第18話 料理のさしすせそ

「おっしっ」


俺は搾って出てきた赤黒い色の液体を見て喜んでいた。


「これが調味料になるのか?」


不思議そうにみるリリック。

俺の指導の元作ってもらったのは醤油だ。


まずは麦を茹でて、温度管理し麦麹を培養する。いろいろと試してもらいその一つが上手く培養できた時は俺は小躍りをした。


その次は村に居ついた冒険者の情報で、都にはいろいろと欲しいものが存在する事を聞き、頼んで手に入れてもらった大豆だ。

後は小麦を炒ってからすりつぶし、大豆煮てからそれらを混ぜ、麦麴と混ぜ、塩水を混ぜ、いろんな温度管理をして約一年近くかけて搾ってやっと完成。

手間がかかってしょうがないがやっと完成。


「舐めてみ」


搾った時に手に着いた醤油をリリックに舐めさせると驚いた顔をして。


「不思議な美味さ」


「だろ!また料理が変わるぜ!こっちの味噌もどうだ」


もちろん味噌も作った。

大豆を煮て潰して、塩混ぜて麹も混ぜて作る。


「全然違うな!」


似たような材料でも違うからな。


「それはお湯に混ぜてスープにしたりいろいろするよ」


まあこれで料理の「さしすせそ」が完成

砂糖はてんさい砂糖大根らしき物を発見。こちらでは葉とかを主に食用の野菜として単に食べられていたけど、これを集めて搾り汁を煮詰めて砂糖を精製。

酢はレモンみたいに酸っぱい果実で代用。と思っていたらワインを失敗して酢になっているのを貰い、それからワインビネガーを作った。


と、まあいろいろとやってきた。

おかげで卵と食用油と酢でマヨネーズを作ったり、砂糖と小麦粉でケーキやクッキーなどのお菓子を作ったりと………多分この世界ではない技術なので、都ではすごい噂になっているってこの町に遊びに来た旅行者が言っていた。

特にこの世界では砂糖はなく、ワイルドビーと言う魔物から捕る高価な蜂蜜や果物の汁を煮詰めた物ぐらいしか甘味料がなかったから、てんさい砂糖大根の栽培が上手くいけば新たな村の特産になるだろう。


おかげで町長ぺぺは「かっかっかっ、儲かりすぎて笑いが止まらない」と悪代官な笑いをしていた。


「これでまた新たに料理作るよ、次はなにしょうかな、また味噌と醤油が『マルト』名産になるぜ」


俺が楽しそうに言うと。


「このままでいいのかな……」


ボソッと小さな声でつぶやいた。


「えっ」


よく聞こえなかったので聞き直す。


「いやなんでもない、料理楽しみにしてるよ」


リリックはにっこりと微笑んだ。












「あっポポ」


町の門近くでポポを見つけた。


「やぁーラーク、今日は父上と会わないのかい?」


ポポはもう16歳になっていた。町長ぺぺ譲りの明るい茶色の髪をビシッと決めて七三分けにしている。

彼は15歳を迎えている巣立ちの祝いので町長ぺぺの家を出ているが、町長ぺぺの代わりに町の都に行って、このマルトの商品を売る商いを手伝っている。


「後でいくよ」


耳元でポポが。


「ラークのおかげで、また儲かったと喜んでたから、今日も俺との結婚を進めるとかね」


「だから断ってんじゃん」


実はポポも俺の裏の顔を知っているメンバーだ。まああれだけ町長ぺぺに会いに行っていたら、同じ家に住むポポに秘密もばれるわ。


「ははは、でも俺はラークといつでも、結婚してもいいと思っているから、気持ち変えるまで待っているよ」


「もう勘弁してくれ」


ハハハと高笑いするポポ、多分俺が嫌がる顔見て喜んでいるだけだろう。


「まあ、またしばらく都に行ってくるから何か欲しいものある?探しておくよ」


ポポは読書好きだったので知識はある。俺が大雑把に説明した砂糖用のてんさい砂糖大根や大豆を見つけてくれたのもポポだ。


「そうだな、とうが‥‥食べると口から火がでそうになる辛い野菜とか食べたりできる刺激があるものとか欲しい、手に入れば種も。後はこの村にない野菜かな」


唐辛子があれば今度はタバスコでも作ろうか!豆板醤もいいかも。あと胡椒とかあればいいな。


「いいよ、またなにか開発するのか?! また父上が喜ぶ姿がみえるよ」


ポポは父親譲りのでかい体格なので、すでに180センチ以上はあるから厳つく見えるが、こう見えても父親思い優しいの少年だ。

彼の家は、母親を魔物に襲われて亡くなってからも再婚してないから父子家庭だ。死んだ人に操を立てるのはこの世界では珍しいほうだ。

マッシュ親子も同じように母親に義理立てているのだろうか……。



「ラークも都に行きたい?連れていこうか?」


リリス達が近づいてきた。

メンバーはリリスとセララとマリとサリアだ。彼女達は最近冒険者になっていてポポを護衛する仕事をしている。

基本は魔物は森にしかいなく、行路の街道沿いでまず魔物は出にくいが、安全かと言うとそうでもない。

一回・二回は魔物に襲われる確率がまずある。だから防衛として冒険者を雇うのだ。

でも街道沿いでは、そう強い魔物と出会うことはめったにない。そうなので安上がりな駆け出しの冒険者が護衛に着くことが事がほとんどだ。


「いいや、まだ成人迎えていないし、それと父さんが……忙しいしね」


このマルトでは成人を迎えるまでは親がついてないと街から出れない。それはもちろん魔物の危険があるからだ。

特に俺はキマイラ事件以来、クラークから町を出ることを許されていない。まあたまにこっそりとは出ているけどね。

都までの往復なんて何日もかかるのに、治安維持隊の仕事で忙しいクラークや、人口増加で治療師の仕事が忙しくなったシールに頼むわけにはいかないからね。


「そっか残念」


ボソッとリリスはつぶやいた。


「リリスはラークと一緒行けないのが、寂しいのかな?」


とマリ。彼女は魔法使いで16歳、金髪で天然パーマなのか綺麗なウェーブがかかり、少女漫画に出てくるような感じの美少女だ。


「そうだと思うよ!いつもラーク君の事ばかり話しているしね、ねぇリリスちゃん」


彼女はサリア、白髪‥‥ラノベ的に灰色髪でボブカット、弓使いだ。年は15歳でいつも明るい優しいおねえさんっ感じだ。


「リリスは神童ラークくんに見合うだけの女の子になったのかな? いつも気にしているけどね」


セララはいたずらっ子みたいに笑う、ショートソードと盾を持って戦士をしている。この世界では身体強化精神魔法があるから女性でも戦士系の人がいる。


「もーう、マリ姉もサリ姉もセラ姉も何てこというの!!!ラーク、そんなんじゃないからね!!」


顔を真っ赤にするリリス。手をバタバタさせて焦る姿がほほえましい。こうしてみるといつものきつい感じがなくて可愛いと思うな。

反応が面白いからからかわれているんだな。


今考えると前世でも俺が変に反応したからからかわれたような気がする。

まあ勘違いしないから安心してリリス。



「まあ今回は、お土産話楽しみしとくよ、美味しい食べ物があったら教えて」


俺がニコッと笑うと、なぜかリリスがより一層顔が真っ赤になった?なんでだ?



「次帰ってくるのは2週間後かな?まあいいの探しとく」


ポポ達を見送り、俺は日課の魔法訓練と料理を考えてから町長ぺぺのところに行った。







「おー神童ラーク、なんかいいもん発明したか?」


おい、オッサン、目が金マークになってるぞ。


「そうそうできませんよ……まあ調味料を作りましたけど…」


醤油と味噌作ったけど……めちゃくちゃ時間かかるけどな。


「やっぱり、さっすが神童くん」


「その童話の主人公みたいな言い方やめてください」


まあ正確には漫画の主人公前世の漫画だけどな。


「で製造方法は?量産できるのか?」


もう興奮気味の町長ぺぺ


「まあそれは……」


ふとリリックの顔が頭をよぎる。


「……町が急激に大きくなりすぎて、そろそろ限界かなと思ってます」


俺はちょっと神妙な顔で言った。


「えっ?」


驚いた顔する町長ぺぺ


「いやあんまり派手にすると他の町からやっかみとかないかなって」


「いやいや、まだまだ大丈夫だって、こんなのまだ儲けてる部類に入らないって」


この親父、欲の面がツッパってからに。


「いや砂糖とかでも、あれは莫大な利益えるかも知れないし、大体作るのに人が沢山いるでしょう。それで人口また増えるし」


これ以上増えてもアパートの建設が間に合わない。


「その点は大丈夫、奴隷を大量に買って労働させるから、奴隷ならテントでも文句言わないし、問題ないだろ。ポポに言って奴隷の手配を頼んでいるから安心しろ!」


ガハハハッと笑う町長ぺぺ


「えっまた増やすの?」


最近も奴隷買っているのにまたか‥‥まあおかげで一日中24時間温泉に入れるようになったけど……。

奴隷になんて人権がないから、ブラック企業真っ青な労働させても誰も文句が言えないからな。

でも元日本人の良心としてはあまりお勧めできないな。

……まあこの世界だからしかたないのか?




俺は何か腑に落ちない気持ちで町長ぺぺの家を後にした。


それから2週間は家族とマッシュ親子以外は誰にも会わず、すこし考え込んでいた。

もちろん新たにできる料理とか実現できる道具を考えながらだけどね。









「久しぶり」


2週間ぶりにリリックの家に来ていた。


「いらっしゃい、久しぶりだね……お茶入れるよ」




俺はリリックに心のどこかに思っていたことを聞いた。


「リリック……。そろそろ技術を公開するのをやめようと思うけど……どうかな?」


俺はリリックの意見を聞きたかった。この計画を実現している一番の中心人物だし町長ぺぺの次に儲かっているのは彼だ。


「よかった……ラークなら気づいてそういうと思った」


俺が言ったことにほっとした表情をしている。


「ラークが思い付いたことは、もしかしたら国を動かすレベルになるかもしれないと、正直、作りながら思った。こんな片田舎の町が独占していいことではないよ」


「えっ?俺のは調味料とか木炭とかの食事関係とかだよ」


俺はあまりの事に驚いた。国レベルって……。俺は嫉妬した近隣の村や町が嫌がらせとか困るなあってことなんだけど。

あと奴隷をこき使うの嫌だなあってそんなことだったのだけどな。


「いやいや、ラークの発明した物は……例えばパスタとかは、長時間もつ保存食で茹でて、すぐ食べれるものだから、下手すると戦争の道具になりかねない。木炭もそうだ、消えにくい火なら魔法使いが戦争で使える奴だ。後、砂糖とかは下手すればこの国の経済を動かせるほどの発明……ううん、それよりもラークの身が心配だよ。もし秘密がもれたら……きっとラークが狙われる。その頭脳が欲しいと言う人から狙われる。……まあ俺が、ネガティブ思考だから、そう思うのかもしれないけどね」


そんなことは考えてなかった。食事レベルなら大したことないやと思っていたし、兵器を生み出したわけでもないし……。


でも心のどこかに引っかかる違和感の正体はこれかも知れない。

クラークたちを守るためにしていたことが、逆に首を絞めることになりかねない。



「わかった、町長ぺぺに言ってくる。」










俺が町長ぺぺの家に着いたが中には誰もいない。

あれ?



向こうから必死な顔の町長ぺぺが走ってきた。


「ラーク……ポポが攫われた」




「えっ」


自分がとても愚かだったと気づいた瞬間だった。

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