第9話脱出

 俺はあれから『ここの閉鎖された空間から抜け出る』という目的を達成すべく、毎日のように魔力を使い切って、魔力を伸ばし、筋トレを行ってフィジカルも強くなろうと決心し、ひたすら修行の日々だった。戦いはしないが、ひたすら孤独であった。また、魔力を使い切る理由であるが、力と付くのだから毎日限界まで追い込んで鍛えれば現時点でもさらに伸びると考えたためだ。

 その期間は時間にして六ヶ月ぐらいだろうか。生活が苦しいため、もはや正確には分からない。

この期間に病気には一切かからなかったが、女神の試練を超えた影響が効いているのだろう。


 振り返ってみれば、特に異世界に来て厳しかったのは孤独であるが、 何よりも辛かったのは生活の食事内容、あの激マズわかめである。味を表現するなら胃液のような酸っぱさに、噛めば噛むほど凄まじく不味い液体が染み出てくる。味は例えるなんてレベルではない。とにかくこの世のすべての苦味酸味を凝縮したような絶望的な味であった。

 雑草の匂いの方がまだましであろう。しかし、背に腹は変えられず、六ヶ月これを食べ続けた。

 こうなってくると、もう雑草を食べても美味しいと感じるだろうな。生えてる限り食べたが、もうこのわかめは見たくない。


「あぁぁ、やっと食べ終わった……」


 池の中に生えだしていた海藻の最後の一本を食べ終えた後、ストレスを全て解消したような開放感がある。下手すれば女神の試練よりきつかったかもしれない。


 おおよそ転生して六ヶ月経過した今のステータスはこのような感じになっている。



 ―――――――――――――――――――――――――――

 ステータス


 名前 波風 夕 レベル1


 年齢 17


 性別 男


 HP(体力) 300


 MP (魔力)2800


 ATK(攻撃力) 114


 DEF (守備力)60


 DEX(器用さ) 90


 AGI(敏捷性) 90


 INT(知力) 50


 LUK(運)20


 ―――――――――――――――――――――――――――


 全体的に上がったはずだ。筋トレとは別に超不味いわかめをあるだけ食べ尽くしたので、攻撃力は二倍以上となっている。生前喧嘩は一度や二度ぐらい経験したが、殺し合いとなると一度も経験したことがないので、戦ったことの無い俺が本当に強くなったのかは真実味に欠ける。


 魔力量は後少しで魔法創造スペルクリエイトが出来るほどに成長した。予測したとおり訓練により魔力は伸ばすことができたのだ。無駄になってないようで一安心だ。


 また、物質創造の技量もあがり、量の増減、大きさの制御や、形の変更ができるようになった。いま作ることが可能なのが、辺りに生えだしている尖った鍾乳石だ。


 この物質創造が上達したおかげで鍾乳石の加工のしやすさを活かしてコップを作ったり生活用品を創ることが可能になった。ここ二週間ぐらい前のことである。きっと物質創造マテリアルクリエイトのレベルが上がったのであろう。


 それにしても、我ながら器用になったとしみじみ思う。

 この世界には魔物、幻獣といった人間に襲いかかる化物がいる(らしい)ので、対応策として俺は日々イメージトレーニングを行っている。

魔物への攻撃手段に関してだが、近距離では我流の格闘、遠距離では大量の鍾乳石を空中に作り出して、落とすという、面での攻撃を予定としている。

 戦うとしても遠距離で終わって欲しいところだ。



 最後の激マズわかめを食べ終え、できる限りの努力はした。遂にこの閉鎖された空間から出ることを決める。


「あぁ、なんか感慨深いな。ついにここから出るのか。転生したのが凄く昔みたいだ」


 転生生活約六ヶ月だが、ここの生活はなかなか苦しいものの、面白いことばかりだった。食事は凄く苦痛だったが、魔法を使えることが何より楽しかった。魔法が無く、わかめだけの生活だったら俺はもう精神が狂っていてもおかしくはないだろう。


 期待と不安に駆られながらも、これまで創ったものは地面に穴をほり、埋めた。外に持っていけないとはいえ、生活してきた物を壊すのはいささか気が進まないからだ。


 魔法創造スペルクリエイトができるようになったら、なんでも入るカバンなどを創ってみたいものだ。


(さぁ準備は終わった。ついに外にでるぞ……!)


 先程までゆっくり眠っていたので魔力は十分である。

 それに、もし魔力が尽きても鍾乳石を素材として作った水筒がある。その中に魔力を回復させる湖の水が詰めてあるので、いざという時にも安心だ。

 この水筒は鈍器としても利用できるので手で持っておく。


 体調も、装備も、気分もなにもかもが今の出来る限りの最高の状態だ。この機会を逃す訳にはいかない。


 俺は手を洞窟の壁に向ける。


「『物質創造マテリアルクリエイトト』!」


 イメージしたのは先端が尖った大量の鍾乳石。それをすべて壁にぶつける。


 大量の鍾乳石が壁に次々にぶつかる。

 どこか心地の良い爆音はまるでこの空間からの脱出を祝っているようだ。


「さーて?異世界ルミナよ………楽しませてくれよ?」


 砂煙を腕で振り払い、俺は嬉々として足を進める。

 慌てず、ゆっくりと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る