27*最強女神タカヒメ

 両手を振りながら歩いてくるアイドルっぽい女神。場末のライブハウスのような異様な雰囲気。黒い影が女神の周囲を回ってる。

「タカヒメ殿。東の軍将イヅメでございます。刺田比古神社に祀られた神」

 この女神が、ニギハヤヒにヤマトを譲られせた天ツ軍の軍将?

「知ってるか、ワカフツ」

「はい、オモヒカネに仕える巫神。タヂカラヲと、横にいるイワドノヲを従えてました。イワドノヲは高天原の四方の天門を守る神」

「ボク、聞いたことある。最強の剣神って」

 最強の剣神はいっぱいいるのね。


「昼ノ国に禍いを齎せたくないでしょう。ほら、イワイワ。どう言えばいいの」

「早めに葬る」

 イヅメが手を上げる。アイドルの振付のように、人差指をクルクルと回す。私達を指す。

「だって。きゃは。行け、腐れ神人共ッ」

 黒い影が襲ってくる。


 タカヒメ、ワカフツヌシさん、トミビコさんが剣を構える。……あれ。

「ムリ、オレ、戦えない」

「ナムヂさん?」うっそっ。

 私の前で大剣を振るワカヒコくん。クエビコさんを抱える私。私の後にナムヂさん。ワカヒコくんが私とナムヂさんを庇いながら戦う。傷だらけ。黒い影の斬りつける深傷は危ない。


「タケフツヲ。オレに怖じけて中ツ国に逃げたが、結局は古の戦も負けた。なんだ、今は地祇の女神の下僕神か」

「ワカフツ。脳の弱い天ツ神に、ずいぶんと嫌われてるようだな」

「はい、タカヒメ様への愚弄、許せません」

「地祇って?」

「く、国ツ神の蔑称、だ」

 見くだした言い方ね。……見くだしてるけど。


「殺ォォすゥゥゥゥ」

 突風と共に、電車を降り損なったスサノヲさんと、自我を失ったニギハヤヒが線路を走ってくる。もう、乱戦。私達と天ツ神達の間に入る。

「ヒャッハハハハァァァァ」

「兄神ッ。外だ、外に出ろッ。ヒダル衆はここだけだッ」

 外に出るなとか出ろとか、どっちなんだ。言いながらスサノヲさんとニギハヤヒは駅の外に出る。どこに行くんだろう。……あ。

「石切劔箭神社?」

 タカヒメが振りむく。

 黒い影が次から次へと襲ってくる。傷だらけのワカヒコくん。痛そう。退がり、庇いながら戦うので苦戦を強いられるトミビコさん。なんか辛そう。役にたたない私とクエビコさん、ナムヂさん。スサノヲさんは去ってしまった。どうしよう。

「わかった。ここはワタシが片づける。先に行け、ツクヨミ。赤の女神を助けろ」


「地祇が偉そうに。負けたくせに偉そうに。まーだ、戦うつもりなの」

 カチンとくる。

「人様の国に土足で上がりこんで何様のつもり?神様?アナタのほうこそ、偉そうに。ニギハヤヒは好きじゃないけど、アナタは嫌い、大嫌い」

 私は中指を立てる。また憑かれたように喋る。隠れて悪口を言うのがモットーだったのに。


「イヅメ、怒った。プンスカプンプンだよ。イワイワ、やっちゃって」

 怒らせてしまった。トミビコさんを見る。

「姫はいつも正しいでございます」

 クエビコさんを見る。

「せ、正誤は結果論だ。戦に勝ったら正しい」

「……早く行け、ツクヨミ」タカヒメが笑いながら言う。

「行こう、ツーちゃん」ワカヒコくんが促す。

「ツクヨミ、行くぞ」ナムヂさんは逃げる気、満々。

「トミビコさん、イワドノヲは強いの?」

「ワタシは戦ってないのでわかりません。ただ、イセ国のイセヒコ殿、シキヒコ殿と、ワタシも認める剣神を倒した東の副軍将。侮れません」脅かさないで。


「ったく、すなおに天神に従えばいいのに。だから性格ブスになるの」

 タカヒメの拳が強く握られる。カチンときたみたい。

「地祇の女神と下僕神。高天原で最強の剣神に斬られ、葬られよ」

 背に佩びた2振の剣を握り、イワドノヲが歩いてくる。

「最強の剣神なのか?」

「いえ、ワタシは戦ったことがないので。ただ……」

「オレがクシイワの剣、トヨイワの剣を振ったとき、葬られる」2振の剣を抜く。

「なるほど、ワタシと同じく二剣を持つのか」ノヅチの剣を抜く。

「いや、四剣だ。オレは南北東西の天門を守る神。四方の剣を持つ」柄の両端が剣になってる。

「両剣の二剣か。ワタシのノヅチの剣もふざけた剣だが、ふざけた剣だ。どちらの剣が強いか。教えてやる」

 タカヒメがノヅチの剣を構え、走る。両手に両剣を構えるイワドノヲ。


「姫、急いでください」

「あ、うん」


 叫び声に振り向くとイワドノヲが倒れてた。


「え、なに、イワイワ?……やはり口だけなの?」

「偉そうなことを言うわりに、弱いな。うっとおしいから、もう降りてくるな」

 強すぎる、タカヒメ。

「ワカフツ、ただ、なんだ」

「いえ、戦う気がしなかったので」

 かっこよすぎる、ワカフツヌシさん。

「どうした、オマエは戦わないのか」

 タカヒメがイヅメに剣を向ける。

「やっぽー。また会ったわね」

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