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 香織たちは集合の時間の五分前に駐車場に戻ったが、すでに佐久間と美沙がベンツの脇で立っていた。


「二人で何してたの?」香織は聞いた。

「そこの自販機で飲み物買おうとした。でも、ほとんど売り切れ。「二人はうまくいくかな」とか、話してたよ」佐久間が言った。

「まあ、どうっスかね」賢治はへらへらとしながら呟いた。

「あーあ。セッティングしてあげたのに、報告しないってどういうつもりなのかしら」美沙が茶化すように言った。

「乞うご期待ってとこかな」香織は笑いながら賢治の方を向き、言った。


 二人は歓声を上げたが、賢治は所在なさそうに頷いた。

 集合してしばらくすると鰤谷が車の窓を開けた。

「星、見えた?」

「まだです」香織が答える。

「見えたら起こしてよ」

 鰤谷は呟いた後に、窓を閉め、シートを深く倒して横になった。完全に寝るつもりだ。運転手には万全な体調でいてもらいたいので、誰も咎めなかった。


「来る途中に自動販売機が見えたよね?」美沙が香織に確認をとるように言った。

「ああ、あのチェーンの着脱所ね。でも、少し遠いよ?」

 記憶が正しければ、何キロかは、下らなければならないと思い、香織は少し億劫になった。

「俺が行ってきます」賢治が手を挙げて言った。

 

 香織はあれだけ泣いた後でも存外に元気な賢治を見て、安心した。


「ケンちゃん一人じゃ持てないだろうから、佐久間君も一緒にね」美沙がそう言うと佐久間はぶつぶつと文句をいいながらのろのろと賢治の後についていった。



「そうだったの」

 賢治との話をすると、美沙が両手を口にあて、驚いたような口調で言った。


「賢治君は本当にいい子だよ」

「そうね。気まずい感じでもなかったし、すっきりしたのかな」

「そうだといいね」

「私たちはほとんどケンちゃんの話とか他愛もない話しかしなかったな。私、佐久間君みたいな人は苦手だし」


 美沙は少しうつむき、「内緒だよ?」と呟いた。

「佐久間は話さなかったの?」

「ほとんど話さなかったよ。酔っ払ってトイレ借りた時も私は誰の家かもわからないような状態だったし、共通の話題はなし。ただ、あの朝はお礼したり出来なかったから、今度何か買ってお礼に伺いますと伝えたくらいかな」

「なんかごめんね、そこまで苦手だとは思ってなかったから」

「ううん。私こそごめんね。佐久間君と話したかったでしょう?」

「いいの。お互いにそういう気を遣うと遺恨いこんが残りかねないでしょ?私たちの場合は」

「恵一のことは、引け目を感じたことはないよ。だって、私の方が好きだもの」美沙はしたり顔で言った。そして綺麗なサムズアップを見せた。


「確かに、大村には悪いことしたなと反省している」

「本当は、せっかくだからそういう話をしようと思って、二人を行かせたのだよ、ワトソン君」

 

 美沙は突き立てた親指を咥えて、パイプをふかすジェスチャーをした。この類のジェスチャーに美沙の機転が感じられるなと香織は思った。


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