第3話 変革

俺が思春期症候群を発症したのはそれから間もなくのことで、だから容易に事態を飲み込むことができた。あれから約半年後、症状は軽くなりつつあったが、未だに人混みには近寄れずにいた。ただ幸いにも中学入ってすぐに通信教材を取っていて家にいる時間が増えた(というかずっと家にいた)ので希望の高校には受かった。

入学式の日。そこだけは出席しようと思い、意を決して参加した。正直この選択は間違いだと後悔した。倒れはしなかったものの周りのがうるさくて終始頭痛に悩まされ、半年ぶりに周囲の視線に晒されるのが辛かった。もう二度と人混みには行かないと決意した。

そして時が流れ夏が終わりかけた頃、その日はどういう気の迷いか買い物をしたくなったので俺は近所のスーパーまで買い物に行った。相変わらず症状は残ったままで、ずっと引き篭もり生活を続けていた。久々の外出だが特に何も感じず(いや、この時には既に嫌な予感があったのだろう)、ちょっぴりビクビクしながら慎重に買い物をしていた。と、何やら騒がしいが聴こえてきた。〈あーっ、先輩っ!またそうやってあたしをからかう。発症した時に比べてあたしの胸だって-

ふむ、古賀の尻また一段と大きくなったか?彼女の成長には眼を見張るものがあるな!〉

えっ?今思春期症候群って…。

「すいません、今の話、詳しく聞かせてもらえませんか?」

気づけば賑やかな男女二人組に声を掛けていた。

「えっ?話って古賀のスリーサイズのこと?」

「もうっ!先輩、そんな話してないし!!今日の晩御飯をオムライスにしよって話し…に興味ある…の?」

そこではたと気付いた。そういや俺が聞いた声は心の方がだった。

舞台を喫茶店に移し、今の自分がどんな状況なのか、思春期症候群の話を話しかけたことなどを説明した。

「要は親友に裏切られてそれから思春期症候群が表れたってことでいいか?」

「あっ、はい。大体そんな感じです…えっと…」

「そうか自己紹介がまだだったな。俺は梓川咲太。峰ヶ原高校二年だ。趣味は後輩の古賀、この隣のちっこいの…」

「ちっこいって言うな!!」

「…をいじること。将来の夢は麻衣先輩-俺の彼女な! を嫁にもらうことだ!あっ、俺が婿にいくのもいいなぁ…」

「うわぁ、流石に引くわー…ってあたしをいじるの趣味にすんな!あ、あたしは古賀朋絵。峰ヶ原高校の一年で…って知ってるよね?入学式の時トイレでさ、ほら覚えてない?」

「ちょっと待て、トイレ?お前ら一体どんな関係なんだ…」

「ちょっとやめてよ先輩っ!先輩にそこまで引かれたらあたしの人生おしまいだよ」

「古賀って時々失礼だよな」

「えっ?あ、あの時の…!?よく自分のこと覚えてましたね、えーっと、古賀さん?」

「古賀でいいよ、タメなんだし♪そりゃ一度恩を受けた人を忘れるわけないよー。あの時はありがとう」

「恩?一体ナニをしたんだ健太?」

「け、健太…、あ、えーっと、別にただハンカチを貸しただけですけど」

「それだけ?」

「はい、それだけです」

「あたしにとってはどんな小さなことでも恩は恩をなの!いいでしょ別に」

「まだ何も言ってないのになー」

「割り込んですいません、それで、俺の思春期症候群はどうなるんでしょうか?」

「あっ、ごめんごめん!そうだよどーしよ!あたし達と同じ思春期症候群!ねぇ先輩!」

「やっぱり咲太先輩たちも発症してたんですね!どうやって解決したんですか?」

「あたしの時は先輩が頑張ってくれたけど…先輩?」

「よし、んじゃ行くか」

「どこへ!?」

「Rのところへ」

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