1-34 裏ギャングを潰しちゃいました 1
店長の情報によると、この地域には裏で動いているギャングがいるらしく、どうも店長はスーパーデンジャラスエクストラパフェで作った債務者を、そいつらに高値で売り飛ばしていたらしい。
そして、店内で働いていたウエイトレスちゃん達もその被害者だそうで、不当な労働を強いられていたそうだ。スーパーデンジャラスエクストラパフェの値段を忠告してくれたのも、自分と同じ末路を歩ませないためのものだったのだろう。
あのウエイトレスちゃん、家族いたのか。ちょっとショック。
結局、店長はララファ直属の自警団に御用となった。店の移転もこの町から逃げるのが目的だったのだろうな 。
俺としては、いやあ良かったね。それじゃあおやすみなさい。とこの話を終わりにしたいところだったのだが、
「その裏ギャングとやらを潰しに行くぞ」
ララファのあり得ない提案で、俺はもう一仕事しなければいけないようだった。
灰色の雲に覆われた深夜の頃合い。
俺とララファは喫茶店デスピエロがあるスラム街へと足を運んでいた。
裏ギャングのアジトは、この無法地帯のどこかにあるらしく、「Phalanx18」という名を口にすれば、その辺のギャング達もちびってしまう存在らしい。
「ねえ、本当に行くの?」
「当り前だ。わたしの領域で好き勝手暴れてくれるなんて嬉しい話じゃないか。こっちから出迎えてやるのが礼儀だろう?」
「それはいいけど、なんで俺まで……」
「わたしとの修行の成果を実戦で試すチャンスだぞ? これから勇者の学園に入るのだから、ひとつくらい武勇伝を残しておけ」
「えー、俺は平穏に暮らしたいのだが」
このスラム街の昼間は誰もいなく閑散としていたのだが、何故だか太陽が眠るにつれて、この街は活気を取り戻していく。
その活気のもとがスキンヘッドのゴリラみたいな男たちなのが度し難い。しかも、どいつもこいつも同じ赤色の服を着ていたりバンダナをつけていたりと、仲が良さそうで大変よろしい。
そんな奴らが集まっている町の中央を堂々闊歩する俺達。当然の成り行きと言うか、テンプレというか絡まれてしまうのです。
「お前らここで何してんの?」
レッドマンの一人が俺達のもとにやってきて問いかけてくる。
俺の想像ではいきなり囲んできて、有無言わさずボコられると思っていたのだが、対話をしてくるあたり意外にも紳士的な対応だと思う。
「お前らのボスに合わせろ」
相変わらずストレートしか投げないピッチャーララファ選手。
「舐めてんのか嬢ちゃん? 痛い目見たくなかったらとっとと帰んな!」
「ふむ、お前新入りか? 顔に見覚えがないが……下っ端なら力が無い分勉強しておくことだ。喧嘩を売る相手を間違えちゃいけない」
おいおい、なんで火に油注いでんのこのロリ? お相手さん顔も真っ赤だから、レッドゴリラなんてモンスターに変貌しちゃってるんですけど。
「このクソガキ……っ!」
完全に切れたレッドゴリラさん。何故か俺に向けて鉄拳を振りかざしてくる。
ララファから仕込まれたせいか、俺は反射的に拳を避けてカウンターパンチを放ってしまう。
「あ、ごめん」
すまないレッドゴリラ。来る前にありったけのスキルを発動してきてるんだ。正直、いまの俺のステータスは勇者級だと思う。
ということで一発KOです。本当にごめんなさい。俺は悪くありません。悪いのは全部このロリ悪魔でごぜーます。
けれど、そんな事情なんか知りもしない赤軍団。青龍刀やらダガーやら持ってきて、俺達を取り囲んでくる。こえーよ。目まで真っ赤なんですけど。
「まったく躾がなってらんな。今のトップは何をしているんだか」
「いやいや! 明らかに俺らが悪いからね!?」
もうね怒号が酷いのなんの。
「おいボケコラ!」「すかしてんじゃねえぞハゲ!」「引ん剥いて犯してやるよ!」「海に沈してやんぞボケ!」「ただじゃ死なせねえからな!」
まあそんな感じです。
そのあとは乱闘。
大乱闘。
けれど、相手はただの人間で、ドラゴンと戦った俺からしたら何ということはなかった。それはララファも同じようで、むしろ手加減するほうに気を使ってしまう。
ほんの数十分で全部片付いた。あたりが真っ赤に染まっている。
「あの、俺達チンピラ退治に来たわけじゃないんですけど」
「仕方ないだろ。ボスが出てくるまで暴れるまでだ」
ふうと一息つこうと思っていたのだが、今度は建物の中からぞろぞろと、同じような赤ゴリラが出迎えてくれる。しかも、さっきの下っ端ゴリラたちと違い、マジのゴリラ。人間ですか? と聞き返したくなるようなマジもんマウンテンゴリラである。
「なんじゃこりゃあ!? ……って姉さんじゃないですか!?」
「よお、ビクセン久しぶりだ」
とデンジャラスゴリラにララファが言う。
「え? 知り合いなのララファ?」
「うむ、わたしはこのチームの初代ヘッドだったのだが、わたしの名も随分と錆びれてしまったようだ。今のボスには調教が必要なようだな」
このロリは相変わらずおかしな経歴をお持ちのようで、勇者の仲間だったり、魔王と友達だったり、チンピラのボスだったりと忙しない。
「それなら最初からアポ取っといてよ……」
こういうのを無駄な血というのだろうな。本当に申し訳ないことをしたと思う。
「それじゃ、今のボスのところに連れてってもらおうか」
「あの、俺です……」
ビクセンはララファに目を合わせずに怯えた表情で言った。
「くふふ……ちょっと奥に行こうか」
酷く冷めた声がこの場を支配した。
ビクセンくん、グッバイ。
☆
ビクセンくん達のアジトを案内してもらった。
盗賊のアジトのような雰囲気の錆びれた空間に、チームカラーである赤で、内装を整えようという努力が見られるが、なんともミスマッチで歪である。
偉い人が座りそうな赤いソファーにドカッと腰を下ろすララファは実に偉そう。
ついでにソファーのスペースを空けて俺にめっちゃ視線を配ってくる。これは横に座れと暗に囁いているのだろうか?
俺は従順な子犬のようにララファの横に座る。
ちなみにビクセンくんは正座。別に命じられたわけでもないのに、彼の中にはララファに対して奴隷制度でも布かれているのかもしれない。難儀なものだ。
「うちの奴等が失礼を掛けました!」
からの土下座の流れはスムーズで美しい。
「許すかどうかは、今後の教育次第だな。とりあえず私の写真を額にでも飾って、毎朝お祈りを捧げておけ。金運アップするぞ」
おいおい、新興宗教かよ。
「飾らせていただきます!」
入信おめでとうビクセンくん。
「それで、そちらの方は?」
「わたしの許嫁だ」
「そうなんですか! お兄ちゃんと呼ばせていただきます!」
「せめて兄さんにして」
妹キャラなら大歓迎だけれど、いかつい男に言われたら精神が崩壊する自信がある。
「それより本題に入ろうよ。早く帰りたい」
「それもそうだな。おいビクセン。今夜「Phalanx18」を潰すぞ」
「ま、まじで言ってるんですか! 「Phalanx18」って言えば、何でもありの無差別集団ですよ!? 気に入らないって理由だけで、ひとつの組織を潰すような奴等なんですよ!?」
「うわあ、まるでララファだね」
「一緒にするな。わたしの町に不当な流通を行っているのが許せないんだ」
それは何が違うのだろうか? あと、ララファの町ではないけれど、いちいち彼女に対してツッコミを入れていては夜が明けてしまいそうなので黙っておく。
「しかも、ただのチンピラなんかじゃねえんっすよ。上級魔術師だって所属してる。俺達じゃ手も足も出ないような相手だ」
「どうも、私がいない間に随分といい子ちゃんになったのだな。私がいた頃は、この町を支配していたと言うのになあ」
「主要のメンバーがほとんど抜けちゃって、あとは残りカスみたいなもんすよ。しかも「Phalanx18」がこの町に参入してきたおかげで、数少ないメンバーも抜けて、更生して真面目に働いてる。結婚してるやつもいるんすよ。自分と同じような立場だった人間がまともに生きてる。そういうの見てると、自分が酷くちっぽけでどうしようもない気持ちになるんす……」
ビクセンくんは先の見えない人生に不安を抱えているのだろう。俺も、その気持ちは多少なりとも共感することは出来る。転生前は、生き方は違えど、俺も将来に不安を抱いていた。今だって不安が無いとは言えない。けれど、あの頃は真っ暗な道を忍び足で歩いているような感覚だった。
今はほんの少しだけれど、明かりがある。
「馬鹿野郎!」
怒鳴ったララファが、ビクセンくんの頬を殴る。グーで。
「腑抜けすぎだボケが。抜けていった奴らを気にしてどうするんだ? それともお前は真っ当に生きていくのが夢になったのか?」
「ひがいまふ! このグルーヴをでかうじたいっす……」
えー、なにこの昭和トレンディテンション。ついていけない。
つうかビクセンくんの歯が二三本抜けたんですけど。まともに喋れてないんですけど。
「その想いが少しでもあるうちは、死ぬ気で追いかけろ。そして飛び出すチャンスが今だ。今飛ばなきゃ、お前はどっちつかずの臆病者で人生を終えるんだ」
「姉さん……ロックっす……」
「力を貸してくれるか?」
「うっす……っ!」
「あのー、ちょっといいですか? さっきから気になっていたんだけど、Phalanx18ってララファが助けを求めるほど凄い組織なの?」
俺は堪らず聞いてみる。
「ん? いや、単にデカくドンパチしたいから、こいつらを巻き込んだ」
「姉さん!?」
ビクセンくんはついて行く相手を間違えたんだと思う。もっとまともな人が指導者だったら道を踏み外すことは無かったんだろうな。南無。
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