第38話 万事休す

智之ともゆきさんは瞬間移動した後、黒い光を放ち爆発させた。

その爆風でみんな吹き飛ばれされた。

バトル漫画みたいだ。困るよ。こっちは普通のただの一般人なんだから。


「はこべ様! なぜあの時愛長つぐなが様を、裏切ったのですか!?」


「私は敵のふりをして愛長様を守ろうとしたのです! 見事に失敗しましたが」

はこべさんは悔しそうに唇をかんでいる。


「はこべ様さえいなければ……愛長様は生きていたのに」

智之さんはそう言って、はこべさんに向かって黒いビームを出した。


「これは危ない状況ね」

はこべさんが瞬間移動した。え? まさか逃げた?


「また逃げたか? まあいい。坂田真太郎!まずお前からだ! 」

智之さんはそう言って、手から鋭利な氷柱のようなものを出し、僕の上から降らした。


「ふんぬ! 」

権蔵が僕の前にバリアを張り、氷柱は跳ね返された。


たちばなくん!兄さんもうやめて!」

後ろを振り向くと何故か笹野ささのさんがこちらに向かってきた。


一瞬智之さんの攻撃が止んだ。

笹野さんの上から先程権蔵が跳ね返した氷柱が降ってくる。


「ふんぬ! 」

権蔵が笹野さんの上の氷柱を動かすが間に合わない。


「危ない! 」

僕は笹野さんに覆いかぶさるように庇った。


「うぐっ」

氷柱は僕の右脇腹に刺さった。氷柱は消え僕は倒れ込んだ。

「嘘だろ? 権太ごんたくん? 権太くん!!!! 」

笹野さんは必死に僕の名前を呼ぶ。


「やっと……下の……名前で……呼んでく……れましたね…」

ヤバい……目が霞んできた。このまま僕死んじゃうのかなあ?


「何で私なんか庇ったんだ! 権太くんが傷ついてまで守られても嬉しくない! 生きて一緒にいなければなんの意味もない」

笹野さんが泣いている。


「それは……今まで……笹野さんがや…ってきたことじゃないです……か……やっと僕の……気持ちが……分かりましたか」


「もういい! 何も言うな」

笹野さんは僕の頭を膝にのせ抱き抱えた。笹野さんはスカートの生地を破り包帯替わりに僕の脇腹に巻く。

権蔵が僕を回復させようとするが、智之さんがビームで攻撃をして邪魔をする。


「蔵子……どうして来たんだ」


「兄さんこそ何でこんなことをするんだ? 」

笹野さんは目に涙を溜めている。


「それは……蔵子くらこを一人の女性として愛しているからさ。転生前からな」


「私は兄としてしか見れない。転生前とはどういうことだ! 」

笹野さんは智之さんを睨みつける。


「私の転生前の名前は須藤久信須藤久信すどうひさのぶ。柊愛長様の家臣。そして蔵子……お前は愛長様の一人娘雲母きらら様の生まれ変わりだ」


「何だと? 」

笹野さんは目を見開いて驚いていた。


「なぜ権太くんを狙うんだ? 」


「転生前から邪魔なんだよ。橘権太は柊愛長様のもうひとりの家臣……坂田真太郎だ」

笹野さんはさっきより驚いていた。


「いつから……権太くんのことを知ったんだ……?」

「15年前…橘と蔵子がデートしているところを見てな。そこで一目で坂田真太郎だと分かった。歩道橋の下で私は怒りまかせでサイコキネシスでツボを割ってしまった。そこで偶然見てしまったんだ。天沢智あまさわさとるが橘を突き落とそうとしているのを。そこで私はサイコキネシスで突き落とす手伝いをしたんだ。しかしそこで蔵子が橘を庇って落ちてしまった……予想外だったよ。蔵子がケガしないように破片をずらしたが腕に傷が残ってしまった。蔵子が橘を庇ったことで憎しみがふつふつと湧いてきたんだ」

智之さんは蔵子さんの方へ歩み寄る。


「私が庇ったことが原因で……? 」

笹野さんはすごく動揺している。


「笹野さん……は……何も悪くない……逆恨みだ」

僕はなんとか声を絞り出した。


「ぐわあ」

権蔵は弾き飛ばされた。


「さあ。雲母様そこをどいてください」


「私は前世の記憶などない! 」

笹野さんは僕をぎゅっと抱きしめた。


「蔵子……お前は傷つけたくないんだ」

笹野さんは僕の体をそっと地面に寝かせ、落ちていた刀、さくを拾った。


「蔵子……兄を傷つけることができるか?」


「私は雲母でも蔵子でもない笹野ありすだ!兄など存在しない」

笹野さんは朔を構えている。目からポロポロと涙が零れていた。


「お前ごと消すことになるぞ」


「権太くんを消すなら私も一緒に消して!」

笹野さんの叫びに智之さんはたじろいでいるようだ。


みんなは爆風で気を失っているし、権蔵も倒れている。完全に……万事休すだ。


ヤバい。意識が遠のいてきた……

僕は前世の記憶が頭の中に流れ込んできた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る