9 Euphoria

 病院の予約を取り消した。リビングのソファに横たわる彫刻は、雨粒の影とカーテンから透ける光で、綺麗な模様を浮かべている。赤い線と点が交う彼女の白い裸体。これを覆う、薄橙色の光の帳。彼女の喉を親指で押さえつけて、その跳ねるのを全身で感じては、意識が朦朧として、こわばった身体がゆっくりと解放されていくような感覚を得る。

 快感が減衰したら、更に痛みつけて、更なる快感を得ればいい。彼女がそう呟いた。いいえ、もしかすると最初から、彼女の言葉は全て私の錯覚かもしれない。感覚のみで生き、感覚のみに集中すれば、嫌なこと何もかも忘れられると思いませんか? 永遠なんて存在しないならば、刹那に生きればいいと思いませんか? 私から見たあなたはとても滑稽です。頑なに開いた鳥籠から逃げ出そうとしない。でも、私ならあなたを受け入れます。委ねればいいのです。

 感覚の波に、思考を止めて。

 あの約束の時が来るまで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る