4話 オレンジの瞳はチートの証


「武器もないのに……!!もう!『スロウンド・アスピダ囲む盾』!!」

リーラちゃんが少し怒っているような表情を顔に浮かべながら、2人(と一頭)の前に出て呪文らしきものを唱えた。瞬間彼女たちを薄い膜が囲んだ。どうやらあっちのことは気にしなくても大丈夫そうだ。


「さて、とびきり可愛いリーラちゃんがお姫様達、なのかな?ふたりを守ってくれているところで、俺はお前をフルボッコしちゃいますよー!さあ立てモブおじさん!」

「黙って聞いていれば……礼儀を知らん小僧め!」

ピシャァッ!!


モブおじさん(仮)がムチを叩く。あ、そう言えばこのおっさん武器持ってんじゃん。


……

「ちょ、俺のことかんがえて?!丸腰ぞ!?ふっつー丸腰相手に鞭とかつかいますぅー!?そういうとこだからね!!」

「私はゴーリー帝国の神官!この私の顔に傷をつけた平民風情の貴様のことなぞ考える価値などない!やれ、貴様ら!」


口を開けばルケード如きだの、平民風情だの、奴隷だの、差別言葉しかでねえなー。もっと他の言葉使えねぇのかよ。

とはいえ相手は武器持ちな上に集団こっちは丸腰。やっぱり武器借りに行けばよかったかな、と思った時だった。

「あっ、ペインドラグ!」

お姫様に抱えられていた白い仔竜がこちらに向かってきた。全体が真っ白なのかと思ったが、手足の先端と背中が血を滲ませたように赤い。というか、手足は模様で、背中のは本物の血なのかもしれない。何しろ竜なら誰もが持っているだろう翼が見当たらないのだ。

「きゅうー!」

俺の足元まで来た仔竜を抱えて、肩に乗せる。血の匂いと、抱える時に手についた温かい液体。やっぱりこいつ、誰かに……

「誰かに翼もぎ取られちまったのか?」

「きゅう……」

「そっかー……じゃ、あいつらぶっ飛ばして、翼取り返さなきゃな!」

「!!……きゅうっ、きゅうー!」

仔竜が嬉しそうにオレンジの瞳を細めて笑った。一瞬、鋭い痛みが脳をかけめぐり、そして……


“ウタ!ウタっていうんでしょ!オイラのちからかすよ!ウタのかんがえてることなんだってできるよ!”

「……は?!」

今の痛みで何が起きたって言うんだろう。目の前の仔竜が人語を話してくる。さっきまできゅうきゅうしか言ってなかったのに……あ、もしかしてこれ

「テレパシー?」

“んー……わかんない!でも、みんなにもきこえてるみたい!”

周りの様子を見れば確かに、仔竜の人語はみんなにも聞こえてるらしい。後ろの三人は呆気にとられていて、前のモブおじwith兵士軍団はといえば……恐怖をその顔に浮かべていた。

「『厄災』が……人語を話してる……!?」

「それにあの男の目が……!」

「あの小僧……まさか!」

あいつらにとって、仔竜が人語を話すことは何よりも恐怖なんだろう。兵士たちの数名が後ずさった。

「よくわかんないけど勝手に怖がっててくれる分にはいいか!てかお前さ、俺が今考えてることなんでもできるって言ったよね?」

“ん!”

「じゃあさ例えば……手から武器出せるとか、アクロバティックな動きできるとか?」

“できるよ!”

完全に信じたわけでもなかったが、物は試しと漫画やゲームの主人公のように両手を合わせ、念じた。強い剣でろ……なんかこう、炎纏ってる感じの感じのかっこいいやつ……

ごうごうと合わせた手の隙間から炎が漏れだした。剣を引き抜くように手を離す。

「……マジか」

刃に炎を纏う、まさに想像した通りのかっこいい剣が現れた。

“いったでしょ!オイラ、なんでもできるんだよ!”

エヘンと、仔竜が胸を張るような仕草をした。めっちゃ可愛い。

「やっべ、超チート能力手に入れちゃったじゃん俺の力じゃないけど!でもまあ……これで、あいつらぶちのめせる!」

「やはりあの小僧、『厄災の導き手』か!早くあの業深き罪人を捕らえよ!生け捕りにし、皇后陛下の元へ届ける!」

「はっ!」


兵士たちが一斉に俺の方へ向かってきた。目を瞑り、念じる。アクションゲームで主人公を操作するみたいに、軽やかに、動け!

「うがっ!」

「ぐぁっ!」

瞬間、次々と四方へ吹き飛ばされる。吹き飛んだ兵士たちの中心にいるのは、剣を携え、肩に仔竜を乗せた俺一人。

「……一瞬でこの数の兵士たちを……!」

「ここに居るのは国の精鋭だっていうのに……あいつ、何者なの?」

「凄……ウタさん!」

後ろの3人が口々に呟いた。何だかそれが前に投稿した、そこそこ人気の出たアクションゲーム動画のコメントを思い出させて口元がニヤける。

「アクロバティックな動きもほんとに出来てる……ここまで出来んなら勝ち確じゃん。凄いねお前」

“すごいでしょー!”

仔竜の頭を撫で、視線を呆然と倒れた兵士たちを見るモブおじさんの方へむけた。

「なぁ、殆どのしちゃったけど、どーすんのモブおじさん」

「ゆ、ゆ、許さん!かくなる上はァッ!」

おっさんがムチを振るおうとし、俺は剣を構えたが、攻撃は一向に来なかった。


「その辺にしといたらどないですか、神官殿?」


目の前に、仮面をつけ、白い軍服を着た男が立ち塞がり、おっさんの鞭を掴んでいたからだ。

「子供一人に負かされるなんて……なっさけないわぁ、仮にも国の兵士でしょに」



侮蔑のこもったその声が、どこかで聞いたことがある気がした。




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