第7話


 人間の後ろに太陽が輝いていて影しか見えなかったが、変わった頭の形をした人間だった。


 頭にいくつものツノが生えているような形をしていた。


 その凶暴なシルエットの割にはその人間は全然怖くなかった。


 あの人間が琉海の絡まった糸を解いてくれたように思えた。


 姉たちが言うように全ての人間が人魚にひどいことをするのではないんじゃないだろうか?


 でももしかしたらあの人間も、琉海がすぐに海に逃げなかったらひどいことをしたのだろうか?


 怖い頭の形をしていたから、もしかしたら。


 でもどうしてもそうは思えなかった。


 せっかくなら、陸の王子はあの時の人間みたいだったらいいな。


 琉海は何気にそんなことを思った。


 それでもそのことがあっても琉海は釣り場に近づくことを止めなかった。


 それほど琉海にとって人間の食べ物は魅力的だった。


 ただ琉海は前よりもずっと用心して泳ぐようになり、それから2度と釣り糸が体に絡まるようなへまをやらかすことはなかった。






 海の中はいつもと変わりないが、どうやらさっきの小粒の雨が嵐になっているようだ。


 姉たちに見つかると溺れそうな男を探して泳げとうるさいので、見つからないよう今日はどこかに隠れていよう。


 と思っていたらすぐに姉たちに見つかり急かされた。


 琉海はしぶしぶ浜辺付近をうろうろ泳ぐ。


 浜辺に数人の若い男たちがいるのが見えた。


 この嵐のなか荒れた海を見にやってきた馬鹿者だ。


 だいたい海で溺れるなんて不注意な奴が陸の王子だなんてがっかりだ。


 普通王子が姫を助けるもんじゃないのか?


 それが正しい伝説のあり方だと思う。


 せめてこっちが恋したくなるような筋書きにしてほしいもんだ。


 琉海はぶつぶつ文句を言いながら波の影から浜辺を観察していたが、やがて若い男たちは1台の車に乗り込んで行ってしまった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る