第5話 やっと言えた…。

ああ、やはり無理だ……

権蔵には悪いけどこれ以上蔵子さんを不幸になんて出来ない……

もう蔵子さんのことは諦めよう……

これ以上執着しちゃいけないんだ。


「権蔵。僕は蔵子さんのことはもう諦めるよ」

僕はなるべくにこやかに言ったつもりだった。


「あっ……あぁ。そうじゃな。権太が決めたなら構わないぞ」

権蔵の反応はいつもと違うものだった。


「どうしたんだよ? 権蔵!いつもなら『諦めるな』って駄々をこねるのに」

僕は権蔵を見ながら言った。


「だって泣いておるではないか…そこまで決心してるやつに何も言えんよ」

権蔵は珍しく遠慮がちに言う。


「でも僕も後悔はしたくない……自分の想いだけぶつけて……振られたらもう二度と会わない……まあ振られるに決まってるけど」

僕は自分では我慢しているつもりだが、涙が止まらないようだ。


「当たって砕けてこい! 」

権蔵が僕の背中を叩く、なぜか今日は痛かった。


僕は蔵子さんのTOINにメッセージを送った。


TOIN 権太

『大事なお話があります。今から会えませんか? 』

僕がTOINを送ると、すぐ既読になった。


TOIN 蔵子さん

『分かりました。今猿コンサルティングの方に来てもらえないでしょうか? 』

蔵子さんは意外とすんなりOKしてくれた。


僕はいつものように、今猿コンサルティングに向かった。

今猿コンサルティングには誰もおらず、蔵子さんだけがいた。

「蔵子さん1人だけですか? 」

僕はキョロキョロと見渡した。


「皆さん帰られましたよ。」

蔵子さんはにこやかに言った。


「そうですか……なんで僕と会ってくれたんですか? 」

僕は蔵子さんの目を見ながら言った。


「んーなんででしょうね? 自分でもわかりませんが……橘さんがいると楽しくなるからかな。面白いお話も聞けますし」

蔵子さんがエンジェルスマイルで答えてくれた。


僕と一緒にいると楽しい?! 少しばかり期待してしまうじゃないか……

僕は意を決して壁際にいる蔵子さんに両手で壁ドンした。


「出た! これが少女マンガで見た『壁ドン』じゃな! 頭ポンポンからのアゴクイもするかのう」

権蔵がはやし立てる。


僕は権蔵に向かって壁ドン……いや睨みつけて両手で壁ゴンッ! した。

「す、すみません」

権蔵が怯えて丁寧語になっている。


僕がお守りを使わず、権蔵を静かにさせたのは初めてかもしれない。


「あの~今一瞬誰か人がいたような気がするんですが……」

蔵子さんが僕を不思議そうな顔で見る。


まさか。蔵子さんはまた権蔵が見えるようになったのか?


「今は見えますか? 」

僕は期待混じりに蔵子さんに尋ねた。


「いいえ。誰もいません」

蔵子さんがまっすぐした目で僕を見る。


「ここに権蔵という守護霊がいるんです!こいつは元々僕らが通っていたひいらぎ高校の守護霊で全然怖くないやつでお人好しな野郎で騙されたり人助けするためにチート能力使ったり、口は悪いけどでも悪いことは絶対に加担しないやつなんです」

僕は静かに言った。


「お人好しとはなんじゃ!! 」

権蔵がむくれているが放っておいた。


「こいつがなぜ僕のそばに居るかわかりますか? 」

僕は蔵子さんの目をそらさずに言った。


「申し訳ないです。わからないです」

蔵子さんは申し訳なさそうに言った。


「蔵子さんが願ったからですよ。自己犠牲してまで僕を守り、僕を想ってくれたその気持ちがこいつの心を動かしたんですよ」

僕は蔵子さんをじっと見ながら言った。


「わ、私がそんなことを……?」

蔵子さんが動揺した。


「その想いはただ辛いだけのものでしたか?楽しい思い出も思い出したくないのですか?辛いことや僕のことは忘れていていいから、その想いだけでも思い出してみませんか……? 」

僕は真剣に言った。


「……」

蔵子さんは何も言わないが、かなり動揺しているようだ。


「僕は蔵子さんに再会するまで、蔵子さんのことは記憶にありませんでした。今の蔵子さんと同じように高校時代の蔵子さんが忘るの儀式で僕の記憶を消して僕とまた再会することを望んだんです」

僕は蔵子さんの目を逸らさない。


「僕は例え記憶を失っても、蔵子さんを想い続けてました。誰よりも……権蔵は未練が強い方に来たそうです。高校時代……初めて会った時から好きなんです! 蔵子さんが……そして再会して変わってしまった笹野ありすも怒られたり睨まれたりしたけど、本質は蔵子さんと何も変わらない笹野ありすも僕は好きなんです。もう離れたくないんです! 」


僕は15年越しにやっと……67話かかってやっと……

すれ違ったり意地を張ったりしたけど……蔵子さんに好きだと言えた。


「もしこれでダメなら、もう二度と蔵子さんとは会いません。蔵子さんのことは諦めますから安心してください」

僕は蔵子さんの顔を見ずにその場を去ろうとした。


諦める決心はしたが、やはり蔵子さん本人に直接フラれるのは怖いのだ


「待て! 自分の言いたいことだけ言って行くな! 」

蔵子さんが後ろから僕の腕を掴む。


蔵子さん……記憶が戻ったのか?!


「ハッ!私は何を言ってるのでしょうか?どうしてこんなに温かくて切ない気持ちになるのでしょうか?どうしてだか知りたいです」

そう言って蔵子さんは涙をぼろぼろと流す


僕は黙って蔵子さんを抱きしめた。

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