2017年 2月〜

第11話 いよいよその時

 いつも通り四時に起き、最終確認をする。

 S判定とはいえ心配だった。

 勉強後はしっかりと朝食をとり、制服に着替える。「今日連れてってやるから」お父さんはもう準備満タンだった。

「よっしゃー行くか」

「頑張って来てね」

「らくしょーらくしょー!」とは言ったものの緊張していたし、不安だった。玄関を出て車に乗り込もうとした時、携帯が鳴った。電話だ。画面を見ると。裕希菜だった。俺はすぐに出た。

「もしもし〜?」

「もしもし和亜樹?今日東洋の受験でしょ?頑張って来てね!」

「あぁ、ありがとう!頑張ってくるわ!」

「うん!じゃー!」

「プープー」

 電話は十五秒ほどで切れてしまったが、やる気が湧いた。

 車に乗り込み、家を出る。会場には三十分前に着いた。車を降りる時、お父さんにも「頑張ってこいよ!」と言われた。つくづく俺はいろんな人に支えられてるな…と思った。

 試験は三教科、それと面接で終わった。

 印象に残っているのは試験の休み時間、廊下から叫び声が聞こえた事だ。まるで中一の時の俺みたいじゃないか…そんな人がたくさんいるのか…いろいろ頭をよぎったがいつものように気にしなかった。

 

 手応えはあった。

 三月に入ってすぐ学校から帰ると、東洋高校から封筒が届いていた。最初は何か分からなかったがすぐに、それだと分かった。中を開けると分厚い用紙の紙が入っていた。中を恐る恐る見ると、合格しました。と書かれていた。嬉しさは少なかったが一安心だった。高校生になることが決定したからだ。ふと、時計を見ると時間は四時十分を指していた。

「や、やっべーーーー」

 すぐに机に向かい勉強を始めた。南高校の入試本番は三月七日。残り十日あまりだった。

 次の日裕希菜に東洋高校に合格したことを告げたら嬉しそうにハイタッチをしてくれた。自分のことじゃないのにこんなに喜んでくれる人は他に親しかいないだろう。裕希菜のおかげで最後の一日まで諦めることなく受験勉強をやり終えた。

 受験日の二日前、いつも通り勉強をしていると右手に痛みを感じた。インターネットで調べると[腱鞘炎]《けんしょうえん》の疑いがあったので最後は参考書を見るだけにした。

 受験の前日は塾に行った。

「テストは最後まで諦めないように。今までやって来たことを信じて。頑張って来なさい。」そう言われた。

 そしてついに南高校の受験の日が来た。 昨日はすぐに寝付けなかったが目覚めは良かった。いつもより早く朝ごはんを食べ、玄関に立つ。

 空がいつもより青く、綺麗に見えた。

「和亜樹なら大丈夫だよ。頑張ってね。いってらっしゃい」

 お母さんに背中を押され家を出た。合格したら裕希菜に告白する予定の橋を渡り南高校に着いた。裕希菜はすでに集合場所にいた。

「おはよう…」

「どうしたの和亜樹ーー」

「ちょっと緊張するな」

「大丈夫だって!!」そう言って裕希菜は俺の背中を叩いた。正直今にも泣き出しそうなくらい緊張していた。体育館に一度集められた後、会場に案内される。案内された席に座り、えんぴつを二本と消しゴム、定規、コンパスを机の上に置いた。

 俺の左斜め前に裕希菜がいる。始まる五分前、振り返って

「が・ん・ば・ろ・う・ね」声には聞こえなかったが、口がそう動いていた。裕希菜の顔も緊張していた。

 裕希菜と同じ高校に行き学校に行ってやる。

 その気持ちだけで毎日頑張って来た。

 今この時間で勝負が決まる。

 楽しい高校生活が。

 人生が。

 全てが決まる。


 呼吸を整える。


「まもなく試験を始めます。用意。」


 大きく息を吸う


「はじめ」






 全てをかけた試験が始まった。




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