いまクラークって言ったな』

『あのクラーク?』

『まさか!たしか王様を殴って国を追放されたと聞いたぞ』

『俺は王女をかどわかしたために国外追放だと聞いたけど!』

『いやいや、貴族の屋敷に侵入して嫁を夜這いして、腹ませて、それをネタに脅して領地を奪って、ハーレムを作っていると聞いた』

『俺は性欲のあまり魔物を犯して食われたしまったとか』


酒場にいた冒険者たちが口々に口々に言っていた。

クラーク……。なんでそんな噂が流れているの?息子としておいらは恥ずかしい。

思わず、少し離れた。



「てめーら!何でたらめなこと言ってんだ」


クラークが顔真っ赤にして見知らぬ冒険者に殴りかかって行きかけたが、マッシュが止めてくれた。


「まあまあ、ほとんど嘘ではないだろ」


おい、否定しろよ!マッシュさん。怖いよ一部でも事実なら……。


「違ーーーーう!………はっラーク!なんでそんな目で見る?信じてくれよ!お父ちゃんを!!!!」


クラークがしばらくの間は、俺に必死の言い訳をしていた。  












「キリクは今は居ないが、たしか明日には田舎から帰るはずだよ」


ダムは俺たちに軽い食事を出してくれ、現状の話をいろいろと話してくれた。

マッシュ達が元所属していた『鷹の翼』は、冒険者ギルドから討伐依頼のあったため、しばらくはこの王都『グレール』に帰ってこない。

探していたアーロンはエルフで、東の地区で店を出しているってこと。獣人のキリクはすでに鷹の翼を引退しているが、実家に出かけているそうだが、明日には帰ってくると言う。


「なら今日のうちにアーロンと接触するか!」


「そうだなマッシュ、ラークはここにいろ」


二人は立ち上がり出かけようとする。


「一緒に行きます」


やだよ!こんなところで一人で待つのは!あとエルフが見たい。


「仕方ない。ダム、しばらくは厄介になるぞ」


「すごい、焦っているな。あの食い意地のはっていたクラークが飯を食べないとは!

後は任せろ部屋は用意しとく!行ってこい」


俺はクラーク達はついて宿を出ていく。

焼いた肉と茹でた芋らしき物とワインが出てきたが、クラークにしてもマッシュにしても、そして俺も出された食事を一切食べていない。


それは俺たちが腹が一杯で食べないわけではない。むしろお腹は空いている。

たしかに誘拐のことで焦ってはいるが、それを理由で食べなかったわけでもない


単に不味そうだからだ……その証拠に。


「ラーク、ダムに言ってやるから帰ってきたら台所を借りろ。……今晩の飯は後で作ってくれ」


マッシュは宿を出るときにそう俺に言ってきた。




二人は俺の料理にマルトでの食事慣れているから、もう他の料理が食べれなくなっている。

それほどまでにこの世界の料理はまずい。

単純に煮ただけとか焼いただけとかが多い。しかも岩塩がそこそこ高いからなのか、味付けも薄く味気がない。その上肉は血抜きしていないから獣臭い肉が多い。

俺の料理に、はまる理由がわかってもらえるだろう。






「久しぶりだね、クラーク10年ぶりかな?」


「ああ、アーロン、懐かしいな」


クラークとアーロンは固い握手をしていた。

彼はアーロンというエルフだった。ここで占い師をしている。

占い師と言っても勘で答えるのではなく、魔法を利用して調べるという。

エルフは人よりも精神力が強く、俺らにはない能力があり、簡単な予知もできるそうだ。


昔は『鷹の翼』でクラーク達と冒険者として活躍していたそうだが、クラークが冒険者を辞めた次の年にモンスターに噛まれて左手の指の大半を失ってしまった。

それきっかけで冒険者を引退して、今では占い師として生計をたてているそうだ。


「クラークの息子のラークです、よろしくお願いします」


俺は手を出し握手をする。


「えっ……よろしくラーク……そっくりだね」


アーロンは俺をみて驚いていた。確かにシールにそっくりな顔だからな。それにしては驚き過ぎだ。



「早速だが頼むよアーロン」


「わかった!クラークの頼みだ、断ると後が怖い」


アーロンは舌を出して笑って言った。




庭に出ると地面に呪紋じゅもんを書き出す。

そしてマッシュからポポ達の髪の毛を受け取ると、呪紋じゅもんの上に髪を置き儀式を始めだした。


「時がつむぎ、英知が過去と未来とすべてにおいて流れ続け記憶し続ける。ここの者たちの今を教え給え」


アーロンは精神を集中し呪文を唱えると、目の前の呪紋じゅもん上に軽く風が吹き土も舞い上がり、雨のように水が振り、最後に中心で火が一瞬燃え上がった。


「うーんこれは……一応まだみんな生きている……けど…まだ大丈夫かな?」


よかった…まだ生きていた。急いで見つけないと‥‥。


「歯切れが悪いなアーロン、でみんなはどこにいる!?」


マッシュがはっきりしないアーロンに聞く。


「比較的近くにいるのはわかるけど……結界魔法が利いていて正確な位置がわからない。相手はそこそこの手練れだよ、結界魔法知っているなんかそこそこな知識がないとできない」


結界魔法とは魔法を打ち消す魔法で、呪紋じゅもんを使い精霊魔法を消してしまう。

結構、高度な技でそれなりの計算力と知識がないと使えない魔法の一つだ。


「となると相手に高度な魔法使いがいるってことか」


「そうだね、しかもこちらが魔法検索してくるのを、読んでいるから相当誘拐を慣れている奴らだよ」


マッシュとアーロンが「うーん」とうなっていた。


「仕方ない、マッシュ、後は明日のキリク帰りを待って頼むしかない」


キリクは犬の獣人で鼻がよく利くそうだ。

こうなったら後は嗅覚に頼るしかない。上手くいくといいが……。



「じゃあ僕はそのまま調べておくよ」


「悪いけど頼むよ、アーロン、俺たちはギミットの宿にいるからいつでも来てくれ」


クラークとアーロンは昔は仲が良かったらしく、一緒にかなりの悪さをした仲だそうだ。

また堅い握手して肩を叩き合っていた。










俺としたらエルフに期待していたのに……。


アーロンは美形ではなかったのだ。


確かに耳が長く金髪だったが、宇宙人で有名なグレイによく似た顔立ちで瞳はでかいのだが、黒目部分というところがほとんどで、犬とかチンパンジーな目を想像していただきたい。それが顔の3分の1ぐらいデカく、まるでプリ〇ラで変に加工し過ぎて化け物見えるような感じだ。

体形もヒョロヒョロとしていて頭だけがデカく、マッチ棒みたいな身体だ。


本当に異人種…………本当に残念。




映画やアニメや漫画で見たエルフとは全然違っていた。くそーこの世界はオタクの俺には厳しいのか!

存在しないのかエルフの美少女は?

俺の期待値を返せ!!!

そんなショックを感じていると。













「ミカちゃんそろそろかえろー」

「うんマリンちゃんも」

「女の子は家にかえるのが遅いとクラークに攫われちゃうぞ」

「うん!怖いから早くかえるねー」




宿へまでの帰り道。

夕暮れ時にそんな子供達の声が聞こえてきた。

本当に昔は何をやっていたんだ。

クラークの馬鹿親父!俺に恥かかすなよ!



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