2

「いっ痛うぅぅ……」

 頭を擦りながら曜はソファから起き上がった。後頭部がずきずきする。疲れているのに無理しすぎたのか。曜は額に手を遣る。熱は無いが体調は悪いようで、身体がだるい。曜は溜め息を吐く。

 ぼんやりと明るいので、ここには明かりがあるらしい。曜は辺りを見回し、此処が何処なのか確認することにした。

 ソファから足を下ろして座り直す。ソファの真正面には、足が低く物を置く面がガラスでできたテーブルが置かれ、奥の壁側には天井すれすれまでの高さのある大きな木製の本棚があり、幾つかの本が入っている。曜はその本棚に入っている本のタイトルをよく目を凝らして読み取ると、それが自分の所有物だとわかった。今度は自分の座っているソファに目を遣る。革の色は焦げ茶色だ。どうやら此処は隠れ家のようだ。

 そう理解すると次に疑問が浮かぶ。自分は部屋の前で倒れてしまった筈だ。しかし今はこの部屋のソファで眠りに就いていた。何故だろう。そう考えている内にまた別の疑問が浮かぶ。あの明かりは何だ? 曜はばっと顔を机へ向ける。

 机の上にはアンティークのランプがぼんやりと辺りを弱々しく照らしている。見覚えのない物だ。そしてランプの後ろにはそんなぼんやりとした明かりで照らされている何かがある。それは人の輪郭を醸し出しているようだ。

 曜はよく影を観察した。最初はほとんど真っ黒だった影も、目が慣れるとその人物の特徴が徐々にわかってくる。

 女性のような長い黒髪を細く結いポニーテールにしている。寝起きなのか、それとも深夜だからか、寝ぼけ眼でこちらを見つめている。薄く見える顔立ちからは、女性なのか男性なのかは判断できなかった。髪の具合から女性だろうか

 曜が気が付いたとわかると、その人物は椅子から立ち上がり、机の横まで歩いて机の上に手を突き、こちらを見つめる。ランプに近付いたお陰で、ようやく顔立ちもはっきりした。

 顔立ちは中世的だ。結局どちらかわかりにくい。どちらかと言えば女性のように見える。じっと目を凝らして観察すると、瞳は珍しく薄らとだが蒼がかっている碧眼ということがわかる。それなりに整っている顔立ちで、第一印象はそれなりにモテそうだ。身長は曜と同じくらいで、恐らく年も同じだろう。八月なのに黒い長袖のシャツを着ているのが少し不思議であった。曜はずきずき痛む頭をフル回転させるも、その顔に見覚えはない。

「誰だお前」

 曜は不審そうな声で言う。しかし、そいつは質問に答えず呟いた。声も中世的で、結局性別は判断できなかった。

「三十分か」

「は?」

「君が眠りこけてた時間。驚いたよー。君がこの部屋で倒れてて、悪いと思ったけど、引きずって部屋の中のソファに寝かせたんだ」

「俺が訊いてるのはそんなんじゃない。お前は誰だ」

「おーや。いらついてるねぇ。不満かい? 引、き、ず、ら、れ、た、こと」

 彼の飄々とした態度と、速くなったり遅くなったりするおかしな口調に苛立ちを覚え、曜は立ち上がり、その人物へ向かって走り出して、その顔面に殴りかかる。

 何故こんな行動に出てしまったのか、曜は自分でもわからなかった。ただ単に今までの事から疲れて、堪忍袋の緒が緩んでいるのだろうと、短い時間で勝手に結論し、このまま手を止める気など、微塵も起きなかったので、そのまま自分の拳を振り被ることにした。

 しかし、そいつは曜の拳を軽く首を曲げて避け、腕を掴んで簡単に引き倒す。ごろんと床を転がってその場に伏せてしまった曜は、上半身を手で支えて持ち上げると、細めで睨む。そいつはふうと息を吐くと、曜の傍まで歩み寄り、腰を曲げて曜の顔を覗き込む。さらりと結ったポニーテールが肩から落ちる。

「人に名前を訊く時は、まず自分から名乗るべきだよ。小学生に教える最低限の礼儀だと思うけど、君の学校は教えなかったの?」

 その人物はそのままの体勢で眠たそうに欠伸をする。

 あからさまな皮肉を言われ、更に間近であくびをされてまた頭に血が上り始めたが、初対面を相手に無礼な行為を、何度も続けた自分にも憤りを覚える。

 わかっている。結局のところこれはただの八つ当たりで、より惨めになるだけだ。

 曜はそう思い直して立ち上がり、深く息を吸い込む。それでも苛立ちは押さえられなかったが、そのまま謝罪をする。どうしてこうもむかつくんだと疑問を抱きながら。

「悪かった。咲間曜だ。改めて訊く。お前は誰だ」

「高圧的なのは変わらないんだね。俺はいずみゆう

 腰を曲げて曜の顔を覗き込んでいた体勢を元に戻しながら、にやっと何かを企むような笑みで少年(名前と一人称からそう判断した)、泉悠は言った。曜はその表情にさらにむかむかと怒りが湧き上がる。そして、何故だろうかと改めて疑問に思い始める。

 精神的に虚弱になっているとはいえ、曜は過去にこんなにも怒りを露わにすることは無かった。何故自分はこんなにも怒っているのだろう。何故彼に八つ当たっているのだろうと真剣に考え始め、一つの結論をつける。

 恐らく、知らないことに対して怒っているのだろう。自分の苦しみを知らない者が、普通に話しかけてくることが想像以上に堪えるのだ。何も知らないくせにと、無情の怒りを覚えてしまうのだと、曜は悟った。

 しかし、先程も思ったが、それはただの八つ当たりと変わりはしない。自分に何をした訳でもない彼に、暴力を振るうのは御門違いも甚だしい。

 曜は今度こそ気持ちを落ち着かせる為に、目を閉じ落ち着けと小声で何度も呟く。

 悠は曜がぶつぶつと何かを呟いているのを、ただじーっと見つめていた。どうやら落ち着くのを待っているようだ。視線に気付いた曜ははっとして悠に向き直る。さっきと比べ、冷静さを取り戻した曜は、悠に敵意むき出しの皮肉を浴びせる。

「で、お前は何で此処に? 此処は一見様お断りなんだ。紹介者が居なきゃ入れない」

「ふうん。で、その紹介者ってのは誰のこと?」

「俺だ」

「だと思った。他に、此処を利用している人はいるのかい?」

「最初に此処を見つけた俺が一人で独占中」

「気分はモノポリーのプレイヤーかな。に、しても、一見さんとはずいぶん粋な言葉だね。それで、此処はどんなメニューを、おー出―しーしーて、くれるんだい? お店にしては殺風景だしぃ、従業員も一人なわけだし」

「出せんのはせいぜい水くらいさ。此処はレストランじゃなくて憩いの場でね。ちょっとした休憩を取る。云わばホテルの部屋みたいなもんだ」

「此処が、ホーテールーだって、言うなら、まず内装を変えるべきだね。灰色の壁じゃ刑務所と間違われそぉだ。それに宿なら、VIPが泊まるとこならともかく、一見はお断りしないよ」

 不思議にも息が合うように続く言葉の応酬。皮肉という名の屁理屈をお互い並べて、その手札を互いに切った結果、先に手札の無くなった曜が折れることになってしまった。

 曜はあんな変な口調に負かされるなんて、と思った。どうやら彼の口調がおかしくなるのは、調子に乗っている時と、小馬鹿にしている時と、皮肉の時らしい。

 相手を煙に巻く言葉が思い浮かばず、曜は仕方なく折れて本心を吐露する。

「悪いとは思う。だが出ていってくれないか? 俺は落ち着く場所で休みたいんだ。だから此処に来たのに、初対面の一見野郎が居るんじゃ気が休まらない」

 溜息を吐きながら悠の横を通り過ぎで机の傍まで歩み寄り、悠に背を向いたままそれに手を突く。悠も振り返らずにそのまま背を向けて、お互い背中合わせで立っている。

「なるほど。気持ちを和らげてから、すっと舞台袖に消える役者のように死にたいと」

 曜は思わずびくっと肩を揺らす。悠は尚も背を向けたまま言う。

「君のジーンズの尻ポケットに入っているのはカッターか。一般的に使われてるのとはちょっと違う、大きめのサイズ。見た感じ、俺と同い年くらいだから高校生だろうけど、学校にカッターを持っていく人はあまりいないだろうし、サイズ的にも少しおかしい。ましてや、バッグどころか、財布も携帯も持たずに、それだけ持ってるのも不自然だ。恐らく自宅を捜して、手頃な場所に置いてある刃物を、適当に持ったんだろうね。使い勝手の良い包丁を持たなかったのは、物によっては、ポケットに入り辛いし、どうやってもはみ出る。万が一にも人にばったり出くわして包丁を持った姿を見られては、色々と都合が悪いからかな?」

 曜は唇を噛み締める。それを発端に疑問が頭の中で回り始める。

 どうしてばれたんだ? ポケットの膨らみでそこまで詳しくわかるものなのか? ましてや、自殺を考えているのをこうもピタリと当てられてしまうと気味が悪かった。

 悠はふらりと右足を支点に後ろへ回転するように振り返ると、曜の背中へ歩み寄ってぽんぽんと肩を叩く。曜はまたびくっと肩を震わせると、ぎこちなく後ろに頭を回す。その表情は恐怖に満ちている。反対に悠は、先程とは違う優しい微笑みを見せて言う。

「不気味だよね。君の所持品を全てピタリと当てて、尚且つ、そこから君のこれからの行動までをも推察されてしまった。怖いよね。でも大丈夫。それにはちゃんとした理由がある。それは決して、超能力者だからとかの、非現実的に思われる理由じゃない」

「……じゃあ、どんな理由だよ」

 曜の質問に、悠は当たり前のように答えた。

「簡単さ。霊が教えてくれたのさ」

『時が止まった』とは、まさしくこの状況の事を言うのではないだろうか。

 曜はなんとも間抜けなことを思い、自分の心臓の鼓動まで止まってしまったかと感じた。微笑んだままだった悠も、流石に長い沈黙に不安になったのだろう。表情を少し曇らせながら訊く。

「あの、どうかした?」

「まず、訊きたい事がある」

「え? ああ、何?」

「言ったよな。お前が俺の所持品とかを当てた理由は、非現実的な理由じゃないって」

「言ったね」

「霊は非現実的ではない?」

「うん」

「どこがだ! どこが! 超能力者と霊との差ってなんだよ! ほとんどねぇよ!」

 悠は驚いた顔をして、それから不思議そうな表情を、腰を曲げて顔ごと曜の顔へ寄せ、その態勢で前進し出す。曜は戸惑いながらも後退りし、まるで覗き込むように自分の顔を見られて不快そうに顔を逸らす。どんと曜の背中が壁にぶつかる。悠は依然顔を寄せたまま言う。

「テレビを見てごらんよ。バラエティとかでお茶の間を沸かすのに、超能力者はあまり見かけないよ。いや、単にぼ……俺があまりテレビを観ないだけかも知れないけどさ。反対に夏になると、霊とかの話題が増えるでしょ。少なくとも、超能力者よりかは受け入れられている話だと思うけど」

 曜はばっと悠に向き直り怒鳴る。

「それとこれとは違うだろ! 現実には無い事がたまたま起こったのがその番組の中に集約しただけで、受け入れられているとは……」

 そこで曜は我に返って首を何度も振る。

「いや! いやいやいやいや! そもそも論点が違う! 霊が、俺がカッター以外の物を持っていない事、それから俺が自殺をしようとしている事を教えただと。そんなの信じられるか!」

 悠は腰を元に戻し、頭をぼりぼり掻いた。何かを考えているのか、唇を強く噛み締めている。

 それから、また少しの間沈黙が進む。その間に曜は窓の外を見る。まだ暗い。夜明けはまだだ。ほっと胸を撫で下ろす。まだ眠る時間はある。早い所こいつと決着をつけなければ。そう考えていると、悠はふっと口元を緩める。

「なあ。君は、霊はいないって思ってる?」

「は? ……ああ。信じてる訳ないだろ」

「そう」

 今まで微塵も見せなかった、何処か寂しげな雰囲気で、悠の急な様子の変わりように曜は不安になった。すると、曜の不安に気付いたのか、仕切り直したかのように今までのおかしな口調に悠は戻した。

「でも、自殺をするとは、言ってなかったよ。霊が教えてくれたのは、君が所持しているのが、カッターだけってことしか、聞かなかった。後は、俺自身が推測して自殺だと思ったんだよ」

 曜は呆れてもう聞く気になれなかった。悠がそこまでして、嘘を突き通すとは思っていなかった。

 この場所は諦めて家に帰って休もう。そう頭の中で呟くと、鉛のように重くなっている身体を引きずりながら、出口の扉へと向かっていった。

「お帰りかい? 具合も悪そうだし、休んでいった方が良いよ。ソファあるし」

 背中に優しい言葉を浴びせられても、何も反応せずにただ無心に歩を進めた。ノブを掴んで回す。そして曜は倒れるように体重を扉に掛けて開けた……つもりだった。何故か扉はびくともせず、出口の壁となって立ち塞がっている。

「ん……?」

 力を込める事が出来ない曜は、ノブを回して扉に寄り掛かってみる。開かない。今度はノブを掴んだまま体重を後ろにかけてみる。それでも開かない。

 何故だろう。曜は考えてみる。この扉には鍵が掛けられる。ノブを確認してみる。鍵を掛ける為のつまみは、鍵は掛かっていないと主張している。一応つまみを動かして、再度力を込める。予想通り、扉は開かない。

 ……壊れたな。曜はそう思い、そして妙に熱い吐息を吐いた。初対面で急に妙なことを言い出した少年と共に、この部屋に閉じ込められてしまったと思うと、気が滅入って仕方がない。

「あー、何してんのそうさん」

 悠はそう誰かに言いながら曜が寄り掛かる扉へ駆け寄り、曜の肩を軽く掴んでそっと壁にもたれさせる。

「誰だよ宗って」

「俺の知り合いの霊」

「なんだ、それならもっと早く……」

 言えと口にする前に、曜の思考は停止した。とてつもなく重要で、とんでもないことを言われたからだろう。

 曜が固まったのをよそに、悠は扉に向かって、怒った口調で言った。

「此処を開けて下さい」

 きぃぃと木が軋む音が聞こえると、扉は開かれる。そこには一人の老人が立っていた。顔は皺が多く見えるが、髪は黒にぽつぽつと白が混じる程度で、背もあまり曲がっておらず、老人にしては若々しい印象だ。

 なんだ、生きてる人間じゃないか。大嘘つきやがって、と曜は悠に心の中で悪態をついた。

「宗さん。どうしてこんなことを?」

 宗と呼ばれた老人が部屋へ足を踏み入れる。

「いやー、さっきから彼の話を聞いてりゃ、泉君の話をてんで信用していないから、ちょっと腹が立って、懲らしめてやろうかと思ったんだ」

 宗はじろりと眼球を曜に向ける。急に怒りの矛先を向けられ、曜は思わず身震いした。しかし、悠は能天気な口調でそれを諭す。

「気にする必要はありませんよ。こんな話、信じられない方が当たり前ですし、あなたも前は信じられなかったでしょう」

「まあ、そうだな」

「それに彼は俺の依頼人になる予定なんです。あまりそういった嫌がらせは止めてやって下さい」

「何! 依頼人!? こいつがか?」

「ええ、これからそうする予定です」

「はっはっはっはっは! なんだ、入らぬお節介か! それじゃあ、わしもそろそろ逝くとしようか」

 にやりとほくそ笑むように微笑む悠と、大袈裟に笑う宗をぼーっと眺めながら、曜は考えを巡らせる。

 一体こいつらは何の話をしてるんだ?

 確かに彼の言う通り宗とは知人のようだ。だが話の内容が理解できない。どうやら宗は悠のことを信じているようだが、何よりも気になるのは『依頼人』という言葉だ。俺が奴の依頼人? どういうことだ? 奴は一体何をする気なんだ?

 頭に意識を集中して呆けていた曜の肩を宗が掴む。

「それじゃあ君」

「え? あ、はい……」

「くれぐれも泉君に迷惑は掛けるなよ」

 急に真剣な顔でそう言われ、咄嗟に曜は、はいと答えるしかなかった。その言葉を聞いて、彼はほっと息を漏らし、安堵した顔で曜の肩から手を離す。そして曜達に身体を向けたまま部屋の中央辺りまで後退る。そして……。

 それから後の数十秒の間、曜と悠の間に沈黙が続く。曜の頭は真っ白になって、一体何を考えているのか自分でもわからなかった。悠はじーっと天井を見上げた後、その後頭を戻して目を閉じ、みぞおちに右手を当てて黙祷を始める。

 窓に遮断されて、外で走る車のエンジン音がくぐもって聞こえ、そこでようやく曜は我に返った。落ち着け。とりあえず落ち着いて今起こった事を、頭に簡潔に描写し直そう。そう心の中で言い聞かせて、頭に数十秒前の出来事を描き始める。

 宗が後ろに後退り、笑顔で手を振り続ける。宗の足がゆっくりと宙に浮かんだかと思うと、そのままエレベーターに乗ったかのように、ゆっくり上へ上へと上がっていった。曜と悠の身長を軽々越えても尚、宗は手を振り続けながら上がっていった。頭が天井にぶつかるかと思うと、コンクリートの硬い天井を首がすり抜け、胴体がすり抜け、最後に足がすり抜け、本当にエレベーターのように上の階へ姿を消してしまった。

 以上がつい先程、数十秒前に目の前で起こった出来事だ。

 ……なんだそりゃ。「なんだそりゃあああああ!」

「ちょいちょい、落ちつきなよ」

 曜は心の中で呟いたと思っていた『なんだそりゃ』を、実際に口に出してしまったようで、思わず自分でも驚いてしまった。悠は黙祷を止め、のほほんとした様子で、取り乱す彼をなだめる。当たり前だろ今の光景、と言わんばかりの表情で。

「落ち着けるかあんなの見て!」

「大丈夫。極めて善良な霊だから」

「知るか! 善良かどうかが問題じゃない! 真面目に霊だとして、何で俺にも見えるんだ!?」

 意味のわからない慰めが、油のように曜の混乱と怒りの火に注がれ、余計に興奮してしまった。それを見て悠は困ったように額に手を当て、

「鈍い奴……それぐらい予想したらどうだか。まあ、何の知識もないから仕方ないか……」

 と小声でそんな事を言った。小声といってもきちんと聞こえる程なので、おそらくわざとだろう。

 もういい。とにかくこいつには説明してもらわなくてはならない。今起こった事は何なのか。何故こんな時間にこの場所にいるのか。そして何より、こいつは何者なのか。そう曜は思った。

 窓の外の空は黒から薄く青がかっている。もうすぐ夜が明ける。だが、悠のおかげで目が冴えてしまった。いや、たとえ冴えてなくても、今から帰って寝るという選択をする気は、もう微塵も起きないだろう。曜は、単刀直入に訊いた。

「悠。お前は何者なんだ?」

 悠は額から手を離し、真顔で俺に言う。

「逢わせ人」

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