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「う、そのことなんだけど」

 訊いてみると蘭子さんはさらに苦い顔をしてカウンターに突っ伏した。そんなに進展ないの? もう二十日くらいは経つのに。

 なんとなく、そんな気もしていたけどね。

「何て言うか、ちょっと、ね」

「ちょっと、なんです?」

「んんん~」

 蘭子さんはそんな何とも言えない声を出して頭を左右に振る。長い髪がサラサラとカウンターの上で揺れた。

 胸の中の感情を言葉に出来ないのか、何度かそんな声を上げた。後ろからの視線が痛い。

「大丈夫ですか?」

「・・・あんまり」

 でしょうね。大好きな人とギッスギスだもんね。心がしんどいよね。

「いつもこうなる。私って本当に可愛くないわよね」

「そうですか?」

「そうよ、いつも浩太郎のことを困らせてばかりで。こんな歳になっても子供みたいで」

「子供、と言うよりは可愛らしい、と言った感じですけれどね」

「良い様に言い過ぎよ。この歳になっても何にも成長していない。自分の気持ちさえ、ちゃんと伝えることも出来ないのに」

 どっちかというと受信感度が悪いって感じもしない事もないけどね?

「え?」

「いいえ」

 にっこりと返すと、蘭子さんは不思議そうな、困ったような顔をした。

「ストレートに伝えたことが?」

「あるわよもちろん。でもそれは幼馴染として、としか受け取ってもらえなくて。ずっと鈍感だからだと思っていたけど、最近はもしかして私を傷つけないようにしていただけで、本当は全くき「もっともっとストレートに伝えなければいけないのかもしれませんよ?」

「もっともっとストレート?」

「例えば、外国の方に説明する時のように」

 言葉だけで伝えるのではなく、瞳をしっかり見つめて、身体の動きも加えて、端的な言葉で伝えれば、鈍感な相手にも伝わるのかもしれないよ?

「私、浩太郎の事、凄く、好き、って?」

 蘭子さんはそう言って笑う。

「えぇそうです」

 これ冗談じゃないよ。一度くらいそうやって簡単に素直にストレートに伝えるのって良いと思うんだよね、特に彼には。

「ね、浩太郎さん」

「え?」

 にっこりと口角を上げて蘭子さんを見ると今までで一番ポカンとした顔をしていた。視線の先には少し困ったような、戸惑った相手がいる。

 彼女は知らないだろう。彼が彼女の来店がない時も何度も足を運んでいたことを。そういう所、そっくりなんだよね。

 だからこそお似合だと思うけどなぁ、俺は。

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