閃光は突然にやってくる。

 大会まであと二週間を切った。 


 向かった液晶画面には真っ白な画面だけが浮かんでいる。


 まさか、このタイミングでスランプに陥るとは。


 頭を抱えてキーボードの上に突っ伏して嘆く。


 俺はスランプに陥ると長い。 最長で三ヶ月間、何も書けないこともあった。


 だが今までは自分のペースがあるからな~、いずれ何か思いつくだろうと誤魔化すことが出来たが、今回はそういうわけにはいかない。


 締め切りがあるのだ。 そしてそれを直接観衆の前で発表をしなければならないのだ。


 何時間もパソコンの前に座り込み、搾り出すように書き出した一節はあっという間に萎んで創作の糸は途切れてしまう。


 ならばと手癖で書いていけば収束することなくただダラダラとしたまとまりのないものへとおちていく。


 今まで書いてきたものを読み返せば、創作の高揚感から醒めた瞳はただただ作品の欠点を見つけだして落ち込んでいく。


 こういう精神状態では何もすることができないし、何も感じることもない。


 好きなアニメや歌を見て聞いても、ただただ焦りと己の才能の無さが螺子のように心の中に打ち込まれていく。


 どうすればいい? どうすればいい? 


 ただ自問しても答えは見つからず、ただただ時間は過ぎていく。 


 朝日は昇り、やがてはオレンジ色の臨界点を越えて地平へと沈んでいく。


 世界はただただ通り過ぎていく。 俺自身をその場に捕えながら。


「もう夜か…何か買いに行こう」


 液晶画面からの光りだけで照らされた部屋の中で蠢く虫のような自分を幻視しながら俺は立ち上がった。


 今年は日が落ちても熱気は収まることは無い。


 夜の闇よりも黒い心を引きずりながらコンビニへと向かうが、視線は足元から上に上がることは無い。


 ただ救いを求めるように右腕だけはやや前に突き出しながら、ふと何かに指先が触れた。


「ああ、町内会の掲示板か」


 そこには花火大会を知らせるポスターがあり、おそらくは近くの小学校の生徒が書いたであろう可愛らしい絵とポスターカラーで描かれた花火を見上げている構図だった。


 花火大会か。 何か思い浮かぶかも? いやいやそんな単純にはいかねえだろう。


 一度上げた視線をまた足元に戻そうとしたところで何かが頭の中で生まれた。


 それは閃光と呼ぶには弱々しく、また花火のように華美でもない。


 だが確実にそれは脳内にあり、決して消えることは無い。

 

 再度視線を上げる。 そのポスターは透明なアクリル板の向こうで掲示板の中心にしっかりと打ち込まれている。


 取っ掛かりは出来た。 ではそこから足をかける一段が必要だ。 俺はジッとポスターを見つめる。


 …来た。 来た来た。 キタキタキタキタキタキタ!


 光明は点から線となった。 軋んでいた機工が油を差したようにゆっくりと動きはじめていき、急速に頭の中でかみ合っていく。


 見つけた。 これだ!


 きびすを返して走り出す。 早くこれを書き出さなくてはアイディアはドライアイスのように消えていくのだ。


 そうなる前に早く! 早く書き出さないと。 


 最初の一作目が誕生した瞬間だった。

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