第25話 VSハヤブサ④

「わたし、何日くらい倒れてたの!?」


「そ、そんなに経ってないよ!」


 わたしが目が覚めて上半身を起こすと、楓ちゃんが答えてくれた。


 わたしは、今まで見てた夢とも現実ともつかない、恐らく気絶していた最中に体験していた事をみんなに話す。それはとてもリアルで、本当に自分がハヤブサ自身になって、何日もこの土地で暮らしていたような体験を。


「わたしね、不思議な夢を見てたの。そのハヤブサになって、何日も何日もエサを取りに行ったけど、ほとんど何も捕まえられなくてここに帰ってきて、お腹を空かせたヒナたちがとっても可愛そうだった夢を」


 続けて楓ちゃんたちに説明する。


「その夢の中に出てきた周りの景色も、空気の感じも、この穴の中も、ハヤブサのヒナたちも、本当にリアルで、そっくりだったんだよ」


 そして、ここ最近の豪雨で、エサ場の環境が変わってしまって、エサが上手く取れなかったであろう事も伝えた。


「それって、ひょっとしたらこのヒナたちがお腹を空かせているって事??それでイルカのぬいぐるみを獲物と間違えて捕まえたってわけ……」


 彩先輩が訪ねてくる。


 「これもひょっとしたラ、ティティアンノートのチカラなのかナ?りんが寝ていたのはほんの30秒ほどだけド、その間にそれだけのテレパシー?を受け取っていたとはナ。まあ、今更なにがあってももう驚かないけド」


 パフィンちゃんが冷静にその出来事を分析してみる。


「そうかも知れないわね。りんちゃんだけ同じ猛禽類だから、テレパシーを受け取れたのかしら??何とかしてあげたいけど、ハヤブサは猛禽類だから、小動物がエサでしょう?わたしたちにそんなの簡単に捕まえられるとは思わないし……」


彩先輩が顎に手をやり、うつむきながら考える。


わたしたちが話す様子を、ハヤブサはなぜか威嚇をやめて、じっと見ていてくれている。


 ぱっと、彩先輩が顔を上げて、


「そうだ、わたしたちのお弁当、猛禽のヒナに食べさせて大丈夫なものあるかな??」


 そうだ、すっかり忘れていた。捜索が長丁場になる事を予想して、みんなバッグにはお弁当を持ってきていたのだ。これならエサにできるものがあるかも知れない!


「さすが彩先輩!ナイスアイデアです!」


 楓ちゃんがパッと笑顔になり、彩先輩のアイデアに賛同する。


 そしてわたしはすぐに思い出す。動物には雑食の人間と違い、いろいろと食べさせてはいけないものがある。有名なものだと、犬に玉ねぎを食べさせてはいけないなど。


 玉ねぎには、アリルプロピルジスルファイドという中毒の原因となる成分が含まれていて、これが犬の血中の赤血球を破壊して中毒症状になる。


 ウチの動物病院にも、刻んだ玉ねぎが入ったハンバーグなどを与えてしまって中毒症状になった子がたまに運ばれてくる。


 この「玉ねぎ中毒」は犬だけでなく、猫やウサギ、ハムスター、フェレット、インコなどペットとして飼われている動物や、牛、羊などといった動物にも同様に引き起こされ、


 また、玉ねぎ以外にもニンニクやニラなどのネギ科の野菜にもアリルプロピルジスルファイドが含まれているので注意が必要だ。


 みんなも知っていると思うけど、改めてそういった事をみんなに説明しながら、みんなバッグの中からお弁当を取り出して、ハヤブサとそのヒナに与えても大丈夫そうなものを見つくろう。


 パフィンちゃんはスマホで、猛禽類に与えても大丈夫なエサを調べている。


 その間、わたし、楓ちゃん、パフィンちゃん、彩先輩は自分のお弁当を広げて、何を与えるか検討を始める。


「えーっト、猛禽類には理想を言えばネズミやヘビやカエルなんかがいいんだけド、みんなのおかずに当然そんなものはないしナ。動物性たんぱく質で、与えて大丈夫そうなものハ……」


 みんなのお弁当の中から、猛禽類に与えても大丈夫なものを検討した結果、ゆで玉子、玉子焼き、とんかつの衣を取ったもの、アジフライの衣を取ったもの、蒸し鶏などとなった。


「本当は人間が食べる用に血抜きされた肉や魚じゃ、鉄分も栄養分も全然足りないんだけどね……でもとりあえずこれだけあれば、この場はしのげると思う。だから……」


「明日、フクロウ用の冷凍ネズミを持ってきてあげたいわね」


 フクロウを飼っているいるわたしと、1学年上の彩先輩の意見が一致する。


 みんなのお弁当から集めたそれらを、わたしの右手の平に乗せて、ゆっくりと親ハヤブサの方に近づける。どうかな?食べ物だって、分かってくれるかな?


 差し出した手の平の上の食べ物に、ハヤブサが少しずつ近づいてくる。一歩、また一歩。そしてくちばしが届く距離にまで近づいてきて、


 つんつん、つんつん。


 くちばしで、とんかつの肉を突いている。


「よしよし、ごはんだよ、食べられるよ」


 わたしは、自分で飼っているフクロウのスピピちゃんに話しかけるよう、小さな声でハヤブサに話しかける。みんなも息を飲んでその様子を見ている。


 ゆっくりとくちばしを開けて、それをくわえた。そして、匂いや感触などを確認するためか、くわえたまま小刻みに首を振ったり、くちばしを動かしたりしている。


 そしてお肉をいったん地面に置き、足で固定しながら、くちばしで小さく引きちぎり、それを引き上げながら飲み込んだ。


「「「「やった!!!」」」」


 みんな小さな声で喜び、控えめなガッツポーズをとっている。やった!あとはこの調子で、ヒナに与えてくれれば――


 ハヤブサは再びわたしの手の平からおかずをくわえ、今度はヒナの方に運んでいく。ヒナたちはがっつくようにわたしたちのおかずを食べ始めた。


「あはは、良かった~」


 思わず喜びのためいきが漏れる。そして、ハヤブサたちがエサに夢中になっている隙に、彩先輩の手がイルカのぬいぐるみのイルカちゃに伸び――


(イルカちゃん、奪還成功!)


 彩先輩が小さくささやいて、目的は完了したのでした。


※※※※※※※※※※※


主人公周りの設定ですー。


飛鳥川 鈴(あすかわ りん) 本作の主人公。フォッサ女学院中等部生物部に所属する中学1年生。不思議な本「ティティアンノート」を発見したことから、動物少女に変身できるようになる。

絵が下手なので、ティティアンノートにスケッチを描くのは一苦労。ペットはフクロウのスピックスコノハズク「スピピ」


下連雀 彩(しもれんじゃく あや) 中学2年生、生物部。しっかり者の優しい先輩キャラ。ペットは三毛猫の「マーブル」


燕昇司 楓(えんしょうじ かえで) 中学1年生、生物部。家はネットカフェチェーンを経営している。

昔のマンガなどに詳しい。ペットはウサギのネザーランドドワーフ「キャラメル」


馮 佳佳(フォン チャチャ) 中学1年生、生物部。中国系の女の子。 家は横浜中華街の料理店、「壱弐参菜館」。

料理が得意。お金が好き。ペットはヨツユビハリネズミの「小太郎」


パフィン・アルエット 中学1年生、生物部。外国から来た生徒。飛び級で進学しているため現在10歳。

日本在住5年。好奇心旺盛でツッコミ大好き。ペットはパピヨン犬の「パピ」


飛鳥川 優衣(あすかわ ゆい) 鈴の姉。フォッサ女学院高等部の高校2年生。ちょっと天然の入った性格。

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