おおぐまちゃんとこぐまちゃん

瀬賀部 普

第1話 おおぐまちゃん、都会に引っ越す

おおぐまちゃんは山の中に住んでいた。

緑豊かな森・澄んだ空気・おいしい水。心から自然を愛していた。

おおぐまちゃんはテレビを観るのも大好きで外から戻るとすぐにつけ、いつも夜遅くまで観ていた。バラエティ・ドラマ・スポーツなどジャンルはいろいろ。いつしかおおぐまちゃんはテレビで見るような都会での暮らしに憧れるようになった。普段は自然の中で狩りをしたり、木の実を採ったり、野菜を育てたり愛する自然の中でひとりで暮らすには不自由がなかった。しかし都会のくま達のような文化的な暮らしをどうしてもしたかった。悩んだ結果、おおぐまちゃんは都会に引っ越すことにした。家を売り、お金を用意した。テレビは都会の電気店で大画面に変え、録画用のプレイヤーも買うつもりだ。家具やベッドは部屋に合わせて新しく買うことにしていた。運び出す荷物は料理の道具や食器・布団・衣類・このごろ欠かせなくなったパソコン・愛用の釣り竿ぐらいだ。


おおぐまちゃんはずっと両親と3頭で暮らしていたが、5年前のがけ崩れで突然両親を亡くしてしまった。力持ちで器用だったお父さん。木の切り出しから大工仕事までこなす山では有名な職人だった。お母さんは料理が上手。特にジャムやお菓子が人気で、都会のオーガニックショップに卸していたほどだ。売れたお金で山では手に入らない米・小麦粉・調味料を仕入れていた。家族で作ってきた思い出が詰まったこの家を手放すのは申し訳ない気持ちがしたが、買い主のくま夫婦はこの家に一目惚れしたらしく、思わぬ高値で買い取ってもらえた。常々お父さんには、

「自分の生きたいようにすればそれでいい。ずっとここで暮らして諦めてしまうようなことはするな。」

と言われていた。

「ありがとう。お父さんお母さん。」

玄関の扉にペコリと一礼して家を出ていった。

山の駅から都会までは列車で3時間の旅。いろいろな楽しかった出来事を思い出しながら列車に揺られていた。

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