第8話

 赤ちゃん返り(?)をした夫ではありますが、ひとつだけ変わらないことがあります。


それは、【仕事を休まない】と言うこと。


なんだかんだ言っても生きていくのに必要なものの第1位はお金です。

贅沢するほどの経済力が必要なわけではありません。毎月、しっかりと生活が出来るくらいのお金でもいいのです。その生活費を毎月稼いでくれているのは夫だけです。


 となると、やはりいくら赤ちゃん返りしていても笑美は耐えねばならないわけですよ。


文句は山ほどある!


でももしかしたら夫の方にも笑美に対しての文句は山ほどあるかもしれないのです。その文句をどちらも言わないのはなぜなのかと笑美は考えました。


 夫が文句を言わない理由として考えらえることは・・・


おそらく、文句はあるが自分の生活に支障をきたしているわけではないのでわざわざ言うほどの事でもないと思っているのかもしれません。


 では逆に笑美が文句を言わない理由は・・・


単に面倒なのです(笑)


赤ちゃんは自分の気持ちが相手に伝わらなかった時、まだ話が出来ませんから泣いて訴えますよね?笑美の夫はそれに似ています。話が出来ないわけではありませんが、言葉を相手に伝える能力が少し弱いのです。


普段の会話はなんてことないのですが、改めて何かを伝えようとするとモゴモゴしてしまい、相手は何を言っているか分からなくて聞き返しますよね?夫はもう一度言おうとしますがやはり口ごもってしまいます。


さすがにもう一度聞くと、夫はもう何も言わなくなってしまうのです。伝わっていないから何度だって聞く笑美に対し、夫は何度も同じことを言わせるな的にキレてしまうわけです。本人はちゃんと言っているつもりなのかもしれませんね。


 そしてさらに厄介なのは笑美が文句を言った場合です。


実はこんな面倒臭がりの笑美でも結婚当初は夫の行動や言動に対しておかしいと感じれば文句と言うか指摘と言うか忠告と言うか・・・とにかく「それはおかしい」と声に出して伝えていました。


しかしプロ級の頑固さとプライドの高さから素直に「そうか。おかしいか。これから気を付ける」という考えにはたどり着かないのが夫です。


なので指摘を受けると途端に不機嫌になります(文句を言う妻が悪い!とでも思っているのでしょうね)。


ならば笑美に対して文句を言い返せばいいことなのですが、夫は笑美に当たらず子供に当たるという難点があること。


いわゆる【弱い者いじめ】ってやつですよ。


別に笑美が強いから当たれないというわけではないと思うのですが、笑美は夫に比べて口が立つのです。つまり口では笑美に勝てないのが分かっているので、子供に当たるのです。


 笑美はこの幼稚な行動が許せません。なので、いつだって文句は言えずに耐えるしかないのです。笑美にとって何より大切なのは子供なので。


 当然、そんなことが続けば笑美は夫に対し何も言わなくなります。何も言わなければ子供が被害に遭うことはないのですから。笑美は子供のためなら我慢が出来てしまう性格なのです。こうして笑美が文句を言わない生活が出来上がっていったのです。


 しかし、月日は流れ子供はすくすくと成長し、義務教育も卒業した頃くらいから笑美の環境が少しずつ変わりました。それは、


【笑美に味方が出来たこと】


です。


子供はいつでも親を見ています。

そして、幼い頃には気付かなかった色々なことにも気付き始めます。両親の仲がどのようなものなのかと言うことだって理解してきます。


今までは【笑美 対 夫】だったり、【笑美 対 子供】だったりした対応が時には【笑美・子供 対 夫】になることも出て来たのです。


2対1とか卑怯かしら?


いえいえ、これまでの我慢歴史を考えたら卑怯とは言わないと思いますよ。


 この子供の参戦(?)が笑美にとってはまさに救世主現る!ってくらいの大きな変化だったのです。


笑美が今まで我慢し続けてきたことに対して、子供の視点から見てもおかしいと感じることは「お父さん?それっておかしいよ!」と伝えてくれるようになったのです。


もちろん誰に言われてもプロ級の頑固は健在で素直には認めませんが、それでも今までだったら同じことを笑美に言われて不機嫌になった時に当たっていた子供から言われてしまったのだから、次はどこにも当たる場所がない。


しかも子供って意外と冷酷で、言い方も笑美が言うよりキツイのですよ(笑)

 夫は子供に指摘されると黙り込んでしまいます。逆ギレして子供に喧嘩を吹っ掛けることはさすがにしません。つまり、はけ口がない状態です。


子供の成長万歳!

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