英雄を諦めた青年の成長物語

第六章まで読んでのレビューになります。

元の世界同様、それ以上のシビアな現実が横たわる異世界で理想と夢に破れた青年が、厳しい現実に翻弄され、仲間や大事な人々に支えられながら精一杯世界を生きようとする成長物語。

物語の殆どの部分が主人公アデルの独白で綴られる。派手さはないが、丁寧にアデルの心情を描写していて読みやすい。

主人公目線のみで物語を描いているため、主人公が関知しない他者の感情や、主人公が関心を持たないことについてはほぼ描写がない。その分想像の余地があると言える。ヒロイン視点で描かれたスピンオフ作品や読者の想像力で補いながら読んでいただきたい。

また、主人公は卑屈な程に自己評価が低く、人間不信の傾向が強い。これはアデル自身今までの人生経験から来るもの。彼の過去を知った上で読み返せば、また違った彼の魅力が見えてくる……かもしれない。

主人公が抑制的な性格をしていて、その彼の視点で語られる物語なので、終始淡々と進んでいく。展開も早く、余分な表現も無いのでコテコテのテンプレに食傷気味な読者に最適。

一読の価値は十分にある。


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