第22話「共に戦える強さ」


優の前に現れ、救ったのは、身体中傷と血だらけの戒だった。


「戒……なんで……」


愕然とその場に竦み、戒を見上げる優。


「お前に……っ!謝りに来たっ」


そう言う戒の腕を、大剣使いはみるみる削っていく。能力によって強化されているとはいえ、所詮は腕。大男が持つ大剣2本をずっと抑えている程の力はなかった。


それを見兼ねた相原は、他のメンバーに叫ぶ。


「お前ら!大剣使いを食い止めるぞ!」


それでも、大剣使いの凄まじい戦闘力を目の当たりにした他のメンバーたちは動かない。


「このままじゃ全員死ぬぞ!」


「……そ、そうだ」

「俺たちで時間を稼ごう!」


トドメを優たちに任せ、自分たちは時間稼ぐだけでいい。そう思うと、彼らにも僅かに闘志が湧いたようだ。


「いくぞっ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


叫ぶことで、怯えを搔き消し、相原を筆頭に大剣使いに突撃する。

大剣使いは、もう一度大剣を大きく振りかざして戒を怯ませた後、颯爽と彼らへと刃を向けた。


相原を含むメンバーは戦っている。人数もあってか、すぐに全滅という気配はない。

だが、そう長くも保たないだろう。


戒は、今にも崩れそうな足でなんとか身体を支え、優を振り返る。


「神夢囲一馬って奴に聴いた。お前は舞友実を守る為に戦ってくれたんだな」


「戒……でも俺は……救えなかった」


優がそう零した刹那、戒は流れるように倒れ込み優を抱く。


「それでもいいんだ……今まで……悪かった」



「戒……ありがとう」


優の顔には、自然と笑みが零れた。

だが、戒の身体はもう限界だった。

一馬から逃げ、ここまで辿り着くまでに、生命のほとんどを使い果たしてしまったらしく、今にも生き絶えそうな程に。


「おい……戒……お前まで死ぬなよ……」


血だらけになった自分の手を見つめ、涙ぐんで言う。


「……」


「おい!」


戒の目が完全に閉じようとした、その時。


そこへ、なんとか起き上がることのできた彩乃が合流する。横腹を抑えながらも、死ぬ物狂いでこちらへ走って来た。


「優……さん、私の、能力で……」


「!?そ、そうだ、頼む色季さん!」




そう、彩乃の能力は再生。


記憶を残したまま身体の時間を巻き戻し、傷を無かったことにできる能力。

横たわった戒に能力を発動させる彩乃。

能力を使えば体力を消耗する。先程かなりのダメージを負った彩乃には、この治療はかなりの負担を身体に与えている。

それでも、能力を使い続ける彩乃。


「……っ!」




能力の回路が途切れたその瞬間、戒が目を覚ました。傷も全て癒えている。


「……優……」


「戒……」


探り探りに上半身を起こした戒に、優は満面の笑みで戒に手を伸ばす。

戒はその手を、優にも負けない笑顔で掴んだ。


「今はあいつを倒す。手伝ってくれるか?」

「当たり前だ、優」



「よかったです……戒さん」


力を使い果たした彩乃が、2人に微笑む。

戒と優もそれに応える。


「ありがとう、彩乃ちゃん」


「色季さん、本当にありがとう。少し休んでて」


優の言葉に、彩乃は静かに頷いた。



「さて……」


奇跡的に、相原を含む他のメンバーは生きているようだ。今度はこちらが助ける番だ。


「選手交代だっ!本気の俺に敵うと思うなよ〜?」

「ああ」


そう言いながら並び立つ2人。優はゆっくりと舞友実から託された刀、空界を鞘から引き抜く。左手には夜那。右手には空界。


「あっ、あいつ、蒼黒じゃないか!?」

「あの刀……!」


手を休めていた他のメンバーが優の刀を見て言い放った。大剣使いの攻撃を抑えていた相原も、優の2本の刀を見て驚く。


「優君……蒼黒だったの!?」



優は彼らを気にせず、息を大きく吸い込み、吐く。

彩乃が後ろで見守る中、力強く叫んだ。


「いくぞ戒っ!」

「おうっ!」


地面を蹴り、神速の如く速さで大剣使いに接近する2人。


「相原さん!みんな!下がって!」


相原や、他のメンバーは、優の言葉に反応してその場から距離を取る。



「ハッ、次はテメェらか!!」


狩るべき者を逃した2本の大剣が、優と戒目掛けて連続で振り下ろされる。

左手の大剣を優が夜那で地面へ流す。大剣は地割れを起こして、地に突き刺さる。


右手の大剣を、戒が腰を大きく捻ることにより生み出された反動で繰り出される、渾身の右手突きで吹き飛ばす。


「ばっ、バカなっ!?」


2本の大剣を封じられ、攻撃手段を完全に失った大剣使いの表情が遂に歪む。

素早く大剣使いの間合いに潜り込んだ優は、空界を振りかぶり、縦に一直線に斬りつけた。見事に命中し、大剣使いの胸部から腹部にかけてを鋭く抉る。


「ぐはぁっ!」


大剣使いの悲鳴に、優は休むことなく、中段に構えた夜那を大剣使いへと斬りつけ、空界も使った連続斬りへと繋いでいく。


「はぁぁぁぁああ!!」


次々と繰り出される強力な連撃に、大剣使いはただ優を見下ろすことしかできなかった。



優による14撃に及ぶ二刀流攻撃が止んだ後、しゃがみこんだ優を踏み台に、大剣使いの顔面付近まで飛んだ戒は、能力を一点集中させた強烈な右手のパンチを、大剣使いに叩きつけた。


「おぉりゃぁああああ!!!」


ドゴォォン!と、大きな音を立てて、大剣使いは後方へ一瞬にして吹き飛ぶ。

地面を激しく抉り砂埃を立てた後、林に激突し完全に戦意を喪失した。




それを見た相原たちは、一斉に歓声を上げた。


「おおおおおおおおおおお!!」

「やったぁっ!」


戒は優へと振り返り、笑顔でピースをして見せた。

優もそれに微笑む。


体力を使い果たし座り込んでいた彩乃も、向き合う優と戒を見て笑った。




向こうの原っぱから、後衛チームが帰って来ているのが見える。人数が何人か欠けていたが、無事刹那の弾丸に勝ったのだろう。


仲間を失った悲しみを抱きながらも、戦いに勝利した喜びで安堵に包まれていた皆を、再び絶望に落とした。


林に倒れ伏していた大剣使いが再び動き出したのだ。


相原は驚愕する。


「あれだけ喰らって……まだ動けるのか……?」


血だらけで立ち上がった大剣使いが、小さく呟く。

「能力発動……」



「まさか……痛みを感じない能力!?」

「死ぬまで戦い続ける能力ってか……」


他のメンバーがそう言った時にはもう、大剣使いは戒の背後を捉えていた。最悪なことに、優と戒はたった今大剣使いの復活と、接近に気付いたのだ。

「!?っ、戒っ!!」

「えっ?」


戒を押し飛ばし、攻撃を回避させた優。

しかし、真っ赤な血しぶきが倒れた戒の額に飛ぶ。



優の心臓を、巨大な大剣が貫いていた。



「ゆ、優さん!!」


彩乃の叫びが響いた。


「!?優!?て、テメェッ!」


大剣使いに攻撃を畳み掛ける戒。大剣が身体から引き抜かれた衝撃で、優は地面に倒れる。

血がみるみる広がっていく。

傷口も有り得ない程深い。


動かない身体を引きずって優の元へ駆け付けた彩乃。だが、今の彩乃に能力を使用できる程の力は残っていなかった……



「優君……?優君……優君!優君!!!優君!!!」


ーENDー

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