恋と偏差値は比例しない受難曲(パッション)

ももち ちくわ

第1話

 山原・紫苑やまはら・しおんは恋をしていた。


 彼女は滋賀県立・小谷両替前高等学校の2年生である。彼女の成績は定期試験では常に学内2年生の上から20位圏内に入るほどのなかなかの優秀な頭脳の持ち主である。


 そんな彼女が恋をしている相手は犬上・小太郎いぬがみ・こたろう


 それもそうだろう。犬上・小太郎いぬがみ・こたろうは男子バスケ部のエースであり、同時に副将を務めているのだ。彼に憧れない女生徒が、この小谷両替前高等学校にいるというのなら、見てみたい。


 そんな彼女が自分に恋の相談を持ち掛けてくるなど、やめてほしいものなんやで?


「部長! 聞いてます? ぶ・ちょ・うっ! 私の将来が決まるのかもしれないんですよ!? ちゃんと、部長は私の恋が成就するように力を貸してもらいますからね!?」


 少々、むくれた顔のまま、こちらを真剣な目つきで紫苑しおんくんは、わいに協力を願い出てくるんやで……。わいがなんで付き合わなならんのか、さっぱりわからんのやで?


「良いですか? 部長は学年トップの成績ですけど、怪しげな呪術にはまっていて、友達が少ないのは周知の事実です。でも、そんな部長ですけれど、今回は私の役に立てるんですよ? もし、私とコタくんが上手くいけば、部長を頼って、校内の女性たちが連日連夜、この閑散とした文芸部の扉をノックしてくれるかもしれないんですよ?」


 うっさいお世話やわ、紫苑しおんくん。この文芸部の部室が閑散としているのは、わいのせいやないわ。そもそも、文芸部がまともに活動らしい活動をしてないからや……。


「確かに、部長の言う通り、部長と私を含めて5人しかいない文芸部が、何か学校のためになるような活動なんて出来るなんて、学校側だって期待していないと思いますよ? でも、部長の怪しげな趣味のおかげで、部員が増えれば、やれることだって増えるはずですよ?」


 わいの趣味が怪しげって言われてもなあ……? ちょっと、部の予算で呪術関係の蔵書を買っているだけなんやけどなあ?


 あっ、紫苑しおんくんがおおげさにため息をついているんやで? わい、ちょっと傷つきそうなんやで?


「はあああ。部長……。また、呪術関係の本を購入したんですか? もっと太宰治とか芥川龍之介とか、夏目漱石とか、買うべき本があるでしょうが……」

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