第12回:『ストーリー性』、『主要人物』、『倫理観』そして『テーマ』

□『再生』する征服の魅力□



花:いよいよ征服紹介も終盤に差し掛かってきました。七村目の『カダカラール市』について教えてください。

魔:『カダカラ』は、時期的には三村目と四村目の間に征服した村ですね。普段はきちんとスタジオに入って、地図を広げてから征服計画を練ることが多いんですが。この村に関しては、風呂上がりにふと征服のイメージが頭の中に降りてきました。閃き、って言うほど大したものじゃないんですけど(笑)。いつもなら一週間か下手したら一カ月くらいかけて描く地図も、『カダカラ』は二〜三時間でスラスラと描けましたね。

花:征服のアイディアやイメージと言うのは、具体的にどう言った時に思い浮かぶものなんでしょうか?

魔:うーん、私の場合は……本当に取り留めもなく、ですね(笑)。『これをこうすれば、思いつく』と言ったような具体的な方法はないです、すみません。ただ普段から、良くメモを取るようにはしています。『あのギロチン良かったな』とか、『あの雷系魔法、今度あの村で使えそうだな』とか。

花:なるほど。


魔:ただ、膨大にメモしてもそれが全部使い物になるとは限りません。実際後で読み返して、『これ何て書いてあるんだろう?』って自分でも疑問に思うこともあって(笑)。本当に、その時その時の勢いでメモしてますから。書いた時は『これいける!』って思ってても、一日開けたら『なんでこんなんでいけるなんて思ってたんだ?』ってことはしょっちゅうです(笑)。

花:数あるイメージの中から、使えそうなものを選んで征服している?

魔:もちろんワンアイディアでバチッと決まる場合は、そのまま突っ走りますけど。でもそれだけじゃ、長い征服は持たないから。時には以前『捨てた』メモを組み合わせて、どうにかして新しい発想が出てこないか、なんて模索してます。


花:(街の人の声を)聞いてみますと、他の村と比べても『カダカラ』は異色ですね。激しい戦いがあるわけでもなく、市民の人も最初から魔王さまに友好的で、新鮮です。

魔:そうですね。『カダカラール市』は昔から人間と魔族が一緒に暮らす、周りの村から見たら少し変わった市で、そう言う意味では私の考え方に近かったのもありますね。この市にもたくさんの勇者が暮らしていますが、私の仲間にしてくれと志願してくる人も多かったですね。



ーーカダカラール市はジャングルの奥地に栄える魔術都市である。古の頃から伝わる伝統的な魔術と、近代化が進んだ現代魔術が融合した、まさに温故知新の街であると言えよう。ファンタジア一の学力と言われる『カダカラール東大学』もここにある。



花:戦闘がなかった分、征服もやりやすかったんじゃないですか?

魔:とんでもない。地図はすぐ描けましたが、実際の現地での作業は他の征服と変わらないくらい大変でしたよ。カダカラール市は広い街で、発展してるところは極端に発展してるんですが、一歩街の外に足を踏み出せば廃墟のようなスラムが続きます。誰にでも開かれた自由競争社会な分、貧困の差が極端に激しいんです。まずは誰も住んでない手付かずのままの廃屋を一度壊して、路上で寝そべって暮らしてるような方々が住めるように家を建て直す作業から始まりました。

花:すでに去年の冬服ェスで披露され、ファンの間では有名な征服になっています。

魔:そうですね。去年より復興は着実に進んでますし、今回こうしてみなさんに新しい『カダカラール市』をお届けできる事をうれしく思ってます。やっぱり若いファン層に人気なのは圧倒的に『破壊』の征服なんですけども。そこから『再生』する征服の魅力も、今回の街で表現することができたと思ってるんで。そこを汲み取っていただけたら、征服者としてこれほどうれしいことはないですね。私は先輩方から、世界征服で大事なことは主に四つあると教わってて。

花:四つ、ですか。

魔:ええ。『ストーリー性』、『主要人物』、『倫理観』そして『テーマ』です。



ーーここで魔王さまの語る、世界を征服する上で大事なポイント四つをまとめてみた。



①ストーリー性


魔:いかなる征服であろうと、大義名分、『納得する理由』がなければ民衆はついて来てくれません。例えば『カダカラール市』で言えば『激しい貧富の差に悩む人々が、どうにか自分たちの衣食住を確保したい』と言うストーリーが背景にあり、だからこそ征服が成功しました。私利私欲に駆られた世界征服には必ず無理が生じ、人々は征服者を支持してくれません。如何なる理由を持ってして戦うのかは大切にしたいと思っています。


②主要人物


魔:征服するにあたって、誰を参謀にするか、誰をどの部隊に据えるのか。魔術師は誰だ、武器や食料の供給係はどうするのか、戦闘後の地元住民へのケアは……まだありますけど、ここがおろそかになってしまっては、どんなに素晴らしい計画を立てたとしても実行に移せません。また、自分自身を磨くことも大事です。明確なヴィジョンを持たないリーダーに、人々はついてきてくれるでしょうか? 私も現役の頃は普段から年に五百軒は武器屋や地図会社を回って、征服について日々研究していました。


③倫理観


魔:仮に世界征服時に略奪や強盗、殺人などの行為があったとしても、それが支持・理解されるようなことは歴史上ありえません。またどんなに秘密裏に行ったとしても、今のご時世反征服的行為は必ず表に出るようになっていますから、オススメもしません。世界征服と言う極限状態の中で、自分の倫理観が問われてくるのです。例えば、征服軍の食料が底をつき、近隣住民からも分けてもらえない。そんな状況下の時、果たしてどうすればいいのか……答えはないかもしれない。だからこそ、普段から「自分が指揮官ならこうする」と考える癖をつけておくといいと思います。最悪の状況は、スケジュール通りには来てくれません。考え得る限りの最善の策で、臨機応変に対応してください。倫理観は鍛えられるのです。


④テーマ


魔:要するに、世界を征服してどうしたいのか。征服者自身の個性的な部分です。みんなが安心して、週一でカレーを食べることのできる世界を作りたい、とか。世界を征服しようとする人は、今の現状に不満を抱いていたり、こんな世界にしたいと言う理想を持っているはずです。悲しいかな不満が深ければ深いほど、また理想が高ければ高いほど、現実という硬い壁に打ちのめされてしまう征服希望者も少なくありません。最初に抱いた動機は忘れないようにして欲しいのです。そこがブレてしまうと、一体自分は何のためにこんな苦しい思いをしているんだとか、他に楽に稼げる方法があるじゃないかとか、征服に迷いが生じてしまうのです。征服を楽しいものにするためにも、自分の世界征服のテーマについて考える時間を設けて欲しいと思います。



魔:……他にも細かい技術的な部分はありますけど、それは後から身につけてもらうとして。大ざっぱに言ってこの四つです。

花:なるほど。『ストーリー性』、『主要人物』、『倫理観』、『テーマ』、それから『食事』ですね。どれも世界征服について欠かすことのできない、大切な要素ですね。

魔:は……あれ? 五つあったような……?

花:今回はとても内容の濃い一時間になりましたね。貴重なお話をありがとうございました。じゃあ魔王さま、十九時から魔王さまの名前でカダカラール料亭の予約取ってありますから、急いで移動しましょう。コース料理食べ損ねちゃう!

魔:え!? 聞いてないですけど……花園さん、待ってください。私五つ目はあげてないような……。

花:ありがとうございました! それではまた次回!



(文:高宮第三高等学校新聞部・二年三組 花園優佳)

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