生か死か

 今日は、笑夢の手術当日だ。


 手術が始まるまで、俺と笑夢とそのご両親は一緒に居た。

 ちょっと気まずかったが、一緒に居られるのなら何でも良かった。


 あれから俺は毎日病院に通い、笑夢と話した。

 たまに笑夢の友達と会ってしまったときは最悪だったが、それはまぁいい。


 それより今は、手術の事だ。

 凄く、緊張する。

 俺が勧めたことだと言うのもあった。


 …学校は、当たり前のように休んだ。

 もう出席率とかどうでもいい。留年でもいい。そう思った。


 また、下らない話をして、いつの間にか手術が始まる30分前になっていた。


 笑夢が行ってしまう前に、最初のキスをした。最後ではない。

 病室の中で、ロマンの欠片もなく。


「ありがとう。行ってくるね」


「あぁ、待ってるぞ」


 お互い泣かなかった。手術室に入る前に、抱き締めあった。

 笑夢は温かかった。ちゃんと、生きている。




 笑夢が手術室に入ってからは、地獄のような時間だった。

 不安で、怖くて、心配で、負の感情が取り巻いて大変だった。


 ______________


 何時間経っただろうか。10時間は軽く過ぎているだろう。

 いつの間にか、手術室の外のイスで寝ていたらしい。

 看護師さんが起こしてくれるまで気付かなかった。


「笑夢は!どうなりましたか!?生きてますか!?」


 思わず、大声で聞いた。


「えぇ…手術自体は成功しました。あとは、目を覚ますかどうかです」


「良かった…手術、成功したんだ…」


 思わず、笑夢の病室まで全力で走った。


『病室で走ってはいけない』そんな事も忘れて。


 笑夢の病室には、執刀医の方が居た。

 家族に説明しているようだ。


「強力な麻酔と、体には相当な負担が掛かっています。なのであと3.4日後にしか目を覚まさないかもしれません」


 それを聞いて、安心した。

 足からガクンと力が抜けて、地べたに座り込んだ。


 それから俺は、笑夢はまだ目覚めていなかったが、毎日病室に通った。


 彼女のご両親が居ない間も、学校を休んで、ずっと隣りに居た。


 笑夢の好きだって言ってた文庫本を1冊まるごと、起きても居ない彼女に読み聞かせしたり、語りかけたりを毎日繰り返した。


 眠ってはいるが隣に生きている笑夢が居るだけで、幸せだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る