第22話

 街はしっかりとした外壁に囲まれていた。


 タカシも異世界に来てしったのだが、この都市を囲む壁の事を市壁というらしい。都市は一つの国家であり壁の内と外では全く環境が異なる。環境はすなわち法律でありこの街で暮らすルールが適応される境界線が市壁なのだそうだ。そして道中点々と木製家屋が立ち並んでいて、広大な畑が広がっていて畑を耕す人間たちの姿が荷車から見えた。


 これは単に自由に農業をしているわけではなく領主によって支配されている場所なのだそうだ。一般的には封健領土という場所らしく封健領主という国の偉い人間、もしくは国から大幅に権利を与えられた人間によって支配されているらしい。


 故にこの地に住んでいる農民たちは自分の意思で土地を離れることは出来ないのだそうだ。




(実質の奴隷か……異世界にくるって時点でこういったものを見るとは思っていたが、いざそういう話を聞かされると気が滅入るな)




 ちなみにベヒ美は街に入るにはあまりにも目立つし、危険すぎるので封建領土の外に置いてきた。流石に十メートルを超える体躯は市門を通ることは叶わないだろうし、その前にまず門番のチェックを掻い潜ることは間違いなく出来ないだろう。ハクトは空の上を旋回し、目立たない程度に後ろについてきていた。




(あいつ大丈夫かなぁ……とりあえず道端で待機させてきちゃったけど、目立つよなぁあれ。とりあえずギルドに向かって依頼を受けられる状況だけ整えよう。そのあと考えればいいさ)




 そんな前向き思考のタカシの思いとは裏腹に市門では厳しい検査があり、その上で通行税をおさめ市内、つまり街の中に入ることが出来る。なお通行税は人の数や荷車を引く馬にもかかるので街に入るだけでもなかなかの出費になってしまうのが痛いところだ。


今回は窮地を助けてもらったからと荷車の持ち主である行商人のマルクが全員分払ってくれるということであった。




「助かりましたねタカシさん」




 アリシアが手を口元にあてタカシの耳元で小声で囁く。




「ほんとですね。俺たちの手持ちで足りたかどうか怪しいところです。人助けはしてみるものですね。ハハハッ」




 先程までとは裏腹に人助けしといて良かったと思うタカシであった。以外にも市門はあっさりと通ることが出来た。なんでもマルクは何度もこの街を訪れているため門番と顔なじみだったのが大きいようだ。おかげで入念なチェックは特に受けなくてすみそうである。


 手続きが終わり市門を荷車ごと通る。そこに広がっていた光景はまさにタカシが思い描く異世界の市場そのものであった。道は思いのほか広く荷車で移動しても問題ないようである。街道はきっちりと整備されていて石畳で出来ており、道に沿う形で両端には露店が出並んでおり、魚介類や新鮮な果物や野菜類、武器や防具、工芸品等々様々な品物を扱っているのがうかがえる。その光景に声がでないようでチームうりぼうズは全員荷車から見える景色に釘付けである。それはタカシも同様であった。




「うわぁッ!すげぇなぁ、見ろよあのでかい剣!絶対使いこなせないよあれ」




「フフッ……ほんとすごいです。森で噂程度には聞き及んでましたけどまさかここまでとは……想像以上ですッ!」




「アリシア、興奮しすぎだぞッ!この程度ではしゃいでまるで子供だなッ!」




と大人ぶるエレノアも十分声が上ずっており説得力に欠ける。そんなこんなで一同外の風景を楽しみつつ、街道を進み荷車と馬を預けられる宿舎に到着した。




「いやぁ、ありがとうございました。おかげで助かりました」




最期にマルクに礼をいう。アリシアもタカシに続き静かに頭を下げた。マルクは「いやいや」と首を横に振った。




「私も行商人故何度も道中モンスターと遭遇してきました。時には雇った用心棒が死んでしまったなんて事は何度もあります。道中助けに入ってくれる人間もいましたがこぞって金を要求してくる連中ばかりだ。しかしあなたたちは違う。純粋に利益にためではなく同じ人間が襲われていたから飛び出してくれたのでしょう?久々に人の温かみを感じましたよ。わたしはねぇ、タカシさん。あなたたちの様な人達に出会えて今とてもいい気分なんですよ。ですから損得関係なく飛び出せる勇気はあなたの武器だ。大事にしてくだされ。お礼といってはなんですがね、宿を一泊皆の分とりました。今日一日分で申し訳ないがごゆるりと休んでくだされ。それでは私は別件で用があるのでここで失礼します。皆さまありがとうございました」




 マルクは長い礼の言葉を述べつつ、最後に頭をペコリと下げ宿舎を後にした。残されたタカシ達もギルドに登録してもらいに向かう事にした。最後に道中一緒だったエレノア達に挨拶する。




「道中楽しかったぜ。ありがと」




「いやむしろこちらこそだ。有意義な話を聞けて良かった。君たちはギルドに向かうのかい?」




「あぁ、とりあえずはな。ギルドに登録だけはしておきたいからな。行く当てもないしこの街を拠点に依頼をこなせればとは思ってるよ」




「そうか。我々も後で向かおうと思っていたが少々街の露店を見て回りたいという連中がいてな。それに付き合ってからゆっくりいくよ。それじゃあまたどこかで」




「ありがとうございました、またどこかで会いましょうッ!」




「おう、またどこかで」




 こうしてタカシ達はエレノア達とも別れ宿舎を後にした。もちろん目的地はギルドである。宿舎であらかじめギルドの場所を店の店主に聞いておいたのでそんなに難なくギルドに向かうことは出来ているのだが。問題がひとつあった。




「タカシさんタカシさんタカシさんッ!見てくださいよ。あれなんていう食べ物なんですか?タカシさんッ見て見て、あれめっちゃ可愛いですよッ!って聞いてますかタカシさん?」




 アリシアである。タカシが思っていたよりもかなりせわしない。無論異世界の現風景に興奮しないわけではないが流石にアリシアは色々なものに目移りしすぎて興奮のあまりタカシの服を引っ張ってくる。


その光景に道行く人達に笑われている事にアリシアは気がついていない。




「あ、アリシアさん!わかった、わかったから落ち着いて」




とふらふら露店のほうに流されていくアリシアの手を掴み元の道へ軌道修正する。




「えぇッ!?少しみていきましょうよ!いいでしょう?」




「うッ……」




アリシアが涙目でウルウルと訴えかけてくる。




(可愛いッ!?しかしダメだ。目的はギルドに行き冒険者としての登録をすます事だ。露店なんていつでも見れる、はずだ。今は我慢してもらおう)




 自身の中での葛藤を押し切りアリシアの手を引き、人ごみをずかずかと進む。




「ギルドに登録いってからでも見れますから。今は登録だけ行きましょう!」




「えぇッ!そんなぁッ!?」




「……アリシアさん?」




「ちぇッ……分かりました。私も少し目新しい景色に魅了されて我を忘れてました。すみません」




とアリシアをどうにか大人しくさせ、ギルドへと足を進めた。アリシアもタカシに一括され冷静になった


ようで大人しく後をついてくる。




(この子一応箱入り娘だったな。大人しい子だと思ってたけど以外にお茶目なとこあるな。まぁ普通にきゃわうぃいからいいけど)




 露店の並ぶ通りを抜けると広場に抜ける。中央には噴水の様なオブジェがあり、オブジェを囲うようにベンチが並べられていた。広場ではあ多くの人が足を休めたり、楽しそうに会話をしている。よく見るとエルフやオークもいる。他にもリザードマンも見受けられた。




「まさかとは思ってたけどエルフやオーク以外にもいろんな種族が共存しているんだなこの街は。正直驚いた」




「えぇ、すごくいい街ですねここは」




 タカシの印象ではやはり他種族が故差別的な扱いがあるのかと思ってはいたのだが、意外にもそういった様子は見受けられない。市壁があるくらいなので他種族からの侵略に備えているものだとも思っていたがどうやらタカシの思い違いのようだ。




「タカシさん、あれがギルドでは?」




「あ、ほんとだ」




 多種族が仲良く過ごしている姿を見て感慨に浸っていた所アリシアがギルドを見つけてくれたようだ。大きめのスイングドアがどっしりと構えており、その両端には松明が燃えている。頭上には大きな看板があり『ギルドへようこそ』と大きく書かれている。外には掲示板が立ち並びびっしりと依頼書が貼ってある。そして建物の上には大きなモンスターの頭部の骨が設置してありまるでアミューズメントパークのアトラクションを思い出す造りになっていた。




「さ、流石に迫力あるなぁ……」




「えぇ……多分あのモンスターの骨、ベヒ美ちゃんより大きいかもですよ」




「確かに。と、とりあえず中に入りましょうかね」




「は、はい」




 と緊張しながらスイングドアを開ける二人を歓迎するかの様に一同の視線がタカシ達目掛けて注がれていた。

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