第28話

 「ハァッ……ハァッ……たく走るの早すぎだぜ。ッたく」




その声に荷車を物色していたベヒ美がのそりと顔を上げた。その視線の先には膝に両手をついたタカシが立っていた。




「ったく……おせぇよ。銀等級冒険者(笑)様」




「た、タカシさんッ!」




「悪い。道草食ってたら遅くなった」




タカシを見た瞬間ベヒ美が大きく吠える。




「ガァァァァァァァァァァアァァァッ!!」




咆哮が生む風圧はダンジョンで出会った時以来の威力だ。




「おう、おう。飯邪魔されてキレてんのか?腹減ってんなら俺にいえよな」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッ!!」




 そしてタカシはベヒ美があさっていた荷台に目をやり、匂いを嗅ぐ。




「この生臭さ。やっぱりな。お前魚介類が好きだったのか。ビンゴだ。道草食ってきて正解だったわ。なぁベヒ美置いて行って悪かった」




 ベヒ美と対峙しているのにも関わらずタカシは頭を下げる。




「ちょっと、何やってるだッ!?」




 戦闘ではあるまじき行為をするタカシの姿に思わずエレノアが前に出ようとするもそれを片手でアリシアが制止する。




「エレノアさん。ダメです。タカシさんは今確かめてるんだと思います」




「確かめるったって何をだよ」




「もしかしたらあるかもしれない、絆を。あなたとハクトの様な」




「……なるほど」




 ベヒ美は動かない。がしかし何かを思い出そうとしているかの様に見える仕草をするかの様に頭を振るったり、頭突きをして苦しそうに悶えていた。




「目の色が……」




 紅かった目が、微かに黄色に戻ったり明滅を繰り返している。その姿にタカシは覚悟を決めたかの様に左手を構えた。構えた左手は膨張し紅蓮を纏い紅に染まる。




「お前の思い伝わったぜ。勘違いだったらハズい奴だけど。だから仲直りの印に俺はお前の大好物をお前にお見舞いするぜッ!」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッ!!」




ベヒ美はまた赤い残光を散らし、咆哮しながらタカシ目掛けて加速する。


だがタカシは不敵に笑う。まるで勝利を確信したかの様に。そして左手を振りきる。




「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおぉぉぉぉぉおぉぉおおおおおおおッ!!」




 左手が業火を拭き、加速する。ここまでは従来の〝ロケットン汁〟であったが、射出した瞬間ドリルのような螺旋の回転を加えた〝ロケットン汁〟しかしまだ終わらない。貫通力を高めた後に螺旋の回転によって〝何〟かがまき散らされロケットン汁と共にベヒ美に向かって射出される。




「あれはッ!?」




バチンッバチンッッバチンッ!!




 皮膚にの硬さに弾かれたというよりもまるでビンタの様なそんな音。今までに感じた事のない痛みに思わず悲痛の声を上げた。




「グルゥガァアアアアアアアッ!?」




 地面に散った射出物はなんと貝殻であった。




「皮膚を貫く必要はない。出来るだけ近くで〝ロケットン汁〟を放つことで熱々に煮だった貝を初速を殺さず放つことで皮膚のギリギリまでめり込ませる。必要なのは貫くことじゃないッ!痛みを感じさせることだッ!しかも貝殻はいいダシが出る。放たれた貝殻に痛みを感じながら、豚汁に加味された海の幸の風味に酔いしれろッ!!」




ドパンッ!!




 外にまで轟く〝ロケットン汁〟の体内での炸裂音。それと同時にベヒ美の突進は途中で力をなくし、滑るように倒れた。


そして倒れたベヒ美の頭をなでながらぼそりとタカシがつぶやく。




「眠れ、そして恐れろ。〝ロケットン汁・貝〟のU・MA・MIにな」




 その言葉を最後にベヒ美は完全に沈黙し、以後語り継がれる事となる『ベヒモス襲撃事件』はこうして幕を閉じたのであった。


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