第30話 僕の知らない10年間…

カフェで如月きさらぎさんは先に待っていた。

「お待たせしました」

「大丈夫よ!今konstagramコンスタグラムをやってたから。それよりこないだのこと話してくれる? 」


僕は天沢智あまさわさとる蔵子くらこさんを苦しめていたやつだったこと……天沢智が空気刀改くうきがたなかいくうきがたなかいを盗み、僕は権蔵を憑依ひょういさせ戦ったこと、そしてまだ黒幕はいること、その黒幕は最強の異世界人ということなどを話した。


「まさか、あの天沢くんが……信じられないわ」

如月さんは目を見開いて驚いている。


「僕だって信じたくないですよ」

智と仲が良かったと思っていたのは僕だけみたいだ。


「空気刀改はどうしたの? 必要なんでしょ? 」


「今空気刀改は警察が預かっていて、青柳くんはもうひとつ試作品を作るから待ってて欲しいとTOINが来ました。大事な商品だから青柳くんの会社で儀式をして欲しいと」


小豆沢光あずさわひかりさんと天心祭てんしんさいマリアさんにも連絡しないとな。


「そういえばどうして連絡を桃井さん経由にしているの? 」

如月さんがケーキをひとくち食べながら言った。


「えーとあの……」

僕は言い淀んだ。


「大丈夫。どんな理由でも怒らないから」


「高梨先輩と桂が……如月さんとあんまり仲良くしていると……蔵子さんが身を引いてしまうからと」


大丈夫かな……こんな理由で……本当のことだしな……

まあ片岡あやめさんの件で蔵子さんに嫉妬させるのは良くないと身にしみて思ったけど……


「あははは」

如月さんは大笑いしている。


「なるほどね~。確かに蔵子は身を引くかもね。蔵子は昔から自分のことより他人のことを考える子だから。欲しいものを欲しいって言わないのね」


うーん。蔵子さんがもし欲しいものを欲しいって言ってくれていたらこんなに複雑な状況になってなかっただろうな。


「そういえば……たちばなさん。まことと蔵子と出会った話聞いてくれるって言ったわよね? 」


「え? あ、はい……そうですね」

あの時如月さんは酔っ払って泣いていたから覚えてないのかと思ってた。


蔵子さんの昔話には興味があるな。

「あれはアメリカの大学1年生の時ね……」

如月さんは昔のことを語りだした。


~アメリカの大学時代~

私はアメリカの大学に進学したの……。

初めての授業の時に隣にいたのが小豆沢蔵子だった。

髪をひとつに束ねてパンツスタイルで地味な服を着てすっぴんで高校の時の輝きはあまりなかったけどその整った顔立ちからすぐ蔵子だとわかったわ。


でもいつも頭が良くて可愛い蔵子をうらやんでたしそんなに高校時代仲がいいわけじゃないし、自分からは声はかけなかったわ。


中川海未なかがわうみちゃんじゃない?」

でも蔵子は私に声をかけてきたのよ。


「そうだけど……今は親が離婚して如月めぐになったの。もしかして小豆沢蔵子さん? 」


「私も訳あって今は笹野ささのありすになったんだ」

同じ日本人同士ということでいつも行動してたらだんだん仲良くなってきて、お互いの辛かったことを話し合えた。その時権蔵のことや橘さんのことなどを聞いたの。最初は信じられなかったけど『4の儀式』については有名だし、蔵子が冗談を言っている感じにも見えなかったから信じたわ。私達はもう親友になっていた。


ある日、食堂の机の端で向かい合って蔵子とお昼ご飯を食べていると隣に男子学生がふたり座ったの。

蔵子の隣に座った男子学生を見て、一目惚れしたの。黒髪で背が高くて賢そうで優しそうでかっこいい……まさに完璧な男性だった。


「もしかして君達も日本人ですか?」

私の隣にいた榎本春男えもとはるおが私に話しかけてきた。


偶然にも4人とも同じ学部で意気投合したの。


最初から誠は蔵子を熱烈な視線で見ていたわ。


誠はいつも紳士で蔵子が具合悪い時は必死に看病してた。

蔵子も今までのこととかも誠に話せるぐらい仲良くなったわ。また蔵子の初恋の人や権蔵の話を聞いても、やさしくアドバイスしてたわ。


そして私達は別々のところに就職したわ。春男は日本の一流ホテル、私は日本の大手製造メーカー、蔵子と誠はアメリカでコンサルティングの会社で働いていたわ。


春男は1度結婚したけど3か月で離婚したわ。

ある日、蔵子は柊愛長ひいらぎつぐなが(権蔵)との約束があるから日本に帰るため、転職を考えていたわ。

誠が蔵子を自分の親の会社にスカウトしたのね。

蔵子は自分だけ特別は嫌だって断ったの。そしたら誠が私達のこともスカウトしてきたの。

蔵子は誠の熱心な説得で納得して4人で働くことになったわ。

~回想 終わり~


「まだ言い足りないけど……これが私達の10年間よ」

如月さんがようやく語り終えたようだ。


ずっと今猿さんと10年間過ごしてきたんだな。蔵子さんは……。一緒にいた年月は僕の10倍だ。


「僕とは別の世界の人みたいだ……」

蔵子さんはある種異世界人じゃないかと思った。

本当の異世界人の権蔵の方がよく理解できるな。


「そう言えば、こないだ今猿さんから剣術の勝負をしたいって言われて勝負しましたよ」


「どっちが勝ったの……? 」

如月さんは興味津々だ。


「僕が勝ちましたよ」

僕は満面の笑みで言った。


「権蔵さんの力使ってでしょ? 」

如月さんがため息をつく。


「やっぱり分かりました? 」

僕は愛想笑いをした。


「誠は剣道は全米チャンピオンよ。そう簡単には勝てないわよ」


「ワシはめっちゃ強いんじゃな」


権蔵……自分で言うなって……!


「また何で僕と勝負したいなんて言ったんでしょうか?しかも権蔵の力を使ってもいいだなんて」


「たぶんね……権蔵さんを超えたかったんだと思う。橘さんも今回のことで分かったんじゃないかしら。蔵子には敵が多くてその恋人はさらに敵が多いってこと。蔵子を守れるのは俺だけだって思いたかったんじゃないかな」


確かに女性の嫉妬、男の嫉妬、ねたみ、独占欲など10人の話を聞いてきてたくさんあった。


「誠は日頃の恨みを晴らすためにポカスカ殴るようなことはしない人よ」

如月さん。それは違いますよ! 勝負の前にまだ権蔵が憑依してないのを見計らってポカスカ殴られましたよ!


とは言えず……


「今度は負けないように誠は鍛錬してると思うわ。蔵子を守れるように……だから橘さんもさらに強くならないと蔵子持っていかれちゃうわよ」


「僕も蔵子さんを守れるように強くなります!」

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