ここは地の果て

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1 緑と青

車窓から眺める景色には、折り目正しい田んぼの緑があたり一面に広がり、通り過ぎていく。

その向こうは青い海である。

行けども行けども、どこまで進んでも、等間隔の直線に区切られた田んぼが尽きることはない。

まるで芝生のように平面にカットされた草が延々と広がっていて、それらはすべて50センチ以上の深さを持った稲である。

その稲が、本当に海の際のギリギリまで隙間なく植えてある。

ほんの小さな堤防を挟んで、田園の向こうは海である。

「地の果てに来た」

そう実感した。

この先、電車がしばらく進めば半島は終わる。

おそらく、半島の際のギリギリまで、青々と生い茂る稲が植えてあるのだろう。


我が家は、ずいぶん後ろに遠ざかった。

ずいぶん後ろだ。

人の足で歩いてたどり着くには数か月かかるほどの、はるか後ろだ。

しかも、間には海が横たわっている。

私は、最果ての半島まで、来てしまったのだ。


「帰れるのだろうか」

我が家のことを思っていると、ふとした不安が頭をよぎった。

帰れなくなるのは、簡単だ。

私はもはや、自分の力では到底我が家に帰りつけないところまで、来てしまった。

船も、飛行機も、今乗っているこの電車も、いつまでも必ず動く保障は無い。

この地に一人、唐突に放り出された時、私はこの地で生きていけるのだろうか。


仕事を見つけなければなるまい。

自分にいったい、カネを稼げるほどのどんな力があるのだろうか。

自分が本当に何の力も無い人間だということを思い出して悲しくなった。

悲しいだけならいい。

悲しくても生きていける。

しかし生きていけないという事実は、悲しいだけでは済まされない。

自分がこの地に唐突に放り出された時、私は簡単につまはじきにされて死ぬ可能性がある。

それを思うと、恐ろしくなった。

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