第8話 消えない傷跡

「ッ! オエェェェェ!」


「…………なんて威力――伝説の重力魔法、なのでしょうか」


 ルナの魔法の範囲以内にあった家の一部を含めて、神具で武装した盗賊達はグチャグチャに潰れていた。

 発動した瞬間を見た限り、一瞬で上空から凄まじい圧力がかかったようで、抵抗することも倒れることもなく立ったまま骨を砕きながら潰れていったように見えた。


正直目の前で見ていいものではなかった。軽くトラウマになりそうです。


 ちなみに俺の近くで戦闘に参加していた成年がその光景を見たらしくリバースしていた。きっと消えない傷を心に負ったことだろう。


 魔法の効果範囲は直径六メートルってところか。範囲内は盗賊達の血で覆われていたが、範囲外には一切の影響がない。

 地面が十センチほど沈んでいるが、恐らく地面側からも上空に向け多少の重力がかかったのだろう。そうでなくては死体が地面にめり込んでいたはずだ。


「(なんつー威力だよ、ルナ)」

「(あの子の魔力全部使ってギリギリだったわ。でもこれでも中級程度の魔法よ)」


 これで中級ってルナの魔法はオーバーキル過ぎるんじゃないか? 人間相手だからか?


「(万が一、初級魔法で倒せなかった時は魔力が尽きてしまうと思ったの。だから今使える最大のものを使ったの。人間相手にはちょっと強すぎだったみたいだけど)」


 中級魔法がミサさんと俺の魔力でギリギリ使えたってことか? これならもう少しレベル上がったら最強じゃね?


「(そんなに簡単じゃないわよ? 今回は結構無理して使っているからね? それにダンジョン内じゃ崩落するから使えないし)」

「(そんな問題もあるのか。って重力魔法はダンジョンでは絶対使用禁止だからな!)」


 崩落死ってどんだけだよ。あ、そういえば神具はどうなったんだ?

 気持ち悪いが盗賊達の残骸に向かうと形を保った物が数点、あとは肉か金属か分からない物ばかりだった。


「(神具はさすがに壊れなかったか)」

「(当然ね。この程度で壊れるならここまで神具が広がることはなかったわ)」


 それもそうか。壊れないからこそ転生者が死んだあとも残ったのだろうし。とりあえず神様に送ればいいのかね。


「――いくつか武器が残っているみたいですね」


 そんなこと考えているとミオさんを含め数人の村人が寄ってきた。

 あ、戦利品になるならこの人たちと分けるのか? とりあえずパッと見七個ぐらいありそうだけど。


「はい。えっとこれはどうしたらいいんでしょうかね」


 分けるのか、それとも村の物になるのか。全部取られるのは流石に嫌だな。俺が倒したって主張してみるか?


「全部差し上げます。その変わり、と言ったら失礼ですね。――精霊様がいらっしゃいますよね? 私たちにも会わせてもらえますか?」


 ルナの存在バレてる! って俺があんな魔法使えるわけないってか。俺自身が一番驚いたしな。


「(ルナどうする?)」

「(――仕方ないかな)」


 ルナは俺から離れ皆の前に飛び立つとその姿を見せた。ま、俺からは何も変らないけど、周りの人が驚いているからそうだろう。


「私が精霊神ルナよ。何用かしら?」


 ルナの声を聞いた瞬間周りにいた村人達は揃って地面に膝を付き頭を下げた。


「――私はこの村の長をしております、ミオ・エフィードと申します。此度はご尊顔賜われ「御託はいいわ。何のよう?」ッ」


 ミオさんは頭を下げたままビクっとなっており、ルナを叱るかと思ったが今はちゃちゃを入れていい場面じゃないようだ。


「今回の襲撃にてこの村の結界が綻びました。襲撃者を倒して頂いた上にこのようなお願いをするのは恐縮なのですが、どうか結界の再構築を行って頂けないでしょうか。どうかご慈悲を」


 恐らく村人全員なのだろうが、三十人程度が全員平伏していた。

 ルナってもしかしなくてもすごく偉い子!? 精霊神ってマジで精霊の神ってこと?


「(ルナルナ、俺も土下座した方がいいのかな?)」


「ぶッ、んん、こほん。――分かりました。こちらに精霊を遣わせましょう。しかし、対価は頂きます。彼に幾らかの路銀を、それとあちら

の武具は全て頂きます」

「ありがとうございます。すぐにご用意致します」


 ミオさんが目線で合図を送るとミサさんと男性が二人その場を離れ男達は盗賊の死体から神具を取り出し、布で血肉を拭き取り、綺麗な布で包んでくれた。

 そしてそれらの作業が終わる頃、一抱えありそうな袋を持ったミサさんが戻って来て、ミオさんの傍に跪き無言で袋を俺に差し出してきた。


「あ、ありがとうございます。……何か大量に硬貨? が入ってますけど。え? これ金貨?」


袋の中には恐らく銅貨が凄く沢山、銀貨がちょっと、金貨が一番上に一枚入っていた。


「この村にあるのはそれで全てです。どうかご理解ください」


え、村の財産全部差し出す気ですか? 流石にそれはもらえないだろ!?

ルナを見ると少し疲れた顔をしていた。 

精霊神として威厳を示す必要があるってことなのか。俺が断らないといけないよな。


「流石にこれはもらえませんよ。怪我も治してもらったんですし」

「いえ、貰って頂けないと困ります。それに怪我の治療は私ではなく精霊神様が行ったものでしょう。私にあのようなことができるはずがありません」


 えー、何かすげぇ他人行儀になってるけど、俺もルナの関係者扱いか。ルナを見るが首を横に振るだけだった。

 ルナの機嫌を損ねるワケにいかないって思ってるんだろうな。結界直してもらわないといけないし。

というか俺たちのせいで盗賊が来て結界が破壊されたのに金までせびるのは申し訳なさが半端ない。

 ルナはこの世界で神的扱いなら貢物扱いなのか?


 そんなことを考えていると神具を集めてくれていた村人達が戻って来て布に包まれた神具を差し出してきた。


「ありがとうございます。んー、とりあえず俺たちは次の街までの路銀があればいいので、次の街に行くのに必要な分をください。それ以上を渡すのは逆に荷物が増えますし、迷惑な行為ですからね?」


 俺の言葉に眉を曲げてミオさんが渋々袋から金貨を一枚と銀貨を十数枚取り出して小さな巾着袋に入れ直して渡してくれた。

 価値が分からないけど、ミオさんが入れているから次の街までは余裕で行けるぐらいはあるだろう。

 ルナを見ると軽く頷いてくれた。


「それでは私たちは行きます。この地の小精霊には伝えているので、今日中にも結界は修復されるでしょう」

「ありがとうございます」


 ルナは言うべきことは言った、さっさとここを離れるわよ。っと目で訴えてくる。


「ミオさんミサさん。お世話になりました。あと、村に被害が出てしまってすみませんでした。いずれお礼とお詫びに伺います」

「お気になさらずに。道中、お気を付けてください」


「こちらもお持ちください。少しですが、食べ物と水をお入れしております」

「ありがとうございます」


 ミサさんが小さいバックをくれたのでありがたく頂くことにする。ミオさん達に頭を下げ、俺とルナは村を出た。



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