第10回:早くライブでこの征服を披露したいと、今からウズウズしてますね

花:さて魔王さま。今日はどんな美味しいものを食べに行きましょう?

魔:花園さん。インタビューにかこつけて、飯にありつこうとするのはやめてください。今日はゴマタゴマ山。王都から東に向かったところにある、登山者やバックパッカーに人気の観光スポットですよ。

花:美味しい山菜やキノコがたくさん採れそうですね! 楽しみです!

魔:私の世界征服の話はどこに言ったんだ……。



ーーゴマタゴマ山。標高一五四三メートルの、ファンタジアを代表する活火山の一つである。ここにはたくさんの種類のドラゴンが住み着いており、毎年春から夏にかけて、卵から孵る様子を見ようと集まる観光客は後を絶たない。山の近くには天然の温泉も湧き出ていて、世界を征服するなんてそんなちっぽけな話はどうでも良くなってしまうくらい、雄大な自然が広がっている。



□あの頃のままのつもりでも、年月だけはしっかりと流れてる□



花:まずはちゃっちゃっと世界征服の話をしましょう。五村目は、四村目と打って変わって激しい征服ですね。

魔:それがメインなのでは……いえ、何でもありません。そうですね……四村目までは、わりと人間との戦いだったり、魔族との戦いだったりすることが多かったです。でもこのゴマタゴマ山では、厳しい自然との戦いや、野生生物との戦いが主でした。必然的に、激しい征服になっていましたね。

花:ドラゴンを討伐し、険しい山中の道なき道を切り開いていく。ある意味で昔の魔王っぽいと言うか。この村で、かつての征服を思い出したファンの方も多いのではないでしょうか?


魔:そうですね。自分でも征服地図を書いてて、ちょっと昔が懐かしくなったりもしました(笑)。『ああ、若い頃こんな感じだったなあ〜』みたいな(笑)。だけど自分では何も変わっていない、あの頃のままのつもりでも、年月だけはしっかりと流れてる。だから同じような征服をしたとしても、決して同じものにはならないんですよね。

花:回数を重ねるごとに、着実に進化している?

魔:それは……どうだろう(笑)。でも四村目でしっとりとした征服だったので、ここでもう一度気分をバーン! と盛り上げてもらって、と言うのは意識してます。早くライブでこの征服を披露したいと、今からウズウズしてますね(笑)。



ーードラゴンの巣の近くにたち、彼らの鼻息で背中のマントをなびかせる魔王(写真20)。集団との生々しい肉弾戦が主だった四村目までと違い、この『ゴマタゴマ山』は征服全体を通しても異彩を放っている、いわばライブでの『盛り上げ役』のような位置づけだ。



花:万が一街でドラゴンに出くわしてしまった時の、倒し方について教えてください。

魔:そうですね、最近ではファンタジアも近代化が進んで、良くも悪くも今まで未開の地だった秘境に人間や魔族が入れるようになってきましたから。旅先でドラゴンに出逢う可能性もなくはありません。野生のドラゴンは、小さい種でもゆうに二十メートルは超えるものばかりです。表面は硬い鱗で覆われていて、生半可な魔法では弾かれてしまいます。両手の先の巨大な鉤爪による叩きつけも強力ですが、なんせ肺の近くに火炎胞と呼ばれる呼吸器官を持っていて、その気になれば辺り一面を焼け野原にする業火を吐き出しますから。物理攻撃だと近距離戦も遠距離戦も至難の業を極めるでしょう。私のオススメは、地の利を生かすと言うことですね。

花:と、言うのは?


魔:例えば『ゴマタゴマ山』では、頂上付近に何カ所かマグマが吹き出しています。私が征服の時襲われた際は、とにかくひたすら走って頂上まで逃げて、マグマの近くまで誘き寄せました。

花:なるほど。マグマにやっつけてもらったわけですね。

魔:後は普段から『防犯ブザー』を持ち歩くと言うことですね。街中と言えど、夜道はやはり危ないですから。明かりのないところで襲われると言うケースも多発しています。護身用のスタンガンも、ドラゴンに効くとは思えませんが、それでも相手に武器を見せることで威嚇にはなります。

花:ドラゴンをむげに威嚇して、逆上して襲ってこないでしょうか?

魔:道端で待ち伏せしているようなドラゴン族は、もう襲う気満々ですから。一瞬でもドラゴンが足を止めてくれればいい、くらいに思っててください。

花:街中で、例えば仕事帰りなんかで地の利を生かすとすると……。

魔:今ではみなさんのご協力のおかげで、さまざまな住宅街に『子モド110番の家』が設置されています。まずはとにかくひたすら走って逃げて、『子モド110番の家』に駆け込むことですね。

花:なるほど。その家の人がドラゴンにやられてしまったらどうしましょう?

魔:そればっかりは、運を天に任せるとしか言いようがない……。

花:怖い世の中ですね。いずれにせよ、不審竜には気をつけないとですね。



ーー近年では都会でも、不審竜による犯罪が増加傾向にある。『不審竜によるドラゴン犯罪は、これからも徹底的に取り締まっていく』と、魔王さまは取材班の前で誓ってくれた。



□どれもこれも、ファンタジアが誇る名産品ばかりです□



花:わあ、いい香り。魔王さま、こちらのお料理は何ですか?

魔:これは通称『タゴマ鍋』と言って……ゴマタゴマ山で採れるタゴマナノハナやゴマキノコをふんだんに使った、野菜鍋ですね。

花:美味しそう! ……なのに何で、魔王さまは浮かない顔をしてらっしゃるのですか?

魔:……何だか最近、私の隠居記念のインタビュー記事がただの食レポになってる気がして……。

花:色々食べ歩きましたもんね。ここに来るまででも、『ドラゴンまんじゅう』やら『ユニコーンゴマ団子』やら。魔王さまのお口には合いませんでしたか?

魔:いえ、そうではなくて……確かに食べ物は美味しいですよ。どれもこれも、ファンタジアが誇る名産品ばかりです。でも、本当にこんな内容で良いのか? と……。もっと世界征服について、語るべきことがあるんじゃないかなと悩むんです。


花:なんだ。そんなことですか。

魔:そんなこととはなんですか。

花:食レポの何が悪いんですか。各地の名産品が美味しい。それって何よりもファンタジアの宣伝になりますよ。

魔:そうでしょうか……?

花:そうですよ。それとも魔王さまは世界を征服して、ご飯の美味しくない国を作るつもりだったんですか?

魔:そんなことはないですけど……。


花:でしょう? わあ、見てくださいこの椎茸! こんなに大っきなキノコ初めて見ました。 

魔:なんだかそれを言い訳に、美味しいものを食べ歩くだけの記事になってるような……。

花:はい、あ〜ん。

魔:もっと村ごとに征服の技術的な部分とか、これからのファンタジアの展望とか、自分の熱量を語るべきじゃないかって……。

花:はい、あ〜ん。

魔:…………。

花:…………。

花:美味しいですか?

魔:……美味しいです。



ーー征服の世界から離れ、つかの間の休息の時間の中で無邪気に椎茸を頬張る魔王(写真21)。読者の中には、『仮にも征服者たるものが征服の具体的な内容なこの国の展望について語らずに、飯を食ってるだけとは何事か』と怒る方もいらっしゃるかもしれない。ただ、そんな方にこそ魔王さまのこの笑顔を見て欲しい(写真22、23、24)。この笑顔を守れずして、何が世界征服であろうか。このファンタジアの大地に実ったさまざまな地場産物を誇らずして、何が世界征服であろうか。取材班はこれからも”食”にこだわって記事をお届けして行くと、あらためて誓ったのであった。



(文:高宮第三高等学校新聞部・二年三組 花園優佳)

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