第6回:勉強熱心ですよね、今の若い子たちは。特に世界征服を企んでいるような魔物はね

□魔王さまの先輩登場!?□



エ:オウ! ハル、元気だったか!?

魔:エリザ先輩。そんないきなり名乗らずに登場されても、読んでる人は混乱するだけなのでは……。

花:ご紹介します。第三代並びに第五代・世界征服者のエリザさんです。本日は魔王リーンハルトさまの先輩にあたるこの方をお呼びして、インタビューの続きをお届けしたいと思います。お二人とも、どうぞよろしくお願いします。

魔:よろしくお願いします。

エ:よろしくな!!



ーーもはや説明不要、ご存知の方も多いかもしれない。突然インタビューに乱入してきたのは、第三次世界戦争から連続三期で約二千年の間世界を征服した、伝説の魔女・エリザ=スタンフォードさまである。エリザさまが隠居し、その次に世界を征服したのが魔王リーンハルトさまであるが、実はエリザさまは、今の魔王さまを子供の頃から可愛がっており、彼にとっては師匠とも呼べる存在なのだ。


 今日のインタビューの舞台は『イシュタール』洞窟。深さは何と二千メートル。一歩間違えれば奈落の底へと突き落とされる急な斜面。まるで槍のようにその先端を尖らせる、天井に張り付いた何百本と言う氷柱。灼熱のマグマが踊る最下層で待ち受けるのは、何千年前からそこに棲み着いたドラゴンやデーモン種と言った古の魔物たち……(写真15)。


 全国の新米勇者たちの約六割は、この洞窟に武器を持って挑み魔物たちに稽古をつけてもらうのだとか。ファンタジア観光案内事業部公式の、由緒正しい伝説のダンジョンの一つである。途中地点の休憩所で売られている『イシュタールどうくつせんべい』はこの地方の名物であり、食べたことがある人も多いのでは? 


 三年連続で『ルーズソックスが似合う竜人族大賞』にも選ばれた抜群のスタイルとルックスで、熱狂的ファンも多いエリザさま(写真16)。彼女の故郷でもあるこの洞窟で、魔王さまの知られざる幼少期の逸話や、魔族側から見たダンジョン攻略法についてなど、本日も濃厚過ぎる内容をお届けしていく。



□大人をからかうのはやめてください□



エ:リーンハルトな。こいつ、初恋の相手私だったんだよ!

魔:な……何言ってんですかエリザ先輩!?

花:そうだったんですか!?

エ:そうだよ。私ってホラ、すらっとしてて凛々しい顔してるし、性格も良いじゃん?

魔:そう言うことは自分で言わないでください。


エ:だからハルがこーんなに小っちゃい時から、ずっと「お姉ちゃん、お姉ちゃん」って付き纏われてな。あん時は可愛かったのになあ。

花:うわあ! 本当だ、小ちゃ〜い。

魔:どこに感心してるんですか。そんな、いくら私が子供だったからって、親指と人差し指の間くらいの大きさな訳ないでしょう。そのジェスチャーはもののたとえですよ。もうそんな昔のこと、忘れちゃいましたよ……。

花:魔王さま、ちょっと赤くなってますね?

魔:大人をからかうのはやめてください(笑)。



□ここが私の征服活動の原点□



花:広い洞窟ですね……下の方なんて、どこまで続いているのか分からないくらい……。

魔:あんまり覗き込んじゃ危ないですよ。うっかり落ちて亡くなってしまった勇者も多いですから。

花:ここが魔王さまの、征服活動の原点だったんですね。

魔:いえ、実はそうでもないんですよ。確かに七歳になる時に、お父さんの仕事の都合でこの洞窟に引っ越して来ましたけど、生まれはもっと北の方ですし。

花:見てください。あそこの窪みで、勇者と魔物が戦ってる!


エ:三十五階層か。新人にしてはやるな、ってレベルだね。

魔:人間と魔族の交流がここまで親密なものになったのは、エリザ先輩の代からなんですよ。昔はお互い話すことさえ禁じられていたんですけど。先輩が世界を征服した時、当時の王室に怒鳴り散らして環境を整えてくださって。本当に、征服者として見習うべきことばかりです。

花:なるほど。ああやって若い勇者と若い魔物が競い合って、お互い強くなっていく訳ですね。ここが、魔王さまの征服活動の原点とも呼べる場所だったんですね。

魔:え? いやまあ……そうとも言えますけど、正直そこまででは無いって言うか……。思い入れは、故郷の方が強いかも……。

花:つまり、ここで鍛えられた訳でしょう? 要するに、この洞窟が魔王さまの征服活動の原点?

魔:そう……そうですね。ここで鍛えました。



ーー意外にも、ここが自身の征服活動の原点だと語る魔王。彼のその強さは一体どこから来るのだろうか? とルーツを探っていた取材班は、偶然にもその答えに辿り着いた。そんな彼に、イシュタール洞窟の攻略法を聞いてみる。


魔:勇者用語で、『エンカウント』って言うんですか? ダンジョンに潜ったら、岩場の陰から偶然モンスターが飛び出して来るみたいな。でもあれ、魔物側からすると、全然偶然じゃなかったりする(笑)。

花:そうなんですか!?

エ:「ここまで歩いたら、疲れて来るだろう」とか、計算して配置についてるからね。

花:えー!? それは意外!

魔:闇雲に突っ込んで行ったって、怪我するだけですからね。特にレベルの低い魔物ほど、勇者を襲うのは慎重になりますよ。下手すりゃ返り討ちにあいかねない訳ですから。

エ:この角度からだったら不意打ちできるとか、勇者の武器に応じてどの属性の魔物が先陣を切るか、とかね。洞窟の奥では毎日研究会が行われてて、魔物同士が研鑽に努めてる。

魔:勉強熱心ですよね、今の若い子たちは。特に世界征服を企んでいるような魔物はね。逆に研究を怠ると、どんなに基礎値が高い魔物でもあっという間。厳しい世界ですよ。


花:失礼ですが、人間側から見ると、ダンジョンの魔物は勇者を見つけたら見境なしに襲ってくるイメージがあって。アットランダムに出現する訳じゃ無いんですね?

魔:ええ。政府公式のダンジョンでは、魔物の出現位置も勇者の回復場所も綿密に計算してポジショニングしています。ここにいる魔物だって、みんないわば公務員ですから。いかに危険な勇者が相手だろうと、職務は全うしますよ。

花:魔物って公務員だったんですか!?


魔:今では大半がそうですね。ここ数年で魔物たちの間で一番人気の職業になりました。野良で道場破りみたいなことやってる魔物は知りませんけど。ダンジョンの設備や魔物の福利厚生を整えたのは、他ならぬエリザ先輩なんです。先輩のおかげで、魔物たちの待遇も随分改善されたんですよ。昔は一撃でやられていたような弱い魔物も、ここみたいな公式ダンジョンで鍛えることによって、勇者との戦い方を一から学べるようになったんです。

エ:よせやい。あんまり褒めても何も出ないよ(笑)。

花:なるほど。じゃあ弱い魔物は、ある意味勇者よりも勇気を振り絞って前に出てきてる訳ですね。


エ:せっかくだから、三人パーティでダンジョンに挑戦してみようか。

花:ええ!?

魔:エリザ先輩と私じゃ、相手にならないでしょう(苦笑)。

花:でも私、戦ったことないし! 一つ目のお化けなんか見たら絶対気絶しちゃう……!

エ:だーいじょうぶだって! ハルもいるし。な!

魔:ええ。このレベルだったら……花園さんでも倒せるんじゃないかな。

花:嘘ォ!?

エ:いい取材になると思うよォ。いざとなったら、千切れた腕くらいは魔法でくっつけて上げるから。

花:すみません、取材の時間とっくに過ぎてたみたいです。私、もう帰らなきゃ……。

エ:そんな顔しなさんな(笑)。この人を誰だと思ってんの! 世界を征服した魔王さまだよ?

魔:(笑)。



□一時間後□



エ:いやああ! 楽しかったね。レベル的に、ちと物足りなかったけど(笑)。花ちゃんはどうだった? 初めてのダンジョン経験。

魔:…………。

エ:あれ? 花ちゃんは?

魔:先輩、花園さん昼寝してるみたいです。

エ:あらまあ! いつの間に……。

魔:一階の入り口で、最初の魔物が飛び出して来た時からですね。そこから先輩が九九九階まで一人で突っ込んで行って、ものの一時間で最下層まで辿り着いてしまいました。

エ:フゥン、疲れてたのかもしれないね? じゃあこの子、全然景色楽しめなかっただろうね……可哀想に。

魔:やっぱり物足りなかったんでしょうか。この洞窟は初心者向けですし、実力者には退屈なところもあるから、花園さんが昼寝してしまうのも仕方ないかもしれません。

エ:それにしても花ちゃん、そんなに早くから昼寝できるなんて大物だね。ちゃんと鍛えたらきっと将来、すごい女勇者になるよ。

魔:そしたら、私のライバルですね(笑)。

エ&魔:ハッハッハッハッハ(笑)。



□更新情報□

記憶が不確かなのですが、どうも腕の調子が悪いので、誠に勝手ながら来週は休載にします。申し訳ございません。ご了承ください。


(文:高宮第三高等学校新聞部・二年三組 花園優佳)

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