病気がきっかけで……

 小学生の頃に体験したことが記憶の片隅に追いやられることはありませんでした。

 あれからも不可思議な体験は続いていたからです。

 まったく意味のないような場面で起きるデジャヴは回数を覚えていないほど、家に帰って部屋へ入ったときに「今夜はあるな」と予感する金縛りも年に数回ありました。

 それでも何かが見えるわけでもなく、予知が出来るわけでもない。

 「お花畑の次郎さん」に言われたことを信じ、『守護霊が強い』から仕方ないことなんだろうなと割り切っていました。


 そんな私も無事に大学へ合格して新しい学生生活が始まりました。

 オリエンテーションを通じて新しい友人も出来たころ、大学から思いもしなかった連絡が。

 健康診断のレントゲン撮影で肺に異変があり、精密検査を要すると言われたのです。

 精密検査の結果は重い肺の病気でした。

 入院することはなかったものの一年間の投薬通院治療が始まり、薬の副作用で10㎏程体重も落ちました。

 通院期間中も毎月レントゲン撮影を行って経過を見ながら、一年後には無事に寛解(ほぼ症状が消えた状態だが、再発の可能性もあるので経過観察が必要)となりました。



 実はこれにも伏線があったのです。

 ゴホッゴホッとせき込む真似をした後に「ち、血だっ」と手のひらを見つめる。

 そんなことを中学三年生の頃によくやっていました。

 十八歳で肺の病で死ぬなんてカッコいいよね、なんて言いながら。

 あの頃はふざけてやっていたつもりが、実際に自分の身へ降りかかると――言霊ことだまというものを信じ、今度は「あれは嘘です。長く生きられますように」と口に出して願うようになりました。

 我ながら現金なものです。



 これがきっかけということでもないのでしょうが、翌年には腎臓、さらに一年経って今度は心臓の病気が判明しました。

 このように書くと病弱なイメージになりますが、見た目は健康快活なタイプなので周囲も気づくことはなかったようです。

 幸いにもいずれも命に係わることはなく、充実した学生生活を送っていました。


 そんなある日、両親から「話しておきたいことがある」と言われました。

 大学四年生の時です。


 大きな病気が続いていた私を案じ、ある高名な霊媒師?にみてもらったとのこと。

 そういえば、親戚の法事といって確か東北へ一泊で出掛けたことがありました。

 いつもなら祖母も一緒に行くのに二人だけだったので、珍しいなと思った覚えがあります。


 私の名前と生年月日を見せたところ、その方は「寒気を感じる」というようなことを言い、両親へ次のことを伝えました。



 この人は守護霊が強く、地縛霊などを引きつけてしまう。

 今は祖父にあたる方への強い恨みを抱いた、女性の霊がまとわりついている。

 その女性は当時、若かった祖父と恋愛関係にあったが諸事情で別れることとなり、結局は自ら命を絶った。

 彼女の霊が孫であるこの方へ、嫌がらせのようにつきまとっている。



 祖父の若いころの話など、両親も知る由がありません。

 驚いた両親は、帰ってきて祖母にそのことを話しました。

 祖母は、結婚する前にそういう女性がいたという話を亡くなった祖父から聞いていたそうです。

 祖母も忘れていたような古い話を言い当てられ、両親はあらためてその方にお願いして除霊してもらったということでした。


「信じなくてもいいけれど、そういうことがあったと知っておいて欲しい」

 そう話す両親へ「分かった」とだけ答えましたが、聞いていた私自身も驚きを隠せませんでした。

 両親も知らない、十年前の「お花畑の次郎さん」と同じこと――『守護霊が強い』――を再び言われたのですから。



 除霊の効果があったのかはわかりません。

 病気がすっと消えてなくなったわけではありませんが、特に治療をしていないのに症状が現れる頻度は減っていきました。

 それとともにデジャブや金縛りを感じることも少なくなりました。

 単に年齢とともに感性が鈍っていっただけなのかもしれません。



 でも、この時から二十年ほどたって「引きつけてしまう」体験をした話は、またあらためて。

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