第25話 小栗沙耶部長

さとるは僕を心配しながら帰っていった。


「権蔵……聖川先輩について何か分かったか? 」


「うーむ。最初見た時にあのへんに強い悪意を感じたな」

権蔵は先程まで智と聖川先輩が飲んでいたテーブルを指さした。


「あとはご馳走がぎょうさん来たから、見とらんかった」

僕はお守りに念じた。

「ぎゃああ」


「権蔵の未練のためでもあるんだぞ! しっかりやれ! 」

「す、すまぬ」


~次の休み~

青柳くんの会社に行ってから小栗おぐり部長に会う約束をしていた。僕はいつも通り受付し社長室に向かった。


「青柳くん! 」

「今日はなんの用かな?たちばなくん」

青柳くんは優雅に椅子に座っていた。


「空気刀を1日だけ貸してもらえないでしょうか?」


「ああ、あの空気刀なら改善して金属も切れるようになったよ。何で貸して欲しいの?」

改善されてますますこの世で1番切れる刀になったな。こっちとしては好都合だ。


僕は青柳くんに権蔵の好きな人の魂を生まれ変わりから切り離すために必要だと説明した。


「そう言う理由ならお貸ししよう。た・だ・し厳重に管理してくれ。まだ未発表の商品だ」

よかった。貸してくれるようだ。


青柳くんがどこかに電話している。

「なに!? 盗まれただと……!? 」

えっなんか嫌な予感しかしないんだけど。


「すぐ探せ!悪用されたら大変だ」

青柳くんは電話を切ると頭を抱え込んだ。


「どうしたんですか? 」

僕は恐る恐る青柳くんに話しかけた。


「悪いが橘くんに貸せない……誰かに盗まれたようだ……」

やっぱり……悪い予感が当たったようだ。


しかし、この空気刀を借りないと分離術は出来ないぞ。


「権蔵、空気刀の場所分からないか? 」

「やってみよう! ふんぬ! 」

権蔵は何やら唱えている。


「うーむ。わからん」

わかんないだと……!?


「権蔵は最強守護霊だろ? なんで分からないんだ」

「今猿をひいたトラック、蔵子を脅迫したやつと同じで強い力が邪魔をするのじゃ」

ということは、僕が探しているやつが空気刀改空気刀改くうきがたなかいを盗んだということか。敵は最強の武器持ってるの……?


「青柳くん。空気刀改を盗んだやつは僕が探してるやつと同じです」

頭を抱えている青柳くんに僕が静かに言った。


「何だと! 頼む。そいつを探し出して、空気刀改を取り返してくれ」

「分かりました」

こっちには最強守護霊の権蔵がいるから大丈夫だろう。


~午後~

今日は強風だがなんとか歩いてようやくカフェに辿り着いた。


「たちちゃん!同窓会ぶりやな」

「小栗部長……来てくれてありがとうございます」

小栗部長はカフェで待っていた。


「たちちゃんが、あずちゃんのことを聞き回ってるらしいやん!真っ先に私に聞いてえや。あずちゃんが脅迫されたんやろ!私は決定的な場面を見たんや。あずちゃんの家に石を投げ込んだ人を見たんや」

なんか確信に迫ってきたな。それが原因で蔵子さんのお兄さんが家を出たんだろう。


「それでどんなやつでしたか? 」

「えーと……確かに見たんやけど……思い出せへん。髪の毛は短かった中ぐらいの人ということぐらいしか思い出せへん」


えー。ここまで来て思い出せないなんて……行き詰まりだ。何でこんな大事おおごとがなかったことになってるんだろう?


「そや。学校に行ってみたらどうや?たちちゃん自体も何か思い出せるかもしれんで。あずちゃんは楽器のセンスもあるやさしい可愛い後輩やと思ってたでー」

小栗部長は僕が質問する前に答える。

やはり学校にまた行かないとダメなのか……


「そうですね。ありがとうございます。こないだ同窓会に来てた外人の彼氏さんとはどうですか? 」

僕は何となく気になっていたことを質問した。


「ああ。もう別れたわ」

小栗部長はニコニコとしながら言った。


「ええー! なんでですか? 」

あんなに仲良さそうだったのに……


「なんとなく好みとちゃうかったでな」

なんとなくで付き合って別れちゃうんですか!?


「小栗部長の好みってどんなのですか? 」


「真面目で頭が良くてみんなにやさしい人やな」

「それって聖川先輩みたいな人ですか?」

まあ……先週聖川先輩の話を聞くまでは僕は聖川先輩のことは真面目で頭が良くて、みんなにやさしいと思ってた。


今は真面目で頭が良くて、僕以外にやさしいと思っている。


「何で聖川くんが出てくんねん」

小栗部長は顔を真っ赤にしている。


「小栗部長……聖川先輩のこと好きでしょ?」


「好きちゃうがな……!」


「聖川先輩みたいな人を探していろんな人とつきあってたけどダメだったんでしょ?」


小栗部長が真っ赤になる。


「そうや。私は聖川くんが好きやった。今も好きや! 」

小栗部長がついに認めた。


「でも…聖川くんはあずちゃんがずっと好きやから」

僕と蔵子さんは知らないうちに他人の人生の歯車を狂わせていたんだな。


「今はもう諦めたらしいですよ。聖川先輩にアプローチしたらどうですか? 」


「えっ! そうなん。いや…でもあずちゃんみたいにはなれんし」


「小栗部長は小栗部長の良さがあるから大丈夫ですよ。 それに前好きだったタイプと同じタイプにいくとは限りませんし」

「そうやろか! 」

小栗部長は喜んでいる。


「頑張ってください」

僕は小栗部長を、全力で応援した。これで聖川先輩に恨まれることもないと願いたい。

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